第81話 答えは明日
その日の夜、私は部屋で師匠が残してくれたカルテ集を読み漁りました。何百とあるカルテの中にはアレルギー患者のカルテも複数ありました。ただ、カレンさんのように「パンを食べたら発症した」と言う症例は一例もありません。ほとんどが“一般的な”食物アレルギーでした。珍しいと言えば『ヨーグルトアレルギー』くらい。こちらもヨーグルトだけアレルギー反応が出ると言う、私もカルテを見るまで知らなかった非常に珍しい症例でした。
「この患者も結局、原因は不明。師匠はヨーグルトを避けるのが唯一の手段って判断したみたいだね」
師匠がさじを投げた患者はたぶんこの人だけです。少なくとも私が知る限り無かったし、このカルテ集にも他にそのような記述はありませんでした。
「原因不明――これで片付けるのは簡単だけど、それじゃ患者さんが困るだけだからハッキリさせたいよね」
お店の奥にある自室で紅茶を飲みながら何度もカルテを見返す私。エドたちも帰り、一人になった私は夕食もそこそこにカレンさんを困らせている犯人のことを考えてました。
「珍しい症例だし、師匠のところの『ヨーグルトアレルギー』となにか共通点があるかもしれないけど……全然思いつかないよ」
なにかのアレルギーを持っているのは間違いない。でも原因が分からなければ対処のしようがありません。
「パンにあってパスタやクッキーにないもの……これじゃなぞなぞだよ」
もしかしてジャムや蜂蜜が原因? 師匠みたいな人じゃなければジャムはパンに塗るくらいだし、蜂蜜も頻繁に使うものじゃありません。
「でも夏風邪の時は蜂蜜入りの薬を出したってカルテに書いてる。いや、突発的に症状が出るのもアレルギーにはよくあることだし……」
可能性としては否定できないけど、ジャムにはいくつも種類があります。村では手作りすることが多く、この時期ならリンゴがポピュラーだけど少し前なら葡萄や無花果もジャムにしていました。
「果物の中でもリンゴや無花果はアレルギーが出やすいって言うし、確認する必要があるね」
なんらかのジャムが原因ならパンアレルギーという稀有な症例ではなく、一般的な食物アレルギーとして診断を下せます。明日、カレンさんにパンと一緒にジャムなどを食べていないか確認してから最終的な診断を下すことにしよう。そう決めた私はカルテの束を書棚に仕舞い、今日はもう休むことにしました。別に疲れているわけではないけど、答えが出ない問題をいつまでも考えるより、少し頭を休ませた方が意外と解決策が出てくるものなんです。
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