第91話 私もいつか

 メグちゃんを預かったのは翌週。

 着替えやお気に入りのおもちゃと共にウチにやってきたメグちゃんは相変わらず笑顔。お母さんとバイバイする際もニコニコしたまま。このまま泣くことなくお泊りが終われば良いな――と思いましたが私が抱きかかえると途端に眉間に皺を寄せ、いまにも泣きだしそうになりました。

 「あ、あのリゼさん……」

 「大丈夫よ。モカと違って人見知りする子じゃないから」

 「で、でも……」

 「将来の練習と思えば良いわよ。それじゃ、メグ? 良い子にしているのよ」

 私に抱きかかえられたメグちゃんの頭を撫でるリゼさんは優しく彼女に微笑みます。

 (確かに引き受けたのは私だけど――)

 母親ってこんな感じなのか? 私を信頼して預けてくれているとはいえ、一人お留守番の娘を心配する素振りは見せません。

 「あんまり過保護になるのは良くないのよ」

 「え?」

 「愛情を注ぐのは大事なことよ。でも何事も過剰はダメ。要は“アメとムチ”の使い分けが大事ってこと」

 うーん。よくわからない。理屈は理解できるけど、いまにも泣き出しそうなメグちゃんを見ていると過保護になってしまいそうです。

 (こうなったらエドたちも巻き込んじゃえ)

 予定では私一人でお世話をするつもりだったけど、二人もいつかはお父さんお母さんになるだろうから良い機会だよね。


 その日の夜。ようやく寝付いてくれたメグちゃんの頭を撫でながら私はエドに話しかけました。

 「子守って大変なんだね。まだ初日なのに疲れたよ」

 「リゼさんが出て行ったあとずっと泣いてたからな」

 「今日はこのまま泊まるんでしょ?」

 「アリサさんが『用心棒代わりになれ』とか言うからな」

 そう。お店を閉めた後もエドが残ってくれたのはメグちゃんの為なんです。アリサさんの発案とはいえ、素直に残ってくれたエドには感謝してますし、同時にちょっとだけ緊張しています。

 「なんだよ」

 「ううん。いつか私に子供が出来たらこんな感じなのかなって」

 「その前に相手見つけろ」

 「失礼じゃない⁉ 師匠にも言われたことないよっ」

 あれ。てっきりまた「コウノトリが~」って茶化されると思ってたのに、まさかの反応に内心驚く私。寝ているメグちゃんが起きないように小声で反論する私は寝るからとエドを部屋の外に追い出します。さすがに一緒に寝ると言う選択肢はまだないので、今回も彼にはリビングで寝てもらうことにします。

 「……なんで気付かないかなぁ」

 エドが出て行きメグちゃんと二人になった部屋で私はボソッと呟きます。まぁ、言い方がアレだったし、そんなつもりで言った訳でもないので文句は言えません。だとしても、鈍感と言うかエドってデリカシーが足りないよね。

 「ま、少しずつで良いよね」

 なにがとは言いませんが、エドと良い関係がこれからも続くことを期待してベッドに入る私。

 (私が落ちないようにしないとね)

 ベッドから転落しない安全な壁側をメグちゃんが陣取っているので今日はベッドの淵ギリギリまで使って寝なければなりません。

 「メグちゃんの寝顔、可愛いな」

 布団の中に入り、何気なくメグちゃんを見ると寝付くまで泣いていたとは思えない幸せそうな寝顔でした。すやすやと寝息を立てるその姿はまさに天使そのもの。その表情を見るだけで心が癒されました。

 「私もいつか母親になれるのかな?」

 メグちゃんの頭を優しく撫でながらそんなことを思う私もいつのまにか寝てしまい、無事に子守り一日目が終わるのでした。


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