第2話 試験、落ちました。

 「お帰り。試験はどうだった?」

 お店に戻ると師匠がいつもの笑顔で迎えてくれた。そうだよね。師匠は私が不合格になったなんて思ってないもんね。

 「ただいま、です」

 「ん? どうしたんだいソフィー。そんな泣きそうな顔をして」

 「し、師匠……」

 「ソ、ソフィー! 本当にどうしたんだい⁉」

 「……落ちました」

 「え?」

 「試験、落ちました」

 ごめんなさい。師匠。私、実技試験に落ちました。

 堪えていた涙が溢れるのも気にせず、試験場での出来事を話しました。

 「筆記試験は自信がありました。でも……」

 「実技がダメだったんだね」

 「……無かったんです。課題の風邪薬に必要な薬草が一つも無かったんですっ」

 「そんな! そんな訳――」

 「私もそんな訳ないと思いました! でも“ミナミヒイログサ”も“ヤジリソウ”も“スペアソルト”も! 風邪薬に必要な材料が一つも無かったんです!」

 「試験官にその事は?」

 師匠の問いに首を横に振って答える私。

 「……師匠。私、未熟だったんでしょうか」

 「そんなことないよ」

 「師匠?」

 「用意された材料で課題薬が作れないと判断できただけで見事だよ。さすが僕の弟子だ」

 ギュッと抱きしめて頭を撫でてくれる師匠。こうやって抱き締めてもらうのはどの位ぶりだろう。

 「薬師になれなかったのは残念だけど、きっとそれもなにかのお告げかも知れない」

 「お告げ、ですか?」

 「ああ。キミにはもっと素晴らしい職業があるからそれを目指しなさいってね」

 「もっと素晴らしい職業、ですか?」

 「薬師を目指してたんだ。そう簡単に見つかるとは思わない。だから落ち着くまではいまのまま僕の助手を続けてくれると有り難いな」

 「私、ここに居ても良いんですか」

 「当然だよ。あの時、キミを引き取った時から独り立ちするまで責任持つと決めたからね」

 「……ありがとう、ございます」

 「さ、今日はもう休みなさい。嫌なことは寝て忘れるのが一番だよ」

 「師匠は?」

 「僕は少し外の風に当たって来るよ。戸締りはしておいて良いからね」

 「あ、あのっ」

 「ん? なんだい?」 

 「い、いえ。あまり遅くなっちゃダメですからね」

 「分かってるよ。それじゃ。ソフィーも早く寝るんだよ」

 師匠はそう言って店を出ると城がある方向へ歩いて行きました。

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