りゅうぐう博物館で働いていた時代(ころ)の話

@asuka_manba

第1話 冥海高速ジェット船じごく号 (1)プロローグ

 初めまして、ですね。

 こうして顔を合わせてお話するのは不思議な感じがします。

 先週、オンラインチャットでこの超常現象研究会に誘っていただいて、とても嬉しかったです。一年ほど誰とも口をきかない生活をしていたので、うまく喋れるかどうか、不安ですが……。

 そうです、ここしばらく、しばらくと言っても一年ほどかな、引きこもり生活をしておりました。

 なぜ?

 なぜとお聞きになる? そうですね、理由は色々とあります。

 ちょうど感染症が流行っていたから、外出を推奨されていなかった……。

 それは言い訳に聞こえる?

 まあ、そうでしょう。外出を控えるよう言われたところで、外に出たいやつは出るし、外に出る必要のある人間もいる。食べ物や日用品を買うためにはお店に行かなければならないし、オンラインとはいえ授業は授業。カメラの前で寝落ちたら笑い者ですから。先生に指名されたら発言しなければならないし。

 仕事を辞め、誰とも話さず、食べず飲まず、何もせずにごみ屋敷でぼうっとしている、そんな生活をする理由にはならない。

――そう、わたしは厭世的になっていた。だから引きこもったのです。

 つまり……過去を反芻していたのです。

 一年間、ずっと、わたしは過去を整理していました。

 そして整理が終わったので、お話をしに来ました。

 わたしの中では、ごちゃごちゃとしていた過去の断片たちがもう綺麗さっぱりと形になっていて、このまま全てを忘れ去ってもよいのです。けれどせっかくだから、誰かに共有してから忘れようと、そう思ったのです。

 皆さまなら、きっと楽しんでくれるだろうと。

 え? そんなに甘くない? 耳が肥えているから?

 わたしはまだ何も話してはいませんよ。

 そう、これから……最初の話はどんな話? えっとですね、わたしが「りゅうぐう博物館」で働いていた頃ののエピソードです。実際にあった話ですよ。

――みなさんは知っていますか? 世にも不思議な高速ジェット船の話です。その船はね、冥海を航行するのです――。

 

 

 

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