光合成人間
トストマト
第1章 人間
私は、いわゆる「日光アレルギー」らしい。
生まれた時からそうだった。
私の症状は特にひどく、日光にあたるとその部分からかゆみと一緒に蕁麻疹がでて、最悪の場合めまいや頭痛も引き起こされる。
どうやら私は遺伝子レベルの異常を抱えているらしく、だからこのアレルギーとは一生付き合わなければならないようだった。
今日は、冬の清涼感を象徴するような快晴だった。気分が落ち込む。
朝食を摂りながら天気予報を確認する。今日は1日中晴れであることを確認した後、カバンを持って車に乗る。登下校は親に送ってもらうことになっている。
高校へ行くとき、一度だけ川を越える必要があるが、その川は東西に流れているため、太陽の光が直接入ってくる。
私は車内のカーテンをしっかり押さえつけて、光が入ってくるのを防いだ。
学校に到着すると車を降り、日傘を差して急いで屋内へ向かう。
教室に荷物を置いた後にトイレの鏡を見て肌が赤くなっていないか確認する。このとき赤くなっていたり蕁麻疹が出ていたらステロイドを塗る。今日は大丈夫だった。
教室に戻ると、窓のそばに生徒が集まって話をしている。韓流アイドルの話題で女子が盛り上がっている。
私はいつも廊下側の席だった。
今日の体育は持久走だった。
屋外だから、日の当たらないところでいつも通り見学する。普通、見学する子は先生の作業を手伝ったりするものだが、私はこの体質のこともあってずっと日陰で過ごしていた。
クラスのみんなが体育の時間に盛り上がっているのを遠くで眺めていると、あいつら光合成してるな、と思う。
太陽の光をがんがん浴びて、歓喜に身をまかせる様はまさに植物だ。
彼女らにとって光は養分なんだな、と思った。
休日は予報通り雲が多く、少しは安心できる日だった。
今日は幼馴染とショッピングモールで遊ぶ予定があるのだ。
「あー、いたいた、バンちゃーん」
遠くから幼馴染が声をかけてくる。
バンちゃんとは、私のあだ名だ。バンパイアからとってきたらしい。日光にあたってはいけない、という共通点がある。
私はこの幼馴染が好きだった。私の持っている障害を、腫れ物のように扱わないからだ。
障害であるところも、それ以外のところも、全部平等にベタベタと触ってくれる。そのことが何よりも嬉しかった。
私は彼女に駆け足で近づいた。
映画を観た後、フードコートでハンバーガーを食べながら話をする。どうやら彼女は映画の内容がお気に召さなかったらしい。文句を言いながらもゲラゲラ笑っていて、よくそんなに感情を両立できるな、と思う。
「もうすぐ3月だよ? さ、ん、が、つ」
「この春、思い切ってイメチェンとかしてみようかな」
縦横無尽に動き回る彼女の眉毛を見ながら、学校ではこんなやりとりはまずあり得ないな、と思う。
クラスメイトは私のことをただの障害者としてしか見てない。
——やっぱ、毎日の生活、大変なんやろ?
——困っていることがあったら教えて。貴方の力になりたいの。
そんな言葉を使う相手は、必ず口角があがり、少しだけ鼻が膨らんでいる。
障害者と触れ合える興奮と、良い事をしているという自意識がそうさせるのだ。
不快だった。
結局、彼らは自分自身が気持ち良くなるためには手段を選ばないような奴なのだ。人のことを下に見て安心するような人間なのだ。
私の『障害』を都合よく切り取り、道具として活用してしまう人間なのだ。
そんなクラスメイトに言ってやりたい。
私はお前らが思うより大変じゃないからな。
さっきまで暇そうにストローを噛んでいた幼馴染が唐突に言った。
「いやー、バンもたまには日傘なしで外に出てみたら? 案外大丈夫かもよ?」
そんなことできるわけないでしょ、と私は言った。
分厚い雲から太陽が顔を出した。
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