第6話 沼田・八王子の戦い
空想時代小説
9月8日。早馬がぞくぞくとやってきて、6日の沼田の戦いの様子が伝えられた。
第1報 沼田城の手前で、両軍激突。段丘の上に位置する結城・直江連合軍が優勢。
第2報 沼田城に徳川勢が侵入。抜け道から真田信幸勢が攻め込み、結城・直江連合軍は城内に撤退。
第3報 沼田城に侵入した徳川勢は幽閉されていた小松姫らを救い出し、引き揚げ。
第4報 徳川勢は、沼田城を囲み、兵糧攻めの様相。しかし、上田からの援軍、真田信繁(幸村)率いる2000の騎馬隊が切り崩しを行う。そこで、城内の結城・直江勢も討ってでる。徳川勢は城を囲んでいたために、兵が分散しており、集中して攻められるとお手上げとなった。
第5報 徳川勢惨敗。秀忠・榊原康政らは四散。
「小十郎、6日に終わったとなれば、秀忠はどこにおろうか?」
「おそらく上州を抜けたあたりかと・・」
「金山城か?」
「それはありませぬ。我らが近くにおると存じておりまする」
「となると、八王子城へむかう途中か?」
「おそらく藤岡の宿あたりかと」
「八王子城へ着くのは2日後か」
「よし、全軍を八王子城へすすめよ、秀忠を捕縛じゃ」
9月9日。全軍出発。途中、黒はばき組の者が伝令をよこし、秀忠の動きを知らせてくる。政宗の予想はあたり、堅固な八王子城をめざしているようだ。秀吉の関東攻めの際に、一度陥落しているが、それは麓の館に籠もっていたからで、山城に籠もられたのでは攻めにくい。先に八王子城に着いた方が優勢になる。そこで、政宗は成実に騎馬500をあずけ、八王子城へ急ぐように命じた。成実は足軽格から騎馬隊の隊長となり、勇んで駆けていった。勇猛果敢なのはいいが、自ら先陣に立つので、周りはひやひやものである。
9月11日。政宗勢は八王子城へ到着した。まだ徳川勢は到着していない。そこに黒はばき組が
「秀忠はじめ1000名ほどの徳川勢が滝山城に入ったとのこと」
との知らせをもってきた。
「小十郎、滝山城はどんな城だ?」
「向こうの小高い山一帯の山城でござる。道は1本。山越えはできまする。夕闇にまぎれ、攻めればよろしいかと」
「徳川勢はやっと入城したばかり。早めに攻めるがよいな」
「では、今夜にでも・・・5000で充分かと・・」
「うむ、早速手配せよ」
夕刻、黒はばき組の先導で5つの部隊が滝山城にせまった。北からは石川昭光。東からは原田甲斐。南は黒川晴氏。西は片倉小十郎。そして唯一の山道は成実率いる先陣部隊だ。成実が攻め入ったら、四方から攻め込む手はずだ。
9月12日未明。成実が鬨(とき)の声をあげて、滝山城に攻め込んだ。大手門は、木造の櫓があるだけで、火矢を射ると簡単に燃え落ちた。政宗はできる限り捕縛することを命じていた。秀忠が大将の姿をしているとは限らない。足軽に扮しているかもしれないからだ。刀傷はつけても、とどめをさすことは禁じた。それでも成実は今までのうっぷんを晴らすかのように、鬼のごとく徳川の兵士を追いつめていった。その狂気に満ちた殺気に、徳川勢は腰がひけるばかりであった。
夜が明けたころには、戦闘は終わっていた。城の大手門近くに徳川勢の捕虜が集められていた。そこに秀忠と会ったことがある政宗と小十郎がやってきた。2人は、捕虜の顔を確かめながら秀忠とおぼしき足軽を3人召しだした。
近くの農家に連れていき、そこで3人に食事と酒を出した。3人は、毒が入っているのかと危ぶみ、なかなか手を出さない。お互いに顔を見合っている。そこで、政宗は菜を1品ずつとり、自ら口に入れた。
「秀忠公を殺す気はござらん。沼田から逃れてこられてお疲れでござろう。どうぞごゆるりとお召し上がりくだされ」
すると、両脇にいた足軽が中央の足軽を見た。中央の足軽がうなずいたところで、2人の足軽はがつがつと食べ始めた。
政宗は、中央の足軽に向かって、
「秀忠公、ご遠慮なさらず、お召し上がりくだされ。我らは徳川と敵対する気はござらん。ただ、秀康公が弟君の秀忠公への家督相続を嫌っておられる。相続争いは徳川家内部のことで、我らがあずかり知らぬこと。我らには陸奥と出羽の国をいただければ充分。秀忠公が認めるとおっしゃってくだされば、悪いようにはいたしませぬ」
「秀康がここに参れば、わしは斬られるのであろう」
「その前に斬られた首があれば・・」
「何を申しておる? 先ほど悪いようにはいたさんと申したばかりであろう」
「お怒りなさるな。首さえお見せいたせばすむことでござる」
と言いながら、政宗はがつがつと食べている2人の足軽に目をやった。秀忠は、その意味を察し、背筋に悪寒が走ったようであった。
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