再び愛する人に出会う夜

 彼は、愛する妻を失った。妻の笑顔は、彼の心を照らす光そのものだった。特に彼女の得意料理だったオムライスを囲む時間は、彼にとって至福のひとときだった。しかし、彼女を失ってからの毎日は灰色で、家の中も心の中も冷え切っていた。だが、それでも男の欲望は消えなかった。埋めようのない喪失感を、他の何かで埋めたかった。


 ある夜、男は思い切ってデリバリーヘルスを頼むことにした。モニター越しに映し出された女性を見て、彼の心臓は大きく跳ねた。その女性は、亡き妻に驚くほどよく似ていたのだ。顔立ち、髪の色、仕草までもが。


「これは…運命だろうか?」


 震える指で画面を操作し、彼女を自宅に招き入れた。ドアが開き、現実となった彼女が目の前に現れる。男の目には妻そのものに映り、胸の内に込み上げるものを抑えられなかった。


「サービスはいい。それよりも、料理を作ってほしい」


 その突然の申し出に、女は戸惑った顔を見せた。


「え、料理ですか? それがご希望なんですか?」


「頼む。どうしても、君に作ってほしいんだ」


 男の必死な表情に女は根負けし、キッチンへと向かった。冷蔵庫を開けると、中には料理好きだった妻がいつも使っていたのと同じような材料が並んでいた。女は材料を確かめ、手際よく調理を始めた。


 やがて香ばしい香りが部屋中に広がり、テーブルの上にはオムライスが置かれた。ケチャップで描かれたハートマークを見た男の目に涙が浮かぶ。


「ありがとう。まるで、妻が戻ってきたみたいだ」


 女は驚いたように男を見つめた。その表情に、男はさらに深く過去の記憶に浸っていく。オムライスを口に運びながら、遠い記憶を辿るように目を閉じた。妻との日々が鮮明に蘇り、彼の胸は温かさに包まれた。


 だが、タイマーの音が現実に引き戻す。女の時間が終わり、帰り支度を始める。


「では…お時間なので…」


 その瞬間、男の目つきが変わった。


「ダメだ。帰らせない」


 女が驚く間もなく、男の拳が振り下ろされた。


「この前は…加減を間違えただけなんだ。もう、逃がさないからね」

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