第3話 師匠の懺悔

          * * *


 おかしい。

 ソフィーが試験に落ちるなんてあり得ない。そもそも課題薬に必要な材料が用意されていない試験など聞いたことがない。それとも用意されていた材料で作れる風邪薬があったのか? いや、それはないはず。ないはずだ。

 「やはり学校に通わせるべきだったのか」

 いまさら後悔しても遅いのは分かっている。養成学校を首席で卒業した自分を過信してしまったせいで彼女の人生を台無しにしてしまった。

 店を出た僕――ルーク・ガーバットは城がある王都の中心街に向け歩いていた。別に用件など無いが娼館が並ぶ北通りに行くよりはマシだ。

 僕が彼女、ソフィーを出会ったのは10年前。薬草を仕入れた帰りに偶然立ち寄った村で孤児となった彼女を引き取ったのが始まりだ。

 「……結局、来てしまったか」

 当てもなく歩いていたつもりだったが、やはり体は覚えているものだ。ソフィーとたまに来る食堂の前に僕はいた。

 「ここまで来てしまったなら、僕も飲んで忘れるか」

 正直、酒を飲むことは滅多にない。だが今日は潰れるまで飲みたい気分だった。

 「いらっしゃい。おや、今日はルーク一人かい。ソフィーちゃんはどうしたんだい?」

 店に入るとすぐに店主が僕に気付き、いつもの席へ案内しようとするがそれを断りカウンター席の一つに座った。

 「一番キツイやつをお願いします」

 「え? 飲むのかい?」

 「今日は無性に飲みたいんです」

 「なんだ? ソフィーちゃんと喧嘩でもしたのかい?」

 どうやら親父さんはソフィーと喧嘩して店から追い出されたと思ってるみたいだ。そうだよな。普段アルコールは控えている僕が一番キツイ酒を頼むなんて余程のことがないとしないからね。

 「ソフィーが落ちました」

 「落ちた? ああ。今日は薬師試験の日だったか。え? あの子が落ちたのか?」

 「僕のせいです。僕がっ、僕が養成学校に通わせていればこんなことにならなかった」

 「落ち着け。ほら、一番キツイやつだ。程々にしとけよ」

 「ありがとうございます――ゴホッ」

 受け取ったグラスに入った琥珀色の液体を一気に飲み干すと咽た。慣れないアルコールに身体が拒絶反応を示している。

 「一気に飲むバカがあるか! ほら水飲め」

 「あ、ありがとうございます」

 「それで、落ちたって本当かい」

 「――はい。実技試験で落ちたそうです」

 「そうか。噂じゃ聞いていたがやはり実技試験は……」

 「どうしました?」

 「いや、さっきまでそこの席にいた客が試験でミスがあったとかなんとか言ってたんだ」

 「ミス?」

 「ああ。なんでも実技試験の課題薬? それを作るのに必要な材料がそろってない状態で受けた子が一人いたんだと」

 「それ本当ですか!」

 「お、おい。急に立つな。酔いが回るぞ」

 「その子は! その子の試験結果は!」

 「お、落ち着け。俺も聞き耳立てていた訳じゃないから詳しくは知らん。ただ不合格になったとか言ってた気が……何処行く気だ?」

 「ちょっと用事を思い出しただけです。あ、これお代です」

 「ちょっと待て。酔いが回った状態で外に出るのは危険だ。それにこれじゃ多過ぎる」

 「ごちそうさまでしたっ」

 少し酔いを醒ませとか釣銭を出すから待てとか言う親父さんを置いて僕は店を後にする。頭がクラクラするが酔いが回った感じはしない。

親父さんの話が本当なら不合格になった子は間違いなくソフィーだ。試験そのものにミスがあったとなれば大問題だ。なによりあの子の判断は、

 「間違ってなかった!」

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