34:誕生日プレゼント

 ジョアンナの誕生日パーティーが終わり、部屋を移して食後のお茶を飲んでいる。すでに人払いはされていて、部屋にいるのは4人だけだ。


 少しお茶を飲んで雑談などをした後に、本題に入ることになった。


 今朝、ジョアンナに届いた「誕生日プレゼント」の話だ。すでに画面の情報は手紙で伝えていたので、すぐに[10連ガチャ]を回すことになった。


 出た物は……


 中級ポーション×2(R)

 状態異常回復ポーション×2(R)

 上級ポーション×3(SR)

 マジックバッグ(S)×1(SR)

 神樹の花びら×1(SSR)

 レシピ×1(?)


 内容を聞き呆然としていた3人だが、ケルヴィンの提案で「レシピ」を確認してみることになった。これだけ「?」になっている上に、カードが虹色に輝いていて、他の物とはちょっと違う感じがするのだ。


 ジョアンナが[アイテムボックス]から取り出したレシピは、「黒い表紙の薄い本」だった。表紙には不思議な模様が描かれている。


 本を開いてみると、そこには驚くべき内容が書かれていた。


「『最上級解呪ポーション』のレシピ」


 ジョアンナは体が震えて声が出せないでいる。早くこの事を伝えなければいけないのに、力が入らず体が動かないのだ。

 隣でジョアンナの様子を見ていたヴィンセントは、声をかけてから彼女の手元を覗き込み……言葉を無くす。


 ジョアンナはなんとか手を動かして、心配そうにこちらを見ているケルヴィンとセリーナに本を手渡した。


 本の表紙を開いた2人の瞳に、「『最上級解呪ポーション』のレシピ」の文字が映る。


 ケルヴィンは瞳に一瞬だけ涙を浮かべると、すぐに顔を手でグッと押さえた。

 セリーナの瞳からは涙が落ち、静かな部屋に小さな嗚咽おえつが響く。


 


 全員が少し落ち着いたところで、きちんと本の内容を確認することにした。しかし、ここでジョアンナ達はまた言葉を無くすことになる。

 

 このポーションを作る材料は、すでに手元にある物ばかりだ。しかし、必要な素材が1つだけ足りなかった……。


 聖水×50

 デスパル草×6

 妖精の粉×1

 虹色のしずく×1

 神樹の花びら×1

 水龍の心臓×1



 足りないのは「水龍の心臓」だけだ。

 しかし、この素材の入手が難しいことを、この場にいる全員が理解していた。


 ドラゴンと呼ばれる竜種の魔物は、数は少ないが世界中に生息している。

 白龍、黒龍、火龍……など様々な種類がいるが、この水龍が生息しているのは、水の都と呼ばれているプルクア王国だ。


 そのプルクア王国では……水龍は国の守り神として大切に保護されている。水龍の住処すみかとなっている山へは、神事などの特別な場合以外は立ち入りが禁止されているほどだ。


 そして、水龍を傷つけた者には、一族全員の処刑という厳しいさばきが下されるのは有名な話だった。

 他国の者が水龍を傷つけたとあれば、ただちに国同士の争いに発展してしまうだろう……。

 


 先程までの歓喜に満ちた空気は鳴りをひそめ、部屋には静かな空気が流れている。


 ケルヴィンは、目をギュッと閉じて、やり切れない思いを耐えている。

 セリーナは、瞳から力が抜けてしまい、テーブルに置かれたレシピをボーッと見ている。

 ヴィンセントは、必死に顔を作ってはいるが、落胆した様子を隠しきれないでいた。


 ジョアンナはというと……一瞬ガッカリしたものの、何故か大丈夫だと自身の勘が告げている。何の根拠もないが、恐らく近い将来、自分のスキルで水龍の心臓が手に入る予感みたいなものがあるのだ。

 

 ただ、これはジョアンナの勘でしかなく、何の根拠もない話だ。そのため、この話を伝えるべきかを迷っている。

 

 3人の様子を見ていると、早く伝えた方がよい気がする。でも、もし水龍の心臓が手に入らなかったら……この3人を深く傷つけてしまいそうで怖いのだ。


 ジョアンナは悩んだ結果、彼らにこの話をきちんと伝えようと決めた。

 

 ジョアンナのこの変わったスキルのせいで、彼らには沢山の迷惑をかけているはずだ。それなのに、そんな苦労をジョアンナには少しも見せないでいてくれた。普通に考えても、[ガチャ]で手に入れた貴重な物を売れば大もうけできるのに、1回もそんな事をしようとしなかった。

 

 いつもジョアンナが国から利用されたりしないように、ただ守ることだけを考えてくれた人達だ。


 そんな彼らに、この大切な話を隠しておいてよいはずがない。

 ジョアンナは覚悟を決めて、口を開いた。


「あの……本当に何の根拠も無いのですが、きっと近い将来に水龍の心臓は手に入ると思います。上手く言えないのですが、私のスキルで手に入る予感のようなものが、私にはあるのです。いつになるかはわかりませんが、その時を待ってもらえないでしょうか?」


 そう言って3人を見つめるジョアンナの瞳は、力強い光を宿していた。

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