第3話 第1階層

ー第1階層ー


2人は門をくぐると光に包まれた。やがて光が収まり、恐る恐る目を開けると、そこには豊かな自然が広がっていた。緑は生き生きとし、蝶が舞っている。そして、塔の中にも関わらず青空が広がっており、まるで屋外にいるようだった。


「久しぶりだね第1階層」

「そうだな」


背後から駆け寄ってきたシノがカインに声をかける。カインが振り返ると、シノの手にはぐったりとしているツノの生えたウサギが握られていた。


「今日のご飯確保できたよ! 幸先いいね」

「…」


昔からシノは動物をすぐ狩ってきた。孤児として外で生きていた時も、訓練でこの第1階層で1ヶ月間野宿生活をした時もだ。シノは食べることが大好きであり、とにかく食べ物という観点において妥協はしなかった。シノは鼻歌を歌いながらバックパックにツノウサギを結びつける。可愛らしい見た目と違って中身は野生児に近かったのだ。


「...先に進むぞ」

「そうだね」


カインは相変わらずのシノにため息をつき、足を進めた。第2階層に進むための門は第1階層の中心部にある。羅針盤タクトで地図を確認しながらその門を目指す。第1階層は天魔はおらず、せいぜいツノウサギのような害のない弱い魔獣ぐらいしかいない。訓練で過ごしたことがあることも相まって、順調にいけば1週間も経たずに次の階層に移動できるだろう。


道中にはツノウサギや現実で見たことないような、カラフルな鳥などに出会ったが特段危険なこともなかった。


その後2人は順調に歩き続け、日も落ちてあたりが暗くなったところで歩みを止めた。川のそばの少し開けた場所だ。


「今日はここでストップだ」


カインはそうシノに言うと荷物を下ろして、腰に差してあった銀の弾丸シルバーバレットを取り出す。彼がそれを手に握り力を込めると、みるみるうちに赤く輝き形を変え、刀の形になる。枯れ枝の山にその刀を突き立てると炎が上がり、あっという間にあたりは明るく照らされた。


銀の弾丸シルバーバレットはその契約者によって形、力を変える特別な武器であり、契約者の血液によってその能力を発動させることができる。銀の弾丸は楽園アヴァロンで採取できる鉱物から作られており、天魔という楽園の化け物を倒すことができる武器だった。


カインの銀の弾丸は炎天えんてんと呼ばれ、その姿を刀に変えて炎を操る力を持っていた。


焚き火が安定してきた頃、川でツノウサギを捌いていたシノが鍋に肉を入れて戻ってきた。鍋を火の上に組まれた木の上に置き、野菜や香草を手際よくナイフで切って鍋のなかに入れていく。ぐつぐつと音を立てて肉や野菜が煮えている。カインはシノが料理をしているところをじっと見ていた。


「今日は何の料理だ?」

「出来てからのお楽しみだよ」


シノはバックパックの中から小さな袋を取り出すと、鍋の中に袋の中身をサラサラと入れてぐるぐるとかき混ぜる。すると、鍋の中のスープは白くなりとろみを帯びた。カインはそろそろ料理が出来上がる頃合いだと考え、折りたたみテーブルと椅子を用意する。シノは木の器にスープとパンを盛り付けて彼の前にコトリと置いた。


「おまちどうさま!ツノウサギのホワイトシチューだよ」


湯気の立つ器からはいい匂いがし、カインの喉がごくりと鳴る。2人は席に座ると、手を合わせて「「いただきます」」と言い、熱々のシチューに口をつけた。


「うまい」

「ふふふ良かったー」


熱心にシチューを頬張るカインを見てシノは嬉しそうににっこりと微笑む。シノは食べるのが好きなだけあって、料理もとても上手だった。いつも孤児の子ども達に炊き出しをしており、その味は好評だった。食べ終わると洗い物を済ませ、2人は寝床を整えて仰向けに寝転ぶ。塔の天井にはまるで本物のような星空が広がっている。


「いつ見ても不思議。本当に建物の中なのかな」

「変な力が働いてるんだろ。魔獣とか天魔とか変なのが色々いるし」

「確かに」


楽園の月は青白く、仄かに2人を照らすのだった。

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