株式投資家・異世界転生

@anoyr01

第1話 情報収集


胴体が千切れていたようだが、俺は無事、退院できた。



病院の外に出ると、そこは俺が住んでいた時代よりも少し文明レベルが低いように見えた。


1970年代といった具合だろうか?


自動車、高層ビル、電車、スーツを着た人、スニーカー、新聞。

古いが現代にもある。


張り紙、鉄製の錆びた看板、整備されていない駐車場、個人の商店。

俺が知らない「昭和」といった雰囲気を感じる。



それと、気になるのが俺を治してくれた人が言っていた「マホウ」という言葉。「魔法」と考えて良いのだろうか?千切れた胴体を元に戻すなんてことができるのだろうか?足の指を動かして自分の身体が正常なのかどうか、俺は確かめていた。



そこに、浮遊しながら行進する白人の軍人たちがやってきた。



「浮遊する人間?!」



思わず目を見開いてしまった。状況を飲み込むために、冷静になって言葉を思考する。


人が浮いている。

なぜ?

どんなテクノロジーが?

そんなものがこの時代にあるか?


・・・「魔法」ということだろうか?


そうだ。この世界は違うんだ。俺の住んでいた日本じゃないんだ。



そう仮定して物事を整理しよう。


・時代は1970年代頃あるいは、その頃の文明レベル

・よくわからんが魔法が存在する

・軍人がいる

・今の俺の全財産は純金1.2kgのみ



この状況でも生きなければ!


ブラック企業で消耗していた時に比べたらまだマシだ。むしろ魔法がある世界なんてワクワクするぜ。




そうだな。まずは生活するための3要素、「衣食住」を揃えよう。


この世界に日本国憲法があるのか知らないが、文化的で最低限度の生活は自分で作らないとな。


なんにせよ、現金がいる。

今ある金を換金しよう。





スマホが無いからどこ行くにしても困るなぁ。

人に訊くしかないか。


「あのー、すみません質屋ってどこにありますかね?」


「あーそうだなぁ。風俗店の横にはたいていあると思いますよ。ここの裏の通り歩いてみれば見つかりますよ。」


「ありがとうございます。」




風俗店の横に質屋があるってどういうことだ?

ていうか裏道は風俗店だらけじゃねーか!

なんだこのけしからん場所は!



あ、あった。質屋だ。本当に風俗店の隣にあった。



「ごめんくださーい。純金を換金できますか?」


「いらっしゃい。金ならどこよりも高く買い取りますよ。どの程度の量で?」


「1.2kgの純金です。」


「なんと、、1.2kgですか。ちょっとお貸しください。」


そう言って店主が裏から何か持ってきた。磁石のような物を金に当てている。


「確かに、、本物の24金のようですな。ただ、今ある現金では足りませんので、少々店内でお待ちいただけますか?現金を持って来させますよ。この量の純金を持ち歩くのは危険ですからね。」



考えてみれば1000万円分の純金を店で換金できるわけがないか。まぁ、現金が来るまで店主に気になる情報を訊くか。



「あ!そういえば、魔法ってみんな使えるんですか?」


「はい?魔法なんてもんは選ばれた一部の人間の特権じゃないですか。私もあなたも魔法なんてもんは使えませんよ。」


「え、俺も使えないんですか?」


「だってあなた、紋章無いでしょう?魔法を使える人間は身体中に紋章が刻まれているんですよ。」



なるほど。大事な情報が聞けだぞ!魔法は一部の人間のみの特権で、使用できる人は身体に紋章がある。


確かに、俺を治してくれた先生も、行進していた白人の軍人も顔に紋章があったな。


ん?白人?何故、あの時の軍人は白人だったんだ?ちょっとこの世界の大まかな歴史を調べておく必要がありそうだな。




「お待たせしました。純金の1.2kg買取価格が420万円になります。こちら現金です。ご確認ください。」



は?今なんつった?!

420万円だと!1000万円で買った純金だぞ!間違ってないか?!



「あの、すみません。本当に420万円なんでしょうか?何かの間違いでは」


「現在の買取価格は1g3500円ですので、間違いございません。他のお店でしたらこれより高額での買取は難しいと思いますよ。」


「そ、そうですか。わ、かりました。」



納得行かなかったが、この世界の買取価格に従うしかねぇ。


ワクワクするような魔法は俺には使えねぇし、1000万で買った金は420万円で買い叩かれた。



普通、異世界転生って何かチート能力みたいなもんが主人公に備わってるんじゃないのか!?


あぁ、前途多難だ。。




ふと振り返ると、俺が出てきた質屋にスカートの短い女がブランドバックをいくつか抱えて入っていくのが見えた。


・・・ああ、なるほどな。


昔は性風俗に従事する女性たちの手取りは少なかったと聞く。だからバッグや靴などをおねだりして客からいただいて、それを換金する。


個人的な贈り物は彼女らにとっての大事な収入源なのだ。


だから風俗街には質屋が多くなる。この世界も需要と供給で成り立ってるんだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る