【筋肉で】能無しなら脳筋になるしかねェーだろッッッ!!! ~スキルが使えないのでひたすら筋トレしてたらいつの間にか最強になってました~ 【全て解決】

摂津守

プロローグ 無能から筋肉への覚醒め編

【悲報】俺、無能だった【終わったわ】

 世界にダンジョンが出現したとき、同時に人類は<魔力>に覚醒めざめた。

 それまで築き上げてきた人類の叡智である科学技術はダンジョンの魔物に対して全く効果がなく人類は未知なる力、<魔力>に活路を見出さざるを得なかった。

 それは正しかった。

 やがて人類は<魔力>から魔物への対抗手段となる<スキル>を編み出した。


 人は遅くとも十五歳までに魔力に覚醒する。才能に個人差はあれど、基本的にはほぼ全員に備わっている……、


 なんだけど、


「まことに残念で非常に申し上げにくいのですが能見琴也さん、あなたは<魔力不能症>です」


 目の前の薄毛の医者が心底申し訳無さそうに、憐れむような目でそう言った。


 えっ、マジ……? ウソ? ホント?


 俺の頭はフリーズした。<魔力不能症>?

 俺が?

 それって何百万人に一人の珍しい体質だろ?

 宝くじが当たるよりレアのやつでしょ?

 で、俺がそれになっちゃった?

 宝くじは当たらないのに?

 ま、宝くじ買ったことないけど。


「あの、それって……」


 思わず聞いてしまった。でも本当はわかってる。魔力不能症がどんな体質なのかそんなのはとっくにわかっている。だけど頭と心が受け入れられない。


 俺の夢は<ダンジョン冒険者>だ。読んで字の如し<ダンジョン>を冒険する職業だ。


 ダンジョンの冒険は遊びじゃない。今も世界を侵蝕しつつあるダンジョンの攻略は全世界を挙げての一大事業であり、簡単に言うならそれこそ世界を救う大事な仕事だ。我が国日本において上級冒険者はなんと国家公務員である。


 それだけに人気の職種だ。ダンジョン冒険者という職業が生まれてから『子どもたちの将来なりたい職業』と『結婚したい相手の職業』の第一位の座をずっと維持し続けている。


 つまりダンジョン冒険者は誰もが憧れる羨望の的であり、多くの子供達の夢なのだ。

 そして、それは俺にとっても……。


「ご説明いたします。魔力不能症というのはですね――」


 薄毛の医者はわざわざタブレット端末で俺のステータスを表示して見せた。



 能見琴也


   レベル:1

   クラス:―――

 ステータス:異常なし


    体力:       11

  スタミナ:        9

    魔力:        0

 物理攻撃力:        8

 魔法攻撃力:        0

 物理防御力:        5

 魔法防御力:        0


   スキル:<魔法不能症>



 笑えないほど見事なクソステだ。こんなんじゃスライム一匹狩れやしない。

 イヤになるほど見てきたステだが、今までは『まだレベルが1なだけ』とか、『魔力に覚醒めてからが本番』とか自分に言い聞かせて自分自身を慰めることができたが、これからはそれができない。


 なんせステータスの0の部分、魔力に関する部分が俺の場合、一切伸びる余地がないのだから……。


「残念ながら魔力関連ステータスがこれから伸びることは一切ないでしょう」


 薄毛医者の言葉に、頭を鈍器で滅多打ちにされるような衝撃を受けた。

 覚悟していた言葉でも、いざ他人の口から聞かされると酷くショックだった。


 魔力不能症は魔力が一切無い体質だ。

 早い話がスキルが全く使えない。

 スキルが使えないんだから<ダンジョン冒険者>になるなんてもってのほか。

 猟銃が打てないのにマタギになるようなもんだ。


 <魔力不能症>の診断がくだされたが最期、もう<ダンジョン冒険者>にはなれない。


 つまり魔力不能症はダンジョン冒険者の欠格事由の最たるもの、というわけだ。


 診断は俺にとって死刑宣告に等しかった。物心ついた頃からの夢が一瞬にして、それも驚くほどあっさりと断たれてしまったのだから。


 ちなみに治したり改善したりする方法は今のところ世界のどこにもない。身長とか頭の良さと同じでどうしようもない先天的なものだ。


 科学じゃ手の施しようがないので、できることと言ったら神に祈るくらいか。

 だけど神に祈って良くなったというエビデンスもないから、神頼みも全くの無意味で無駄なあがきでしかない。マジで詰んでる。


 ちなみに魔力不能症のことをマンポテンツという(笑)


 魔力的不能者……スキルが起動たないふにゃふにゃ野郎……ふふっ……いや、ぜんっぜん笑えない。

 これが他人のことならまだしも、いざ自分に降りかかると悪い冗談どころの話じゃない。

 悪夢だ。永久に覚めない生々しいまでのリアルな悪夢。


「どうかお気を落とさず、命に関わるような病ではありませんし、健康には何の問題もないのですから、病とすらも言えません。<スキル>以外の他のことは何でもできますから、お気を落とさず前向きにお考え下さい」


 薄毛の医者のありがたいお言葉はなんの慰めにもならない。それどころかなんかムカついてきた。


 なんだこのハゲ、いたいけな少年を絶望の淵に叩き落とすのがそんなに楽しいのか? 性格悪すぎない? これだからハゲは嫌なんだよ……うん、ただの八つ当たりだ。

 どう考えても性格が悪いのは俺の方だ。医者にはなんの罪もない。罪もないのにハゲという罰を受けているんだから、この医者もある意味俺と同類だ。


 あ~あ……<ダンジョン冒険者>になってバリバリ世界に貢献したかったなぁ……。

 んで、モテまくりの稼ぎまくりで、美人と結婚して誰もが羨む人生を送りたかったなぁ……。


 さようなら俺の夢、ダンジョンに潜り、魔物たちと戦い、仲間と過ごす熱い青春の日々は叶うこと無く、スタート前の準備体操で盛大に躓いて儚く散った。もうなんの希望も残っちゃいない。


 終わったわ

 俺の人生

 終わったわ


 琴也、心の句。

 よりだな、これじゃ。


 世の中にはどうにもならないことがあるって?

 んなことわかってる。医者がハゲなのと同じってわけだろ?

 現代医学じゃどうしようもないことがこの世にはたくさんある。そんなことはわかりきってるよ。

 痛いほどわかってるけどさ……納得できるかは別問題じゃない……。


 まだショックから立ち直れないフラフラの頭で俺は診察室を出た。そこから帰宅するまでほとんど記憶がない。頭にもたげた絶望が思考も気力も奪ってしまっていた。

 あ、帰りに醤油買ってくるの忘れた。いーや、面倒クセェ。わざわざ買いに戻る気も起こらない。


 魔力不能症は十五歳の少年にはあまりにも重い。

 つい昨日まであった未来への希望とか夢とかどっか行っちゃって行方不明。代わりにあるのは鬱気分。あー、マジで死ねるわ。憂鬱だわ。ダウンに浸るしかねーわ。


 最低最悪の気分のまま、道中何度もはぁーっとため息を連発しつつ、なんとか自宅に帰ってきた。玄関を開けると、両親がリビングから飛ぶようにやってきた。


「ど、どうだった?」


 親父が心配して聞いてくるが、俺はなんにも言えなかった。マンポテンツ(笑)は字面も発音も面白いのに、今は言葉にするのも辛い。


「そ、そうか……でもな、死ぬ病気じゃないんだ。だから……気を落とすなよ……」


 何も言わなくてもしっかりと伝わったらしい。両親の察しの良さに感謝だ。


「お腹へったでしょ? 夕ご飯の用意するね」


 母の言葉に俺は首を振った。


「今日はいらない」


 もはや食欲すらわかなかった。何もする気が起きない。俺はそそくさと二階の自室に入った。


 その日はほとんど呼吸以外のことをしなかった。飲まず食わず、ときどきトイレに行って、あとはベッドでボケーッとしていた。


 そうするしかなかった。何をする気にもなれない。虚無感と絶望感と行き場のないイライラに襲われ、動くことすら億劫で、ホントもうどーしようもない。


 生ける屍ってこういうことなんだろうな。妙な納得感。心臓は動いている、呼吸もある、でもなーんにもしたくない。

 したいことはダンジョン冒険だけどそれはできない。マンポテンツだから(笑) ハハッ、だから笑えないって……。


 その日の夜はそのまま寝てしまった。

 朝起きて、やっぱり何もしたくなかった。

 どうせ俺は<魔力不能症>のマンポテンツ(笑)

 夢破れた価値無し男。

 無能のダメダメくん。

 今の俺は呼吸だけで精一杯さ。


 なんでよりによって俺が魔力不能症なんだよ。

 俺が何したって言うんだよ。

 神様、いるなら教えてくれよ。

 俺の何が悪かった?

 悪いところがあったなら言ってくれよ、直すからさ。

 神様からの返事はない。


 そりゃそうだ。魔力不能症に神頼みは効かない。

 そもそも神様って存在するのかな? いるならきっと嫌なヤツだ。俺のようないたいけな少年にわざわざ酷い嫌がらせするんだから……。


 この日から俺は引きこもりになった。

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