<魔力無能症>かと思ったら実は<ユニークスキル>でした。スキル名は<魔力筋>。ついでにクラスは『筋肉』……うん、ダサいね!?

 『ダンジョン攻略研究調査室』に拉致られて一週間、俺は一献寺香良の手によってあらゆる検査を施された。


 尿、便から始まり、血液、髄液、とあらゆる体液を取られ、睡眠時と覚醒時の脳波にCTとMRIまで受け、筋電図、心電図と、病院で受けられるありとあらゆる検査に加え、より高度な機器を使ったステータスとスキルの精密な再チェックを受けた。


「驚くべき結果が出たよ……!」


 拉致初日と同じあの部屋に呼ばれた俺と勇魚の前で、いつにも増して興奮気味の一献寺香良はプロジェクターのスイッチを入れた。


「これが君の真のステータスだ……!」



 能見琴也


   レベル:18

   クラス:筋肉

 ステータス:異常なし


    体力: 99221138

  スタミナ: 88793224

    魔力:        0

 物理攻撃力:100065437

 魔法攻撃力:        0

 物理防御力:103690002

 魔法防御力:        0


   スキル:<魔力筋マジカルマッスル> <龍殺しドラゴンキラー



 ……。


 え、なにこれ?

 『クラス:筋肉』ってなんだよ。

 <魔力筋>ってなんだよ。

 まったく意味がわからない。

 そんなクラスもスキルも、見たことなければ聞いたこともない。


 ひょっとして俺、バカにされてるのかな? イジられてるのかな?


 隣の勇魚をチラッと見た。勇魚がクスッと笑ってた。そりゃ笑うよな。だって『クラス:筋肉』だもん。ふふっ、意味わかんなくてたしかにちょっとおもしろい。俺だって自分がイジられてなかったらもっと笑ってたな。


「驚くべき結果って、この『筋肉』がですか?」


 一応聞いてみた。隣で勇魚がふっと笑いを押し殺した。くそぅ、他人事だと思って笑いまくりか? 勇魚だから許すけど、これがグラだったら全力筋肉デコピンをお見舞いしているところだ。


「そう、それだよ! 能見くん、君の<魔力不能症>は誤診なんだ! 精密検査の結果、君の<魔力不能症>の真の正体は世界で唯一のスキル、つまり<ユニークスキル>だったのだよ! おめでとう! 心から祝福するよ! 筋肉に拍手!」


 タンバリン持ったおサルのおもちゃみたいに派手な動きで拍手する一献寺香良。なんかものすごくバカにされてる気分だ。


「あの、バカにしてますよね? いくらマッチョでもいい加減にしないと怒りますよ?」


 俺は机をそっと叩いて抗議した。前みたいに粉々に壊さないように気をつけた。

 さすがに近頃はこの筋力も慣れてきて、いい感じに制御ができるようになった。これができないと危うく人間すら壊しかねないので、マッチョは常人より注意が必要なのだ。


「何をそんなに怒っている? <ユニークスキル>の何がそんなに気に食わないのだ?」


「気に食わないも何も、そんなインチキでバカみたいなスキルあるわけないじゃないですか。どーせ俺をおちょくるためにテキトーにでっちあげたんでしょ? こんなくっだらないことのためにわざわざ呼び出して、あなたも相当暇なんですね」


「ああ、なるほど、君は私がふざけていると思っているのだね? だがそれは大きな間違いだ。たしかに新発見のクラスやスキルには便宜上の呼び名が必要なため私が名付けさせてもらったが、クラスもスキルも本物だ。君は正真正銘<ユニークスキル>の数少ない所持者になったのだ。誇りたまえ」


「能見くん、さすがのあの人でもそんな悪ふざけはしないわよ」


 笑いながら勇魚が言う。


「勇魚くんの言う通りだ。第一私にそんなことをしている暇はない」


 ということはマジ……!?

 俺、ついに<ユニークスキル>持ちになったの!?


 <ユニークスキル>は冒険者の憧れだ。<ユニークスキル>は例外なく強力で、なおかつレアだ。憧れない理由がない……、


 はずなんだけど、それが<魔力筋>じゃなぁ……。


 いや、嬉しいよ?

 嬉しくないわけないよ?

 でも名前がさぁ……ね?

 正直に言うと、ちょいダサいよね……。

 もうちょっとかっこいい名前が良かったってのが本音だ。 


 クラスも『筋肉』だしさぁ、いや、こっちに至ってはダサいを通り越して意味がわからない。なんだよ『筋肉』て。

 徹子の部屋でトットちゃんに「あなたクラスは何なのかしら?」って聞かれて『筋肉』ですって答えなきゃならんの? ふふっ……いや、笑えないよ。めっちゃくちゃバカみたいで恥ずかしいんだけど。


 ま、贅沢は言ってられないよなぁ。

 あんまりかっこよくないけど、一応<ユニークスキル>なんだし。強力なのは間違いないと思うし。

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