第20話 村の薬師だから
翌朝。私は患者さんの経過観察をハンスさんにお願いして村に戻ることにしました。いくら緊急事態とは言え、村でただ一人の薬師が何日も留守にする訳にはいかないからね。
「本当に二人のことをお願いして大丈夫ですか」
「もちろんだ。とりあえずこれが昨日のカルテの写しだ。今日以降の分はあとで送るよ」
「ありがとうございます」
「助けられなかったけが人のことは残念だけど、自分を責めないようにしなさい」
「――はい」
「君のような薬師に出会えて嬉しいよ。今後もなにかあればよろしく頼むよ」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。それじゃ」
私はハンスさんにぺこりとお辞儀をして待たせていた馬車に乗り込みました。御者は昨日と同じバートさん。昨日乗ってきたものと同じ馬車なのに荷台の付着していた血痕は綺麗に拭き取られていました。バートさんが掃除してくれたのかな。そういえば昨日は荷台で休んだって言ってたっけ。けが人を運ぶだけだったのになんだか申し訳ないな。
「すみません。ここまで運んでもらうだけだったのに」
「気にすることはねぇよ。嬢ちゃんこそ薬師なのに悪かったな。あれほどのけが人の世話をさせてしまって」
「一応知識はありますから。出来ることをしただけですよ」
「さっきの医師も言ってたがほんと大したもんだ」
「ありがとうございます」
「それじゃ、行くか」
「はい。お願いします」
薬局に戻ったらカルテを作って、それから使った薬の補充をしなきゃ。それに留守中にするはずだった往診もしないといけないよね。
戻ってもゆっくりできなさそうだけど、村唯一の薬局をいつまでも休むわけにもいかないから仕方ないよね。それにいまは村から運んだ二人のけが人が助かったことを喜ばなきゃね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます