第19話 医師ハンス

 馬車がセント・ジョーズ・ワートに着いたのは二日目の夕方。城門を警備していた衛兵に事情を説明し、紹介された城門から一番近い診療所へ二人を運び入れました。

 受け入れてくれた医師は女性の容態にひどく驚いていましたが診療時間を過ぎていたにも拘らず、すぐに処置室へ運び込み手当をしてくれました。もちろん私も薬師としてできることは手伝い、いまは後片付けをしているところ。

 「話を聞いたときはダメだと思ったけど、君の手当が功を奏したよ。しばらく療養は必要だけど命は助けられたよ」

 処置室の後片付けも目途がついてきたころです。対応してくれた医師の男性が話し掛けてきました。

 「免状を取ったばかりなのによくあれだけの怪我に対処できたね」

 「やれることをしただけですよ。それに、師匠から基本的な創傷処置のレクチャーは受けてますので」

 「君の師匠は医師なのかい?」

 「薬師ですよ。ただ、あのくらいの手当なら出来るってだけです」

 「君の師匠は変わってるね。薬師なのに医師のスキルもあるなんて」

 医師は使用した器具の煮沸消毒を行いながら笑っている。そうだよね。普通、医師の知識まで持った薬師はいないからね。でも、それが私の師匠なんですよ。

 「そういえば、自己紹介していなかったね。ハンス・グラナックだ」

 「ソフィア・ローレンです。エルダー村の薬師です」

 「よろしく。ソフィア。患者のことも気になるだろうし、今夜はここに泊まりなさい。村へは明日出発すると良い」

 「ありがとうございます」

 「カルテの写しは作っておくから、君はもう休みなさい」

 「え、でも片付けが……」

 「一昨日からずっと気を張っていたんじゃないか? いい加減休まないと君が倒れてしまうよ」

 「そうですが――わかりました。今日はこのまま休ませてもらいます」

 「ああ。そうしなさい。2階の客室を使って構わないからね」

 「ありがとうございます。それじゃ、おやすみなさい」

 私は笑顔を見せてくれるハンスさんにお辞儀をすると処置室を出ます。きっとハンスさんも疲れているはずなのに顔に出さないところは師匠そっくりです。

 ひとまず、馬車で運んだ二人は一命をとりとめました。村に残してきた男性は村長さんたちが共同墓地に埋葬してくれているはず。そう願って私は2階へ上がる階段を上りました。

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