青き日々の読書記録

あおきひび

キノの旅 Ⅹ/時雨沢恵一


『キノの旅 Ⅹ』時雨沢恵一

電撃文庫、2006年


 『キノの旅』との出会いは中学生の頃。学校の図書室に置かれていて、たびたび読み返したお気に入りの本でした。

 素朴な文体ながら、風刺的でパンチの効いた短編シリーズです。そのキャッチーかつ奥深い味わいに、子供ながらに魅了されていました。


 今回読んだのはシリーズ第10作目。今読み返しても、やはりその風刺性は鋭かった。

 改めて考えると、主人公キノが旅人であることにも、語りの上で大きな意味があったと感じます。旅人という「外から来た人」に対して、キノが出会う人々や国々は、彼らの「内側の(当たり前の)(疑われることのない)価値観」でもって応答する。

 そうした展開が、彼らの主義主張を相対化させ、また読む者に対し「彼らのことを君はどう思う?」と問いかけているような、そんな読後感を残します。そんな構造が『キノの旅』の根っこにあるように思いました。


 キノはさまざまな国へと旅していきます。そこで出会う「この国のルール」たちは、時にユーモラスに、ときにぞっとするような皮肉を織り交ぜながら、私たちへと迫ってきます。

 その一方で、主人公キノの視線はあくまでフラットです。キノは食べることと寝ることが何より好きで、しかし敵対者には割と容赦なく発砲します。相棒のエルメス(喋るバイク)と共に、当てもなく旅を続けています。

 キノはどこまでも「旅人」であり「外部の人間」であることに徹しています。どこか平和ボケしたようで、しかし自分を脅かす者には淡々と銃を向ける。そうしたキノの性質もまた、この作品がもつ風刺性の強さに貢献しているのかもしれません。


 10巻収録話では「大ホラ吹きの国」がお気に入りです。数ページの掌編ながら、じわじわくるインパクトがありました。中編「歌姫のいる国」も良かった。

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