第3話 激戦の後…3

 光牙が擬似肉体を休眠させてからおよそ一週間後…。


 情報の海の唸りが強くなったので、光牙の擬似肉体が休眠から覚め、意識が戻る。

 光牙は擬似肉体を用いてストックしていた一週間分の情報を処理し、次に意識を本体とクラネオンⅣにリンクさせて両方の状態を確認した。


 処置を受けたせいか光牙の肉体は順調に回復。クラネオンⅣもエンゼル級に負けず劣らずの立派な設備が揃ったドックにて、NZW専門のメカニック達によって修繕…というよりも大改造を施されており、既に内部フレームの追加修理と各種パーツの調整が終わり、内外の装甲を形成している統合汎装甲体ブロックアーマーズは素体を十分に補充されて復元に成功。装甲は元通りになっていたが…

 

 しかし、頭部フェイスは元の旧政府軍規格のクラネオンフェイスや統合軍規格のラーヴェスフェイスではなく、大破したクラネオンフェイスを修繕してその上から鬼面を被せた様な容姿になっていた。

 

 …追加装甲や増設ブースターのせいか機体が筋肉質に見え、ブレードアンテナが角の様にも見え、カメラアイの調整実験で鬼面を模したフェイスガードに搭載されているツインアイカメラが不気味に煌めく仕様になったので、まるで悪鬼の様な容姿になってしまっている。


 これはスタッフの趣味なのだろうか…、或いは日本刀型特殊実体剣NEXOブレイドⅡからインスピレーションが湧いてこうなったのかも知れないが…。


 まるで奴の夜刀集ヤト・カスタム改型の造形に似ている様な…


 光牙はここまで思考してある可能性に気づき、自身の扱いや機体の扱いからとある人物…十文字ジュウモンジ一二三ヒフミ芦屋廬山アシヤ・ロザンの姿が浮かび上がり、ため息をついた。


 まさかと思ったが、ここまでくるともう腐れ縁だな。


 光牙は見知った人物の思念波動と気の調和性に気づき、観念したように本体の方へ意識を向けた。


「雷光め、易く眠りおってからに…」


「喜びを隠せていないぞ廬山」


「ふん、貴殿も目からなにやら水が出ているが?」


 光牙の身体が安置されている安眠カプセルの近くで二人の人物が光牙の目覚めを待っており、光牙は擬似肉体から本体へと意識を戻す。


「…目覚めたか、大事ないか?」


「…お陰様でな」


「…愛想もクソもないな、此奴」


 光牙の目覚めると、廬山が呟き、次いで光牙が淡白に答え、一二三は若干の怒気を含ませてぼやいていたが、三人とも内心喜んではいた。

 この三人が言葉を交わしたのはそれだけであり、あとは沈黙の時間のみが流れていたが、機を見て光牙と廬山が沈黙を破った。

 

「仲間を弔う」


「いいだろう」


 光牙と廬山は一言だけ交わし、一二三の部下達が回収していた統合軍黒鎧部隊の識別証が光牙に渡され、一二三は無言の圧力で光牙に「ついてこい」とばかりに移動する。

 廬山は光牙を安眠カプセルから出してやり、客将の服を渡して着替えさせ、先に行った一二三に追いつくようにして移動した。


 移動する事半日…行き着いた場所で光牙は黒鎧部隊の仲間達だったと思われる一部が並べられた部屋でその全てを確認し、残留思念を捉えて仲間達の識別証と一部を照合して並べ直し、先祖代々の墓地がある者とそうでない者とを明確に分けた上で弔った。

 光牙自身は黒鎧部隊や統合軍で作戦を共にした者達とは面識があるかすらわからない程度の関係だったが、光牙は涙して別れを告げた。


 一二三と廬山は葬送を部下達に任せ、機を見て光牙を安価な宿泊施設に連れて行き、光牙を休ませた。



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