第6話 喫煙室
宇多方について語ろう。
桃乃華駅前の商店街に、古びた洋食レストランがあった。昭和の雰囲気を漂わせるレトロな店構えであり、未だに喫煙者用の個室を設けている。
その個室で、ある日、中年男の客が煙草をふかしながら、商談相手を待っていた。しかし、いくら待っても相手は姿を見せなかったらしい。
夏の終りだったが、エアコンが利いていて、個室は快適な温度湿度に保たれていた。店員によれば、中年男が一人きりでいたのは、確かに一時間ほどだったらしい。なのに、死後数年が経ったみたいに、中年男の身体は水気を失っていた。
まるで、ミイラのようだった。
まさか、自分のタバコの煙でいぶされて、「くんせい」になったというだろうか。
当局が解剖を行ったが、原因は不明である。検視官は首をひねるばかりだった。
だが、「宇多方」ではありえないことではない。
第2話「少女」のように、神隠しは時の流れを無にしてしまう。中年男の場合は、時の流れを加速させたのではないだろうか?
後日、中年男の正体が判明した。彼は東京からやってきたジャーナリストであり、何とかして「別界」に潜入しようと画策していたらしい。
もしかすると、そのために「別界」の怒りを買い、処分されたのかもしれない。
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