異端のアヴァロン
物部ネロ
第1話 プロローグ
『昔あるところに遠方から
すると楽園の奥から現れた1人の美しい女性が青年にルビーのように赤く輝く”禁断の果実”を渡した。その実は楽園の最深部にある果実だと女性は告げた。
そしてそれを食べた青年は人智を越える力を手にし、楽園から出た後、その周りに国を創り、初代皇帝になったのでした。めでたしめでたし_____』
この伝説に登場する国、エイデン帝国はエーテルという魔術エネルギーを原動力とした工業が発展した強大な国である。そして貿易の中心地としても栄えており、人の行き交いも盛んだ。
エイデン帝国の中心部には
昔、この国の皇帝はある勅令を出した。
「楽園最深部にて伝説の“禁断の果実”を見つけたものには我の財宝の全てをくれてやる」
それを聞き、人々は夢を抱き、歓喜した。その楽園に富と名声を求め数多の
そしてある若者たちも同じく、楽園を目指し旅立とうとしていた__
小柄な青年が癖っ毛でくるくるした灰色の髪を雑に洗面所の鏡の前で撫で付ける。鏡に映る彼の橙色の目には覇気はない。
男は洗面所を出ると、壁にかけてあった彼の身長にはあまりにも大きいコートを羽織り、腰にホルダーを装着する。
そして、机の上に置いてあった、朝日を受けて光り輝く銀色の銃をホルダーに差し込んだ。
『コンコンコン』
と控えめに自室の扉を叩く音が聞こえたので、青年はツカツカ歩いて行って扉を開けた。
「おはよ、カイン」
扉の前にはカインの数少ない心を許した相手が立っていた。
花を綻ばせたかのような可憐な笑顔をしつつ小首をかしげると、肩まで伸びたふわふわした白髪が揺れる。
「待たせたなシノ」
「ううん、時間通りだよ。じゃあ行こっか」
2人で並んで古びたアパートの廊下を歩く。彼らは孤児であり、かつて裏路地で生活していた時に出会ってから、今まで一緒に育ってきた家族同然の存在である。
シノの腰のホルダーにもカインのように銀色に輝く銃が収められている。この銃、
そして今日、2人はこの家を出て、富を得るために
「この古さも見納めだね」
「ああ」
列車に乗るべく駅に向かうため、路地裏を抜けようとすると、孤児の子どもたちが彼らのもとに集まってきた。
「お兄ちゃんたち本当に行っちゃうの…?」
「楽園は危険なんだよ?オレのお兄ちゃんも楽園に行ったまま帰ってこないし...お兄さん達も居なくなるなんて嫌だよ」
シノは目を潤ませて今にも泣き出しそうな子どもの傍にしゃがみ込み、頭を優しく撫でて語りかける。
「うん、ボク達はもう決めたんだ。財宝を手に入れられれば、もっとみんなも幸せに暮らせる。綺麗で大きな家で、孤児のみんなで一緒に暮らすんだ」
幼い子ども達がカインとシノ元にやってきて、ペンダントをずいと渡してきた。
カインのペンダントは夕焼けのような橙色で、シノのものは澄み渡った空のような青色だった。それは、各々の瞳をそのまま写したかのような綺麗な色だった。
「これ、お守り…僕たちでお小遣いを貯めて買ったんだ。特別な力があるんだって」
「お兄ちゃん達、絶対帰ってきてね。それでまた遊んでね」
子ども達の真心に触れて心が温かくなると同時に、その真心は2人を必ず
「お守りありがとう、とっても嬉しいよ…。約束する、ちゃんと2人で帰ってくる。だってほら、みんなボクとカインは強いって知ってるでしょ」
「…うん!」
長まつ毛を伏せてシノは子ども達に笑いかける。口下手なカインとは違ってシノは人の扱いに慣れていた。カインは子ども達からもらったペンダントを首にかけると、無表情の顔を珍しく優しく緩ませた。
「ありがとなお前ら。ちゃんと助け合うんだぞ」
2人は名残惜しかったが、孤児たちと別れを告げ、路地を抜けた。
このエイデン帝国は貧富の格差が激しい。貧しいものは
そんな自分達と同じ境遇の孤児達を救うため、彼らは危険な楽園へと行くのだ。
「金さえあれば俺たちは幸せになれる。絶対に俺たちで禁断の果実を見つけるぞ」
「もちろん」
2人は不敵な表情をすると、各々拳の形を作り軽くタッチするのだった。
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