第26話 禁忌の魔法


1995年時点

全財産3兆1500億円

年間配当金43億6000万円





アメリカ・カリフォルニア州・パロアルト


久しぶりだなぁ。

初めてここに来た時はまだ田舎町だったのに。


今はスタートアップ企業だらけだ。「アメリカンドリーム2.0」って言われてるのも納得だ。


そんなスタートアップ企業の製品のほぼ全てにM&S製『スナップドラゴン』が搭載されている。


M&Sはあらゆるテクノロジー企業の元締め的存在になっていた。




そんな企業の筆頭株主、それが俺だ。その企業に投資していることが誇らしかった。








感傷に浸っているうちに、M&S本社前に着いた。相変わらず、入り口がわからない。


「入って良いよ、オーナー様。」



「オーナーってなんだよ。ここに入るのはまだ2回目なんだ。」



「創業社長である私よりも保有株数多いくせに何言ってるのよ。」



「で、研究室を案内してくれるって?」



「その前に、一つ確認させて。あなた、異世界から来たんでしょ?」





心臓が氷ついた。


何言ってるんだコイツは。


なんで知ってるんだ?


いつから知ってるんだ?


何を狙ってるんだ?


何されるんだ?


研究室って、、、まさか!!


そういうことか!






「苦しんで死ぬのは嫌だから、せめて一思いに殺してくれ。その後は煮るなり焼くなり好きにして良いから。」



「wwww」

「多分あなた絶句すると思ったから、あらかじめ意識共有しておいたの。一瞬のうちに私のことを狂気のマッドサイエンティストにしたわねww」



「え、勝手に意識共有してたの。やめてよ。怖い。」



「大丈夫、怖がらないで。異世界から来て、投資家になったんでしょ?」



「え、あ、そう、そうだけど、、、わざわざ言葉で確認するくらいなら俺の記憶を共有すれば良いじゃないか。あ!もしかして、俺の記憶覗いたのか?!」



「うん。以前にね。でも覗いたわけじゃないの。森林火災の時、私が記者会見とか関連各社への対応で"超"忙しい時にわざわざ励ましの連絡くれたでしょ?あの時、あなたは意識共有しようとして、間違えて私に記憶を共有したのよ。」



「そ、そうだったのか。」



「そこで私は知っちゃったの。貴方が"こっちの世界"にやってきたことを。」



「そうか。それで、俺をどうしたいんだ?」



「逆に聞きたいんだけど、あなたはどうしたいの?」



「どうしたいって、、、M&Sの株価が上がってくれれば良いなぁって思ってるよ。投資家だもん。」



「それは私の仕事。あなたにはどうにもできないでしょ?そうじゃなくて、この先、どう生きたいの?」



「なんでそんなことアレックスに言う必要があるんだよ。俺の勝手じゃないか。」



「そうよ、だからあなたが決めて。"元の世界"に帰るのか、今"この世界"で生きていくのか。」



「はい、また絶句しそうなので意識共有始めまーす。」





何言ってるんだアレックス


戻れるって何?


ていうか戻ったらどうなる?


事故で胴体千切れてたよな俺


戻った瞬間即死するのか


生きてたとして


22年間無職だった48歳の俺が今更戻って仕事があるのか?


俺の永久保有株はどうなる?


M&S無いじゃん!


資産少ないじゃん!


配当無いの嫌だ!






「結構現実的なこと考えるんだね!本当、面白いわ。」



「俺の許可無しで意識共有するのやめてくれ。恥ずかしい。」



「・・・決められない?」



「ああ、どんな投資判断よりも難しい。」



「じゃあ、研究室に行こうよ。」






アレックスに案内されて、全部で6つある研究室の第7研究室に通された。



「アレックス、こんな研究室あったか?」



「ここは、CEOとごく一部の主任研究員しか知らない秘密の場所。禁忌の魔法を研究しているの。」



「それ、、、バレたら株暴落するんじゃ・・・」



「良いよ、株売っても。でもここのことは絶対絶対ぜーったい言わないでね!」



「絶対言わないし、株はもっと絶対売らない!」



「そんなに大事なんだ。ウチの株。」

「まぁいいわ。これが禁忌の魔法の根源。」



「これって、人・・・?」



「そう。世界で最も強力な紋章が刻まれた人造生命体よ。」



「おま・・・マジ?」



「マジ。魔導士の子供のDNAを遺伝子操作で書き換えて、創ったの。」



「やっぱり、マッドサイエンティストじゃん。。陰謀論者が言ってたこと、あながち間違ってなかった。」



「最後まで聞いて!私だって最初はこんなものがあるなんて知らなかったわよ。でも、ウチがバイオレンス・マジックを吸収合併した時に、当時CEOだったケビン・スタックから教えられた。」



「あのパワハラ老害野郎か。」



「そう。でもただの老害じゃなかった。ケビンはこの禁忌の存在を、決して利用しようとはしなかった。アメリカと世界を守るために。」



「じゃあアレックスみたいに魔法を一般利用しようと考える存在は、危険だったから排除しようとしたのか。」



「そうだと思う。でも、アメリカ政府はこの禁忌の魔法を使って技術開発を推し進めたいのよ。いつまでも世界のリーダーで居続けるためにね。だから連邦裁判所に圧力をかけて、バイオレンスマジックの訴えを棄却したのよ。」



「アメリカ政府からしたら何も研究を進めないケビンが邪魔だったのか。そして、操り人形の少女を社長に据えた。」



「でも、私は操り人形人形にはならなかった。そしてこれからもならない。」



「ケビンの意志を継ぐのか?」



「うん。去年、ケビンが亡くなったの。無くなる間際、私はケビンに呼び出されて、ある事故について聞かされたわ。」



「事故?」



「元々、ケビンは技術開発に積極的だった。野心家のケビンは、魔法の中でも最大の禁忌、『時間』と『空間』の操作の実験を行なっていたの。成功すれば、歴史そのものを書き換えることだって可能になるからね。でも、人類が扱えるような代物ではなかった。」



「まさか、その事故って」



「1973年3月18日、あまりに強力な魔法を制御できなくなって時間と空間が同時に歪んだ。なんとか魔法だけは押さえ込んだものの、別の世界と空間が一時的に融合してしまった可能性があった。」



「それが、俺がいた世界か。」



「おそらく。貴方と記憶を共有して、そのあとケビンから話を聞いて辻褄が合った。あなたは、事件の被害者なのよ。」



「・・・。すごい偶然だな。そんな会社に俺が投資しているなんて。」



「だから、あなたを元の世界に返す義務が私にはあると思うの。もちろん、あなたの意思を尊重するわ。」



「ちょっと、、今は決められない。考えさせてくれ。」

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