エンチャンター、追放されたテイマーに声をかける

フィステリアタナカ

エンチャンター、追放されたテイマーに声をかける。

第1話 エンチャンターと巨乳テイマー

「みんな知っていると思うけど。ごめんなさい。私、このパーティーから抜けます」


「「「「……」」」」


 ギルド特有の匂い、グラスの当たる音が聞こえるなか中、金髪に美しい青い瞳の神官ミディアから、そう告げられた。

 ミディアが聖女だということが判明し、教国とオーラン帝国の政治取引に彼女は巻き込まれたのだ。

 そしてパーティーリーダーの勇者スタロンから


「ミディアがいなくなるのかぁ、ラルフがいなくなればいいのに」

「スタロン、どういう意味だ」

「お前、目障りだし、戦力にならないから、いらないって意味だよ」

「お前、勇者だからって、勝手過ぎるだろ」

「そんなことないぞ。ほら、2人だって」


ミディアを除いたメンバーは、僕に冷ややかな目線を送ってきた。


「はっきり言って、足手まといなんだよ」

「そうか……、ルルミアに戻るのか?」

「そうだな、新しく神官を探すの面倒だから、あのジジイに頼んでみるよ」

「国王陛下だ」

「お前、そういうところが目障りなんだよ」


(話にならない、昨日のことも許せんし)


◇◆◇◆◇


昨夜


「やめて、やめてってば」

「おめぇ初めてなんだろう? いなくなる前に、一緒に気持ち良くなろうぜ」

「やめて、ホントに、離し……」

バチン

「ちょっと、黙ってろって、誰か来るだろ」

「うぅぅ、誰か……。あっ! そこはダメ、ホントやめて、いや」


コンコンコン


「ラルフだ。スタロン、入るぞ」

「今、忙しいんだ後にしてくれ」

「急用だ」


(声が聞こえてきたと思えば、やはりな)


 宿屋にあるスタロンの部屋に入ると、そこには衣服が乱れ、大事なところが見えているミディアと下半身丸出しのスタロンがいた。


「おい、ラルフ! 邪魔すんじゃねぇよ」

「今度のダンジョンアタックの確認したくてな」

「ふざけんな!」

(これは避けない方がいいだろう)

ドッ

「あーあ、興がさめちまったぜ。ラルフ、金出しな」

「あぁ、娼館に行くんだろ」


 持っていた銀貨を弾きスタロンへ渡す。

「ちっ」

 スタロンが服を着て、宿屋から出るのを確認して、僕はミディアに声かける。


「ミディア大丈夫か」

(って大丈夫じゃないよな)


 僕は着ていた上着を脱ぎ、彼女にかけて、泣き終わるまで胸をかした。


◇◆◇◆◇


 スタロン達がいなくなった後、ギルドにあるデーブルに僕とミディアは残り

「ラルフ、ごめんね」

「しょうがないよ、命令だから」

「うん。あ、あのね。もし良かったら手紙くれないかな?」

「総本山宛でいいんだよね? 検閲とかで引っかからない?」

「うん。ラルフから来たのは直接、私に渡しなさいって言うから」

「わかった。いつ旅立つの?」

「もう護衛が来ているから、お昼を食べたら旅立つの」


 ミディアの悲し気な表情に向かって、僕は作り笑顔をする。


「またね……」

「おう、またな」


 そしてミディアはギルドの外へと去っていった。


(はぁ、一人か……)


 溜息をついて、周りを見渡すと向こうの方から話し合う声が聞こえてきた。


「そんな、トカゲと仔馬と犬っころしか、テイムできない無能はいらないんだよ」

「ベッドの上で慰めてくれるっていうなら考えてやってもいいんだがな」

「そのデカ乳、たっぷり揉ませてくれたらな」

「「「ハハハハハ」」」

「そのくらいにしとけ、行くぞ」

「あばよ」

「じゃあな」


 肩までかかった黒髪の女は男達を睨んでいたが、彼らが去ったあと、俯いてしまった。


(追放か……。まぁ、僕も同じだしな)


 僕は彼女のいるテーブル席へ行き、立ったまま話しかけた。


「お隣いいですか?」


 何もしゃべらなかったが、彼女は泣くのを我慢しているのがわかった。


「僕はラルフ、ジョブはエンチャンター。さっきパーティーから追い出されて一人なんだ。もし良かったら、君のこと聞かせてくれる?」

「ぐすっ、ぐすっ」

 彼女は泣きだした。僕は泣き止むのを待って、ハンカチを渡した。

「ありがとう……」

「いーえ」

僕はかがんで彼女を見る。

「どうしたの? 何か大変そうだけど」

 そう言って、彼女が喋るのを待った。

「あたいね。力が無いの」

「うん」

「今あるお金が無くなったら、物乞いするか、娼館に行くしかないの」

「そうか」

 悲しげなオーラを纏う彼女に僕は提案してみる。

「あれは? 他の冒険者に頼ってみるとか?」

「……、ロクなのいない」

「そうか、君のジョブは」

「テイマー」

「テイマーか」

「うん。あたいの子達、外で待ってくれてる」

「じゃあさ、お試しで良いから僕と一緒にクエストやってみない?」

「えっ」

 彼女は顔を上げて、こちらを見る。頬には涙の跡があった。

「僕も仲間がいなくて困っているんだ」

「……、お願いしてもいい?」

「もちろん、ところで君の名前は?」

「あたいリルル」

「リルルね。早速だけどクエストボード見に行かない?」

「あっ、先にあたいの子達を紹介するね」


 リルルと共にギルドの外に移動すると、ご主人様を待っていた。三匹の魔獣が目を輝かせてこちらを見てきた。


「浮いているのがディル、仔馬がスレイで、モフモフがフェイ」

 ディルと呼ばれた子は蛇みたいな姿に目立たない髭を持ち、浮いている。スレイは頭部に小さな角を持つ仔牛で、フェイはフサフサの毛並みの狼だ。


「ディルとスレイとフェイね。よろしくね」


 三匹は威嚇などまったくせず。僕にやさしい顔を向けていた。


 僕達は初心者向けのクエストを選び、スライム五匹の討伐とゴブリン五匹の討伐へと向かった。

 僕は大きなリュックサックから鞭を取り出しリルルに渡す。

「確かテイマーは鞭が扱えるはずだから、これあげるよ」

「いいの?」

「拾った物だし、いいよ」


 そして、スライム達とゴブリン達に遭遇する。

 ディルは小さな火を吐き、そして吐き、何とかスライムをやっつける。

 スレイはツバをかけると、ゴブリンの動き鈍くなり、そこをフェイが何度も何度も引っ搔いて仕留める。


(うーん、この戦力じゃ、スライムとゴブリンくらいしか倒せないなぁ)


「魔石も集まったし、帰ろうか」

 帰り道は何も起こらず、街に戻れた。ギルドでクエスト終了を報告し、魔石を売る。


「今日はこんなところか」

「うん」

「これじゃ、ご飯代しか稼げないな」

「うん……」

「はぁ」

 溜息をついて、ギルドを出ると男達に声をかけられる。


「よう、嬢ちゃん、しけた顔しているな」

「いい体しているねぇ」

「どうだ、俺達と気持ち良いことしようぜ」

「男はどうします?」

「ボコすに決まっているだろ」

「「へへへへ」」


「スレイにお願いできない?」

 リルルは拳を握りしめていたが、ハッとしてからスレイにお願いする。

 スレイがツバを男達にかけると


「なんだなんだ」

「足が痺れてる」

「腕も痺れてて動かしにくいですよ、ダンナ」

 男達は倒れて、そして起き上がれない。


「フフフ」

バチン

「女王様とお呼び!」

バチン

「女王様とお呼び!」

バチン

「女王様とお呼び!」

バチン


(ヤバい奴に鞭を持たせてしまった)

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