27:希望の朝
窓の外からは鳥の鳴き声がかすかに聞こえる。
まだうす暗い夜明け頃に、ジョアンナは目を覚ました。
ヴィンセントのことが気になるが、こんなに朝早くから部屋を訪ねるわけにもいかない……。
ジョアンナは
しばらくすると侍女たちが部屋に入ってくる足音が聞こえてきた。
ジョアンナはすぐにベッドから出ようとして身を起こすと、コリンナが静かに近づいてきた。
「ジョアンナ様、おはようございます。先程、ダニーにヴィンセント様の様子を確認して参りました。詳しくはヴィンセント様から直接皆様に伝えるそうなので、使いが来るまでに急いで準備を整えましょう」
ジョアンナは、すぐにでも出られるように身支度を大急ぎで整えて朝食を食べている。
ソワソワしながら何度もドアを見て使いの者が来るのを待っていると、ヴィンセントの支度が整ったとの連絡が届いた。
「コンコン」
コリンナがドアを叩くと、ジョアンナの緊張は高まっていく。
すぐにダニーが扉を開けてくれた。ダニーを見ると、目が真っ赤に腫れている。それを見てジョアンナは言いようのない不安に襲われる。
震える足を動かして部屋に入ると、ベッドに上半身を起こして座るヴィンセントが見えた。彼はジョアンナを見て、嬉しそうに微笑んでいる。ベッドの横には彼の両親もいて、2人の顔には涙の跡が見える。
ベッドに近づこうと足を進めると、ジョアンナに気がついたセリーナがこちらへ駆けてきてジョアンナを強く抱きしめた。彼女の体は震えていて、涙声で耳元で何度も「ありがとう」と繰り返す。
期待を高めてヴィンセントに目を向けると、彼は少し照れくさそうに笑いながら、今朝の話をしてくれた。
今朝、ヴィンセントが目が覚めると、身体に感じる痛みがやけに軽いことに気がついた。
いつもは目覚めて少し動くと激痛が襲ってくるのに、今朝はそれがやって来ない。身体の感覚もどこか昨日までとは違う感じがして、「もしや……」と、期待がこみ上げてくる。
期待に震える手でそっと布団をめくり自身の左手を見ると、いつもと同じ真っ黒な手が目に入った。
落ち込んだ気持ちを立て直して顔を作ると、ダニーを呼んで身体を起こしてもらうことにした。
今朝は、ジョアンナや両親もきっと様子を見に来るだろうから、早めに支度を整えなければならない。皆をガッカリさせてしまう申し訳なさを感じながら、身を起こして着替えようとする。
すると……昨夜、付き添ってくれたディーノがヴィンセントに声をかけてきた。着替える前に身体を診てくれると言う。
いつものように診てもらっていると、彼の動きが止まったことに気がついた。彼を見ると、興奮した様子で左腕を見つめている。
ヴィンセントも自身の左腕を覗き込むと、皮膚が鱗のようになっていた部分が、少し減っているように見えるのだ。
見間違いかと思い、もう一度目を凝らして見ると、やはり鱗状の範囲が小さくなっている。信じられない思いとともに、顔が熱くなっていき息が荒くなる。
ヴィンセントは込み上げてくる涙が我慢できずに、顔を押さえて声をあげずに涙を流した。
涙が止まると、もう一度腕を見て夢じゃないことを確認する。人前で泣いてしまった気恥ずかしさから、気まずげに周りを見ると、ダニーが顔を真っ赤にして大泣きしているのが見えた。ヴィンセントは思わず笑ってしまい、しばらくの間3人で大笑いした。
ディーノは、もう一度ヴィンセントの身体を細かく診ていくと、やはり鱗のようになっていた部分が黒い皮膚に戻っている。
この皮膚が鱗状になり始めたのは、半年ほど前からだ。少しずつ進行していき、鱗状の部分が広がるにつれて体を動かす時などに痛みも感じるようになった。
その事をディーノに改めて伝えると、彼は少し考えてから口を開いた。
「確証はありませんが、この鱗状の部分が原因で身体に痛みが出ていたのではないでしょうか。だから、この部分が少なくなった事によって、痛みも軽減されているのではないかと思います。他に何か気になることはありますか?」
ヴィンセントは、昨夜見たあの不思議な夢の事を話した。
すると、ディーノは納得したように何度か頷いた。
ディーノの話によると、薬師や医師などの間ではよく知られた話だが、不思議な夢を見た後に奇跡的な回復をする患者がたまにいるそうだ。
例えば……
助かる見込みのない患者が、不思議な夢を見た翌日からどんどん病状が回復し元気になった。
何年も目を覚さなかった患者が、不思議な夢を見た翌日に急に目を覚ました。
そんなことが幾つもあるそうだ。
見る夢は人それぞれで、亡くなった大切な人が出てくる夢、この世のものとは思えない美しい場所にいる夢、とてつもなく美しい人に会った夢など、色々だと言う。
ヴィンセントが見た夢もそれと同じような、良い夢なのではないかという話だった。
ヴィンセントは、自分に起こったこの奇跡のような出来事に、心から感謝した。
ヴィンセントから話を聞き終えると、ジョアンナは涙が止まらなくなってしまった。
この奇跡のような出来事に感謝し、【ログインボーナス】を授けて下さった神に心から感謝した。
ヴィンセントが治るかもしれない。
これから聖水を飲んでいけば、いつかヴィンセントが剣を振るえる日が来るかもしれない……。
ジョアンナの胸には希望が溢れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます