初めてのダンジョン攻略編
『ダンジョン攻略研究調査室』
マッチョ銃殺事件
『廃ダンジョンドラゴン出現事件』のおかげで
この前例のない事件は夕方のニュースで大々的に報道された。
今も両親と一緒に食卓を囲みながらテレビを見ていると、テレビ画面にうちの学校と、立入禁止の張り紙とロープが張り巡らされたモノリスと厳重警備中の警官数名が映っている。
「お~! 琴也の学校映ってるぞ! ほれほれ、見てみろ! 凄いな~!」
「あらあら、本当に琴也の学校ですねぇ。琴也は映ってないかしら? インタビューとか受けなかった?」
両親は俺以上に興奮している。
まったく無邪気な人たちだ。自分たちの息子が直接巻き込まれた一番の当事者だってのに、よくそんなにはしゃげるもんだ。
一応、先生から一年C組クラスメイトの各家庭に説明がされている。
だが、おそらく単純な概略しか説明されていないのだろう、多分『廃ダンジョンでの授業中にドラゴンが現れたが、クラスメイトは全員無事に脱出できました』的な。
だから両親は俺がドラゴンを倒したことを知らない。
俺も話すつもりはなかった。なんというか今になっても、むしろ時間が過ぎたことで自分のやり遂げたことが素直に信じられなかった。現実感がないのだ。
マンポテンツ(笑) が筋トレだけでA級モンスターのドラゴンを倒しました、こんなめちゃくな話、誰が信じられる? 当の本人の俺でさえちょっと信じがたい。冷静に考えると、んなアホな、と思ってしまう。
あの事件はやっぱり白昼夢だったんじゃないか?
もしくは集団幻覚でも見たんじゃないかしらん?
じゃないと、俺があの勇魚 (さっそく下の名前で呼んでみたりして)と仲良くなるなんてありえないような気がしてしまう。
「ま、まぁそれとしてだな、ともかく琴也が無事でよかったよかった!」
「そうですねぇ、本当によかったですねぇ。命あっての物種と言いますからねぇ」
俺の沈黙に両親が何かを察したのか、急にそんなことを言い出した。親に気を使われすぎるのもそれはそれで気持ちが悪い。
「そんな気を使わなくていいよ。俺はなんともないからさ」
「そ、そうか? じゃあズバリ聞いていいか? ドラゴンってどうだった!? ヤバかったか!?」
「どうやって逃げてきたの? 戦いの最中、隙を見つけて? それとも気付かれないように抜き足差し足忍び足? 四方六方八方手裏剣? 変わり身
たしかに気を使わなくていいとは言ったけど、だからって詳細を根掘り葉掘り聞いてくる親がいるか? いや、ここにいるんだけどさ。つか母よ、俺のことを落第忍者でも忍者戦隊とでも思っているのかい?
うちの両親は能天気で悪い人じゃないとは思うんだけど、ちょっとデリカシーに欠けるところがある。息子が生きて帰ってきたんだからそれでいーじゃん、と単細胞的に思ってるんだろうな。
「皆で戦って、最終的には俺がぶん殴って倒した」
俺は端的かつ的確にあらましを語った。
「は、は、ははははははは!!!! あっはははははは!!!! 琴也、お前いつからそんな冗談を言うようになったんだ!? 父さん感心したぞ~!!」
「おほほほほほほ! 琴也ったらお上手ねぇ~。琴也が面白い子に育ってくれてお母さんはとっても嬉しいわ。おほほほほほほ!」
あははは。面白いのはあんたらだよ。
うん、まぁ、信じてもらえないよね。ま、俺だって未だどこかで疑ってるもんな。あれはひょっとして夢だったんじゃないかって。
筋トレしてムキムキマッチョマンになったらドラゴンすら一撃でした、なんてどこのラノベって展開だもんな。
両親の馬鹿笑いが響く明るい食卓、それもまぁ、悪くはない……のかな? シリアスで暗い食卓よりはマシだろう。
翌朝、なにやら家が騒がしかった。
あんまり騒がしいもんだから目が覚めてしまった。スマホを確認するとまだ午前六時。普段より一時間も早い起床だ。
本来なら貴重な睡眠時間を稼ぐために二度寝と洒落込むのだが、あんまりにも騒がしくて眠れそうにない。パトカーの音がする。
近隣で何かあったのだろうか?
事件発生?
そう思っていると、玄関で両親の怒鳴るような、叫ぶような大きな声が聞こえてきた。
一体何が起こってるんだ?
なーんか非常にイヤな予感がする……。
どたどたと足音が近づいてくる。階段を登ってきた。俺の部屋の前まできた。両親の声が明瞭になる。
「お前ら、息子に手を出すな~! 息子ー! 琴也ー! 早く逃げろー! こいつら未来からの暗殺者だー! スカイネットだー!」
「琴也ー! Xファイルがあなたを嗅ぎつけたわ! 政府に改造されちゃうー!」
またもや両親が意味不明なことを叫んでいる。
両親が言うようなSFな事態が起こっているとは全然思わないが、何かが我が家で起こっていることは充分にわかった。だが何が起こっているかは見当も想像もつかない。
どうしたものかと考えているうちに俺の部屋のドアががちゃりと開けられた。
そこに現れたのはメン・イン・ブラック……みたいな黒服の二人組みだ。
浅黒いのと色白のコンビは二人とも体格が良い、が、体格なら今の俺のほうが圧倒的に分厚くモリモリなのでビビる余地はない。コンビは共に真っ黒なサングラスを掛け、いかにも秘密組織のエージェントという雰囲気を怪しいほどに醸し出している。
「君は能見琴也くんだね?」
黒いのが言った。
「あ、はい、そうですけど、あの、どちらさま……?」
「私たちは政府組織の特別エージェントだ。君は今、法の保護外にある。大人しく我々の言うことを聞いてくれれば、決して手荒な真似はしない」
今度は白いのが言った。
「えっ……え……?」
頭がまだ寝ぼけているせいか、相手の言うことが全くわからない。
政府の特別エージェント?
法の保護外?
なんのこっちゃ?
SF脳は両親だけで間に合ってるんですけど。
わけがわからずにフリーズしていると、突然黒いほうが懐から消音器付き拳銃を取り出した。いくら俺がマッチョでもそれはさすがにビビる。
ギョッとしていると、
プシュッ!
まさかのまさか、問答無用でトリガーを引きやがった。さすがの筋肉も寝起きの不意打ちには対処できなかった。つーか、手荒な真似はしないとは一体なんだったのか?
「き、琴也~~~!!!」
「琴也ちゃん~~~!!!」
両親の大狂乱が遠くに聞こえた。既に俺の意識は失われつつある。
ああ、とても眠い。銃で撃たれるとこんなに眠くなるのか……しかもやすらぎすら感じられる……これが死か……。
寄生獣のイギーみたいなセリフだなぁ……あ、イギーはジョジョか……。
意識がぷっつり切れた。
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