SS級!? いいえ、師炉極曰く「GかH」だそうです。

 ハッ! いかんいかん、SS級という前代未聞の表記に思わず幼児退行してしまった。とりあえずあのドSメスガキ悪魔が敵なのは間違いない。レベルも凄いことになってるけど、問題はなによりもこの『SS』だ。SSランクなんて人語を喋る敵と同じく聞いたことがない。だが、すぐ隣には我らが師炉極。早速彼に聞いてみよう!


「SSって――」


「GかHだな……!」


 俺と師炉極の発言はほとんど同時だった。


「え、Gランク? そんな低いんですか? 俺の<デバイス>にはSSランクのレベル489って出ましたけど、これってやっぱり故障なんですかね?」


「ああ、間違いない……あいつの装備が装備だからな、俺くらいになると目視でもある程度わかるんだ」


 すげぇ、さすがは英雄、師炉極。彼ぐらい経験豊富だと<ステータススキャン>を使うまでもないってことか。人間性以外はホント頼りになるしそこだけは見習いたいものだ。


「身長、あのウエストのくびれ具合と艶めかしいライン、豊満なボリューム、艶めかしくなだらかな形状、溢れそうなほどのはみ出し感、総合すると間違いなくあの素晴らしいおっぱいのサイズはGカップ、もしくはHカップだ……!」


「は……?」


 今この人、おっぱいのサイズとか言わなかったか?

 いや、そんなはずはない。おそらく、いや絶対に俺の聞き間違いだ。そうであってくれ。じゃないとこの稀代の英雄はめちゃめちゃかっこいいキメ顔と声音でめちゃくちゃカッコ悪いことを臆面もなくほざいたことになる。そんな英雄、イヤすぎる。


「あの~、GとかHとかってなんですか……?」


 おそるおそる聞いてみた。否定してくれ師炉極……! 俺の憧れた英雄がダンジョン内で得体のしれない敵と遭遇してまずすることが胸のサイズ確認なんて、そんなわけないよね? そんな英雄いるわけないよね?


「ん? おっぱいランクに決まってるだろ? それ以外にあるか?」


 ダメでした。やっぱり胸の話してました。つかおっぱいランクってなんだよ。カップ数のことをランクって言うなよ。優劣をつけるなよ。ホント、サイテーだなこの人。そんなデリカシーのないこと言ってるといつかSNSで大炎上するぞ。ほら、既にもう背後で怒りの炎をメラメラと立ち上らせてる奥様と呆れ果てて頭を抱えている愛娘が見ていますよ?


「あの……それはどーでもいーんで、できれば肝心の敵のステータスがどんなもんか教えて欲しいなぁって」


「ん? ああ、そっちか……そうだなぁ、ま、一言で言うならヤバい……かもな? マッチョくん、ここは俺と小百合子に任せてもらう。君と勇魚は――」


「なんか楽しそうだね?」


 さっきまで上空にいたはずのメスガキ悪魔の声がすぐ傍で聞こえた。俺は驚き、声の方へ振り向こうとした瞬間、師炉極に突き飛ばされていた。派手に後ろに吹っ飛ばされて尻もちをついた。すぐに顔をあげると師炉極とメスガキ悪魔が鍔迫り合いを繰り広げていた。しかもなんと師炉極の剣に対してメスガキ悪魔の得物はあの鞭だ。ダンジョン内はファンタジーの極地だから剣と鍔迫り合いできる鞭があっても不思議じゃないが、実際に目の当たりにするとミスマッチ感が凄い。


「楽しそうに話してたから気になっちゃって来ちゃった! アハッ! アタシもまーぜて?」


 無邪気に笑うメスガキ悪魔。見開かれた双眸が純粋な狂気に輝いている。邪気のなさ過ぎるのが逆に邪悪だ。


 怖ええ……怖すぎる……! 何が怖いってあのメスガキ悪魔の疾さだ。はっきり言う、俺にはヤツの動きが全く見えなかった。ヤムチャ視点って体験するとこんなに怖いんだ……。もしかしてあのメスガキ、奥歯に加速装置でも仕込んでたり? または時間系のスタンド使いとか? 俺はスタンド使いじゃないんでこんなヤベーヤツとは引かれ合う理由がないんだけどな。


「悪いなお嬢ちゃん、このパーティは四人用なんだ。だから君は必然的に俺たちのやられ役になるんだがそれでも構わないか?」


 余裕の口ぶりのはずなのに、師炉極の額には汗が浮いている。心なしかいつもの微笑も張り付いたように固い。これってひょっとして……かなりマズい状況だったりする……!?


「アハッ! おじさんイケズなんだぁ~! でもアタシ、そういうのも意外と好きかも! もっと好きなのはそういう自分を強いと勘違いしてるおじさんに、世の中にはもっと強くて怖いのがいるってことをその身体と記憶に痛いほど刻みつけてアゲルこと! ねぇ、おじさん、ホントの痛み、アタシが教えてあげよっか!? 意外と気持ちイイかもよッッッ!!!!」


 メスガキ悪魔が叫び、鞭を振り抜いた。押し負けた師炉極が派手に弾き飛ばされた。

 あ、あの師炉極が鍔迫り合いで競り負けた……!? あの英雄が、S級モンスターすら一瞬で葬り去ったあの師炉極が……!


「きゃハッ! これ、どーだッ?」


 メスガキ悪魔は手をサッと振ると、そこから師炉極に向けていくつもの黒い刃状の魔力片が放たれる。師炉極はそれを剣で弾き飛ばす。


「アハーッ! きゃアーッハハハハァァー!!! おじさんスゴい必死! もっとガンバれ! ガンバれ! 必死な姿晒して、アタシをもっと感じさせてェーッッ!!!」


 空気を掻くように幾度となく手を振るメスガキ。掻くごとに放たれる黒い刃を師炉極は剣でひたすら防御一辺倒。戦いは一方的な様相を呈している。


 マジか……あの師炉極が……負けるのか……!? 俺の憧れた英雄が俺の目の前で……。俺は目の前で起こっていることが正しく認識できなかった。信じられないし信じたくなかった。絶望感と恐怖とショックで俺はただ二人の戦いを呆然と見つめること以外にはなにもできないでいる。


 メスガキ悪魔の側面から勇魚が斬りかかった。


「ハァーーーッッ!!! <残月斬>!!!」


 Bランク剣術スキルを放つ、が、メスガキ悪魔に片手で軽々と受け止められてしまった。


「今イイトコなの。オトナ同士のお楽しみにおこちゃまはお邪魔でしかないのよね~? わかったら、あっち行ってなさい♪」


 勇魚の剣を受け止めたその手から赤黒いオーラが迸り、勇魚を襲う。


「きゃあああああ………………!」


 勇魚の身体が、風に吹かれたゴミ屑のように軽々とぶっ飛んだ。


「勇魚っっ!!!」


 考えるより早く身体が俺の筋肉が反応する。今まで固まってしまっていたのが嘘のように、俺は剣を捨て勇魚に向かって跳躍していた。たった一跳躍で充分だった。それだけで空中の勇魚に追いつき、彼女の身体をしっかりと優しく抱きとめ、そのまま宙でクルリ一回転、無事着地できた。

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