36:ポーション作り
「邪魔はしないから、ここで見学させてもらえないかな?」
ジョアンナはヴィンセントの顔を見た瞬間、今すぐに自分の顔を隠したくなった。さっきまで泣いていたので目は
自分の状態に気を取られていたジョアンナの耳には、彼の声が聞こえていても言葉までは届かない。
ヴィンセントは慌てた様子のジョアンナを見て、少し戸惑った表情を見せた。
コリンナがそんな2人を見兼ねてジョアンナの肩を軽く揺すると、彼女はハッとしてヴィンセントに視線を移す。
ジョアンナは引きつった笑顔を浮かべながら、首を縦に振って了承の意思を伝えた。そして変な汗をかきながら、急ぎ足で作業台へ移動する。
ヴィンセントはいつもと違う様子の彼女に戸惑いながらも、定位置のソファーに腰かける。それを手伝ったダニーはコリンナと共に部屋の
ジョアンナはどこか浮ついている自分に活を入れるために、自分の顔を両手で強めに叩いた。
頬が少し赤くなっているジョアンナは、集中した表情で真剣にレシピを見つめている。何度も読んだので内容は全て覚えているが、もう一度しっかりと手順を頭に叩き込んでいるのだ。
それが終わると、[アイテムボックス]から材料を取り出して作業台に並べていった。
まずは、下準備からだ。
ジョアンナは水龍の心臓を手に取った。
水龍の心臓は、ジョアンナの顔と同じくらいの大きさの宝石のような青い石だ。
それを専用の道具を使いながら
ジョアンナは何度も汗を拭きながら、何時間もかけてこれを全て粉状にした。
ここで、少しだけ休憩だ。固くなった肩や腕を軽く揉みながら、軽く身体をほぐす。
そして、立ったままでサンドイッチを口に突っ込み、冷たいお茶で流し込む。
あっという間に食事を終えたジョアンナは、すぐに作業を再開させた。
デスパル草を板の上に置いて細かく刻み、大きな鍋へ入れていく。辺りにはデスパル草の独特の匂いが広がる。
次は、さっきの鍋の中に聖水を1本ずつ加えていく。
レシピによると、聖水を50本入れてしばらく混ぜると液体の色が変わってくるそうだ。それまでひたすら鍋を混ぜ続ける。
そうしていると、
ここからは鍋に素材を入れて、液体の色が変わるまで混ぜ続ける作業が続く。
まずは、妖精の粉を少しずつ加えて混ぜていく。
深い緑色からオレンジ色に変わるまでだ。
次は、神樹の花びらを全て加えて混ぜる。
液体は、オレンジ色から少しずつピンク色に変わっていく。
そこに水龍の心臓を砕いた粉を少しずつ加えながら混ぜていく。完全に溶けるまでだ。
すると、液体はピンク色から深い青になった。
ここで火を点けて、鍋を弱火にかける。
ここからは、長い時間、鍋を混ぜ続ける作業だ。
どれくらい時間が経っただろうか……。すでに鍋の中の液体は半分ほどに減っている。
ジョアンナの腕の感覚がなくなってきた頃、鍋の中に少しずつ変化が起こり始めた。
深い青だった液体が、少しずつ薄い青に変わっていく……。
そのまま混ぜ続けていると、液体は透明になり輝きだした。
そこで火を止めて、虹色の
しばらく鍋を混ぜ続けていると、液体の色が貝の裏側のような虹色になっていく。
そのまま手を止めずに混ぜていると、最後に鍋の中がボワっと光った。
そして、光を帯びた不思議な色合いの液体が出来上がった。
ジョアンナは手を止めて、胸の前で両手をギュッと握り……ゴクリと唾を飲み込んだ。
彼女の心臓は大きな音を立てている。
一度、大きく息を吐き出したジョアンナは、覚悟を決めて鍋に[鑑定]をかけた。
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◼︎最上級解呪ポーション(品質:良)
飲むとあらゆる呪いが解ける
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成功だ。ジョアンナは瞳に浮かんできた涙を
そして歓喜に震える手で慎重に鍋から瓶に液体を移し、そっと
一方、ジョアンナがポーションを作る様子を真剣に見ていたヴィンセントは、あまりの大変な工程に驚いていた。
何時間も青い石のような物を、大きな音を立てて
彼女の
きっと腕はもうパンパンに
何度も「もういいよ」という言葉が喉まで出かかったが、彼女の真剣な表情を見ると声が出なかった。ヴィンセントは血管が浮き出るほどに右手をギュッと握りながら、奥歯をギリっと噛み締めた。
彼女は途中で一度だけ休憩を取ったが、軽くパンを食べてお茶を飲んだだけだ。
それからはずっと鍋を混ぜ続けていた。
時折、作業が上手くいっているのが嬉しいのか、笑顔を見せるジョアンナ。しかし、彼女の腕はもうとっくに限界を超えているだろう。それでも作業を止めずに、集中した表情で次々と素材を入れて鍋をかき混ぜている。見ているヴィンセントも、何時間経っているのかわからないほどの長い時間だ。
ヴィンセントは、そんな彼女の様子を目に焼き付けようと、真剣な表情でずっと見つめていた。
彼女が鍋を混ぜ始めてから、どの位の時間が経ったのだろうか……。
最後に鍋が光ると、彼女は鍋から光る液体を瓶に注いで満足そうに微笑んだ。
その笑顔の美しさに
そして満面の笑みを浮かべて、勢いよくこちらへ向かってきた。その勢いのまま、ジョアンナはヴィンセントに子供のように抱きつく。彼はそれに驚きながらも、彼女の背にそっと右手を回した。
自分の腕の中で、肩を震わせて喜びの涙を流すジョアンナ。
ヴィンセントは彼女の柔らかい温もりを感じながら、込み上げてくる愛しさを感じていた。
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