第26話 次はみんなで

 翌朝。ハンスさんのところで朝ご飯を頂いた私たちは少しだけセント・ジョーズ・ワートの街を散策して帰ることにしました。せっかく大きな街まで来たんだから少しは楽しまないとね。

 「なんか納得いかねぇんだけど」

 「なにが?」

 「おまえ、最初から俺に配達させるつもりだっただろ」

 「言ってなかった?」

 「聞いてねぇ」

 露店で買った焼き栗入りの紙袋を片手にとぼける私をきっぱりと切り捨てるエド。私が持つ袋から焼き栗を一つ取ると手早く殻を剥いて口の中に放り込みました。

 「ああ! 私の栗!」

 「一つくらい良いだろ。これ美味いな。で、どうなんだよ」

 「ちゃんと道覚えたよね?」

 「否定すらしないのかよ」

 「これも店員の仕事だよ」

 「この悪魔め」

 エドがなにか言ってるし、一つと言いながらまた栗を盗んでいるけど心優しい私はなにも言いません。

 「それで、条件はどうなったんだよ」

 「条件って?」

 「取引条件に決まってるだろ」

 「ちゃんとフェアな内容だから心配しないで」

 「ほんとか?」

 「ほんとだよ」

 自分がいないところで結んだ商談だから私が相手に呑まれず、対等な条件なのか心配で仕方ないんだよね。ほんと心配性なんだから。

 「心配しなくて大丈夫だよ」

 「そっか。まぁ、ソフィーが決めたことなら俺たちはそれに従うだけだけどな」

 「ありがと。頼りにしてるよ?」

 留守番しているアリサさんには薬局に戻ったら改めて話すけど、ハンスさんとの契約はいたってシンプル。ハンスさんから届く注文書に応じて私が薬を作り、それをエドに届けてもらうだけ。代金とは別に送料として薬代の1割を貰えることになっています。送料として貰った分はエドのお給金に上乗せしてあげようかな。

 「ん? なんだよ」

 「別に。そろそろ出発する?」

 「そうだな。いまから出れば明後日の夕方までには着くだろ」

 「ほんとぉ?」

 「ソフィーが途中で寝坊しなければな」

 「ムカッ。エドって意外と根に持つよね」

 「おまえに言われたくないな。ほら馬引き取りに行くぞ」

 少しだけ頬を膨らます私にそう言ってエドは馬を預けている西の城門に続く通りを目指し歩き出します。なんだかんだ言って道覚えているんだ。これなら本当にハンスさんのところへ配達をお願いしても良いよね。

 「ねぇ、エド?」

 「ああ? なんだよ」

 「今度はちゃんとお休み作って来ようよ」

 「急になんだよ」

 「なんでもないよ。さ、帰ろ?」

 今回はハンスさんと業務提携を結ぶために来たけど、今度は観光目的と言うかリフレッシュのために訪れたいな。もちろんアリサさんも一緒に。みんなで。


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