12:ヴィンセントとの昼食

 お昼の時間になったので、ジョアンナはヴィンセントの部屋へ向かっている。

 ジョアンナの足取りは、いつもよりも少しだけ早足になっていた。

 今日は色々なことが起こったので、少しでも早くヴィンセントの顔を見たかったのだ。


 部屋に入ると、ダニーが食事の準備をしているところだった。

 ヴィンセントはすでに席に着いていて、ジョアンナを見つけるとすぐに微笑みを浮かべた。ジョアンナは自然と笑顔になり、彼の右隣のいつもの席に座った。


 今日のメニューは、ホワイトバードの炭火焼き、コーンスープ、サラダ、パン、フルーツ。

 

 ホワイトバードは、秋から冬にかけて増える大型の鳥型の魔物だそうだ。

 この時期は魔の森でホワイトバードの討伐をするので、リネハンではホワイトバードの肉が出回るらしい。

 ホワイトバードの肉は、脂が程よく乗っていて美味しいので人気の食材のようだ。


 羽も白くて美しいので、様々な物に使われている。

 今朝、【鑑定】で調べてわかったことだが、ジョアンナの部屋にある羽ペンにもホワイトバードの羽が使われていた。

 

 ホワイトバードの炭火焼きはひと口サイズの肉が4つ、1本の串に刺して焼いてあり、片手で持って食べられるようになっている。皮がパリッとしていて、噛むと肉汁が口の中に広がる。塩で焼いたものと、少し辛めの香辛料を付けて焼いたものがあるが、どちらも美味しい。


 そして、コーンスープはヴィンセントの好物だ。今日も彼の好みに合わせて、コーンの粒が多めに入っている。

 コーンスープの日は、彼はスープをお替わりする。美味しそうにスープを飲む彼を見ているだけで、ジョアンナはなんだか幸せな気持ちになるのだ。

 


 食事が終わり、お茶を飲みながら話の続きをする。


「へぇー、『スキルキャンディ』っていう物を食べたら【鑑定】が使えるようになったんだ⁉︎ どんな味だったの?」


「口に入れた途端に消えてしまったので、味わう余裕が無かったです。でも甘くて美味しかったですよ」


「ははは……、それにしてもスキルが増えるなんて話は聞いたことがないよ! それも【鑑定】か……すごいね!」


「ずっと『何の役にも立たないスキル』と言われてきて、何のために毎日[ログイン]のボタンを押してるのか、わからなかったんですけど……続けてきて良かったです」


「本当におめでとう! これから楽しみだね!」


 ヴィンセントはジョアンナの努力が報われたことを喜び、心から祝福してくれた。

 ジョアンナには、それがとても嬉しかった。

 

 ただ、スキルを授かった後に新しいスキルが増えたという話は、ヴィンセントも聞いたことが無いそうだ。まれに、15歳の誕生日に複数個のスキルを授かる者がいると聞いた事はあるが、ジョアンナはそんな人にこれまで会ったことが無い。

 


「ところで……その……【ログインボーナス】の画面を見せてもらうことは、できるのかな?」


 ヴィンセントは少し言いづらそうに、そう切り出してきた。

 紫の瞳は好奇心が隠しきれず、キラキラしている。

 さっきのセリーナも同じ瞳をしていたので、こういうところが2人は良く似ている。


 ジョアンナは立ち上がると、ダニーに椅子を運んでもらいヴィンセントに近づけてもらった。

 そして椅子に座ると、彼の手が届く位置にメニュー画面を出した。


「この手の辺りに画面が出ているのですが……私以外には見えないし、触れないようなんです……」


「この辺?」


 ヴィンセントはセリーナと同じように画面がある場所に手を伸ばし、その辺りを探るように手を動かす。ジョアンナの目にはさっきと同じように、ヴィンセントの手が画面をすり抜けて動いているのが見える。


 ヴィンセントは画面に触れないことを理解すると、残念そうな顔をして手を戻した。

 ヴィンセントの肩越しに、少し身を乗り出してこちらを覗き込んでいるダニーが見える。彼も少し残念そうだ。


「私にしか見えないのですが……[ガチャ]を回してみましょうか?」


 あまりにもヴィンセントが肩を落としているので提案してみると、ヴィンセントはすぐにパッと表情を輝かせて「いいのか?」と喜んでいる。

 楽しそうに画面がある辺りを見つめてる彼をチラリと見た後で、ジョアンナはガチャ画面を出す。


「この辺りに4枚……この位の大きさのカードがあって……ここに[スタート]で、ここに[ストップ]のボタンがあります。[スタート]のボタンを押しますね! 今、この順番でカードが光っています」


「へえ……右回りで光がグルグル回るのか……面白いね!」

 

「……そして[ストップ]を押すと、動きがどんどんゆっくりになっていって、最後に止まったカードに書いてある物が[アイテムボックス]に保管されます。[ストップ]を押しますね……下のカードで止まりました。カードがめくれて……聖水が手に入りました」


 ジョアンナは手でカードの大きさや、光の動きなどを伝えながら、[ガチャ]を回した。

 ヴィンセントはとても楽しそうに、その動きとジョアンナを見ていた。


 ──また聖水が手に入ったわ。カードは4枚あるから、そろそろ他の物が出ても良さそうなのに……もしかしてこの4枚とも全て聖水なのかしら?


 ジョアンナは聖水ばかり出る[ガチャ]に不安を覚えて、少し顔を曇らせた。しかし、目の前にいる楽しげなヴィンセントを見て気を取り直す。


「次は[アイテムボックス]から聖水を取り出してみますね!」

 

「確か……画面から出てくるんだよね? 楽しみだ! 画面はこの辺りにあるの?」

 

「はい、ここにあります」


 ジョアンナはさっきと同じように、どんな画面なのかを手を使って伝えながら進めていく。


「[決定]を押しますね!」


 [決定]を押してすぐに画面から聖水が出てきたので、ジョアンナはそれを落とさないように手で受け止める。


 それを見ていたヴィンセントは驚いて「わっ!」と声をあげて目を丸くしていたが、すぐに声を上げて笑い出した。


「すごいね! 空中から突然出てきてビックリしたよ! これが……聖水かぁ。キラキラして綺麗だね!」

 

 ヴィンセントに聖水を手渡すと、彼はビンを目の前に持ち上げて、振ったりしながら中の液体が光るのを見ている。


「【鑑定】で調べると、どうやら『神の祝福を受けた聖なる水』みたいなんですけど……それ以上の情報は無くて、何に使う物なのかは全くわからないんです」


「なんだか、すごい水みたいだね」


 ヴィンセントは聖水がキラキラ光るのが気に入ったのか、夢中で見ている。

 ジョアンナがその聖水をプレゼントすると、とても嬉しそうに笑い、大切そうに握りしめていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る