魔法が絶対の国で私は【魔法】が使えない

饅頭

第1話 パートナー


魔法が使える者が絶対の国、マスタグ帝国。

かの国は魔法使いと魔導師によって成り立っている国家であり、ほとんどの者が魔法を使える状態で産まれてくる。

極端な話、魔法さえ使えれば生きていくことが出来る。学校に通ったり、職に就いたりするのを政府側が少なからず援助をしてくれる為、魔法使い自体の失業率はとても低かった。

政府は魔法を扱うことが出来るものを優先的に育て優秀な魔導師にする。そして、それらの者を戦力としたり、国の様々な機関や大企業などで働かせたりして、軍事力・経済力を他の国々よりも上にいくことが目的なのだ。

そんな国でも、稀に魔法が使えない者が産まれてくることがある。

そういった者の扱いはまさに奴隷のようであり、産んだ瞬間から一族諸共迫害や差別を受け、政府からは見放され、まともに学業や就活は出来ないようになっている。

他の国々はマスタグ帝国を前時代的国家やそれらを全て政府が仕組んでいることを理由に独裁国家などと言って馬鹿にしたり、注意をしているが当の本人、というより国はそれを真っ向から否定し、先進的な国だの民主主義国家などと言い張っていて一向に国の体制を変える姿勢は見せない。

この物語はその理不尽な国で魔法が使えない少女が奮闘するお話、、、、。


マスタグ帝国、首都クザリン。その中央部には大きな闘技場があり、そこでは今日、この国で一番上の身分に相当する最高魔導師になる為の試験が行われようとしていた。その受け付け所ではちょっとしたイザコザが発生していた。


「どうして入り口を通してくれないのよ!」


甲高い声と受け付けのテーブルを叩く鈍い音が辺りに響く。通行人や後ろに控えていた人が引きつった目で少女を見る。その声に受け付けを行っていた細身の男は困り果てた顔をしていた。


「ですからねルナさん。受け付けを通して欲しいのなら今この場で魔法証明書を差し出すか、軽く魔法を使ってください。それが出来ないのであればここを通す訳にはいきません」

「何よそれ!訴えるわよ!」

「何処にですか!?しかも訴えても負けるのはあなたですよ?」

「うっさい!うっさい!私を虐めるな!」


何を言っても聞かないルナ。流石に受け付けの男もどうにもならないと思ったのか、声を出し、通行人に助けを求める。だが、通行人の人々はその声を無視する人ばかりだった。

しかし、たった1人の少し背が低く、髪先が紫色で長細い杖を持った少年は、その声に耳を傾け、仲裁に入った。


「どうしたんですか?何かお困りでしょうか?」

「聞いて!この人が私に意地悪するの!」

「嘘言わないでください!」


受け付けの男は、少年にこれまでのことを尾ひれをつけず、真実のまま話した。その間、ルナは少年の体を揺らすなどをして、どうにかして自分の話を聞かせようとしたが、少年の意識は完全に受け付けの男に釘付けになっていた。


「そうゆうことでしたか。それなら僕がこの人をここから離します。ご迷惑おかけしました」


少年はそう言って、頭を下げた。

騒ぎ立てているルナの手を取り、噴水やベンチが置いてある適当に開けてる所で立ち止まった。

ルナは初めこそ状況を理解するのに時間がかかり棒立ちしていたものの、すぐに状況を理解したのか受け付け所の時よりも更に騒ぎ立てる。


「なんで!なんで!どうしてあの場から離したの!」

「なんでもどうしてもないでしょ!受け付けのお兄さん困ってたし、大体あなたね、魔法証明書も持たずになんであの試験受けようとしたんですか!」

「そ、それは私にも色々と事情があって…、と言うか魔法証明書って何?生まれて初めて聞いたんだけど?」


ルナは首を傾げ、キョトンとした顔をした。少年は唖然とした。なんでそんなことも分からないんだ、と思った。

少年は努めて丁寧に魔法証明書の説明をする。


「ま、魔法証明書っていうのは、生まれて初めてどんな魔法を放ったかが書いてある紙ですよ」

「その紙ッキレがどうしたって言うのよ?」

「その紙ッキレが無きゃあの試験は受けれません。それがダメならあの場で魔法を放たなければなりません」

「何よそれ!そんなの理不尽よ!差別よ!」

「あの試験が理不尽!?むしろ良心的でしょうに。身分的な立場で受けれないということはないし、金だってほとんど必要ない。ただ、あの試験で必要なのは強力だったり、汎用性が高い魔法です。その試験で一体何が足りないっていうんですか?」

「……えないの」

「ん?なんて言いました?」

「魔法が!使えないの!」


少年は「はぁ!?」と大声を出した。その声に驚きルナは体をピクッと軽く弾ませる。


「しー!ちょっと声抑えて!周りの人に聞かける!」と大声で言うルナ。

「あなたよくそんな状態で生きて来れましたね、この国で」


その少年の一言を聞くと、ルナは下を向き、俯く。


「生きづらいよ。この国で私みたいなのが生きるのは簡単なものじゃない」

「す、すいません。別に傷つけるつもりは」


少年は身振り手振りで謝った。ルナは特に咎める気などもなく少年の謝罪を受け入れた。

そんなことをしていると1人の高身長の黒色のローブを纏った男が近づいてきた。その男の後ろには二人の男がついて歩いて来ていた。


「カルラじゃないか?どうしたんだ所で?それに、そこの女は?」

「す、少し散歩をしていただけだ。そして、この女の人はトラブルを起こしてたからその場から引き剥がしただけだ。お前には関係ない」


見るからにギスギスとした関係。ルナは気になり、少年に顔を近づけて耳打ちをする。


「しょ、少年この人は誰なの?」

「僕の兄、クロムウェルです。僕はこの地域の貴族の中でも最も上の身分のトーラルト家の者なんです」

「え!?」


ルナは声が裏返った。少年、カルラはその声に驚き少し体を硬直させるがすぐに元に戻す。

ルナとカルラが話していると、放っておくなとばかしにクロムウェルはカルラに話しかける。


「その女がどんな奴かは知らないが、お前散歩なんてしてて良いのか?早くパートナー決めとけよ」

「うるさい。そんなことはわかってる」

「相変わらずのタメ口だな。俺の弟ならもっと可愛げがある感じにしろよ」

「うるさいな。ほんとに」


カルラは大っ嫌いな兄に色々と言われイラついていた。

すると、ルナが目を輝かせて物知りたげにカルラに話しかける。


「ねぇねぇ!パートナーって何?」


こっちは今大事な話をしてるんだ。話しかけないでくれ、と思ったカルラだが、応えない間、ルナがずっと両肩を掴み体を揺らしてくるのでさっさと応えることにした。


「我々の家系、というよりはこの国の貴族の使命は、自分と他の魔法使いと手を組み、その手を組んだ魔法使いを最高魔導師にするという掟みたいなのがあるんです。ですが、僕なんかの落ちこぼれと一緒に組みたいと思う人は1人もいなくて」

「そうゆうことね」


聞いたことを申し訳ないと思ったのか、声を少し低くし、ルナは応えた。気を落とさないで下さい、とカルラは落ち着いた声で言った。

クロムウェルはその雰囲気を無視し、カルラを馬鹿にする。


「まあ、お前みたいな落ちこぼれと組んでくれる親切な魔法使いはいないだろうな。少なくともこの競走率が高い国には」


その一言が逆鱗に触った。本人が自覚していることをわざわざ言う必要はだろうがとルナは思ったのだ。すると、ルナはあることを思いつき、カルラの方を見るや満面の笑みを見せる。その笑顔にカルラは不信感を持った。


「な、なんですか、その笑顔?」

「私がそのパートナーってのになろっか!」

「は、はぁ!?何を馬鹿なことを言ってるんです!?」

「だって、私はあの試験に出て魔導師になりたくて、君は優秀な魔導師を作りたい。目標も似てるじゃない!」

「うぅ、でも僕なんかと組んだら、あなたきっと後悔する。だからやめ…」

カルラ何かを言おうとする前にルナが食い気味に言う。

「うるっさいな!男ならシャキッとする。誰かから組まないか?と頼まれたら素直にそれを『はいよろしくお願いします』と受け入れる!分かった?」

「は、はい!」

「よろしい。これからよろしくカルラ君」

微笑みながらルナは左手を差し出す。分かりました、と言い、カルラは右手でそれを受け取る。

ルナは握手をしながら「これからは敬語禁止で」と言った。

その光景を見ていたクロムウェルは不機嫌そうにこちらを凝視する。特にルナの方を。


「何をしてる。緑髪」

「み、みど。何をしてるって、このカルラという少年のパートナーとなったのです」

「お前見る目ないな。こんな奴と組むなんて」

馬鹿にする笑いしながらクロムウェルは言った。ルナはその笑いが流石に頭に来たのか「クソ男黙ってろよ」と小声で呟く。

その声がクロムウェルの耳に届き、次の瞬間激怒する。


「貴族に向かってその言い方は極刑に値するぞ」

「うっさいな。貴族だろうがなんだろうが私のパートナーを傷つけるのは許さないから!」

「貴族に逆らったらどうなるか思い知らせてやるよ」

そう言ってクロムウェルは、後ろに着いていた魔法使いの1人に指示を出し、ルナの前に立たせた。


「なんの真似です?」

「少しお前には痛い目にあってもらう。この後ろにいる魔法使い達は皆優秀だ。そんぞそこらの底辺魔法使い共とは勝手が違うし、1部の魔導師にも引けを取らないぞ」

「じゃあ、私が今からソイツをボコボコするということですね。分かりました」ルナは敬語を使い挑発する。

「舐めるなよ。クソ女」


イラつくクロムウェルとキレ気味のルナ。

そんな会話をしていると、不安な眼差しでルナとクロムウェルのことを凝視するカルラの姿があった。


「やめてよ兄さん!その人はカッとなっただけなんだ。ここは穏便に済ましてくれよ」

「ダメだ。これは貴族としてのプライドが許さん」

「そんな…」


不安で声が低くなったカルラの背中をルナは、大丈夫ですよ。ここは任せてください、と言って力一杯叩いた。


「やれ!その女に目に物見せてやれ!」

クロムウェルは怒鳴りながら男に指示を出す。


「一瞬で片付けてやる」

ルナはそう言って指を鳴らした。

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