エルフと俺

出水でみ

01 塔のエルフのひとりごと




 私がこの塔に連れて来られて何年経ったのでしょう…


 あれから何人もの人間が私の主人を名乗って会いに来ました。


 無駄なのに。



 私の主人はもう決まっています。


 あの方以外はありえないのです。


 私がまだ子どものころ、


 私の村を人間が襲いました。


 そのときに助けてくれたあの方。


 名前も名乗らずに去って行かれましたが、


 私を抱きしめてくれたあの腕を忘れたことはありません。




 この塔に最後の男が来てから30年ほどでしょうか、


 思い出すのはあの方のことばかり。


 私を助けてくださったときにはあの方は老人といえるほどの年齢でした。


 ですがその魔力は私たちエルフよりも強力で、私たちでは考えもつかない魔法を使いました。


 この塔もあの方の魔法でできています。


 私はここから出られない代わりに空腹を感じることも死ぬこともなく、私が望んだ相手以外に触れられることもないんだそうです。


 そこまでの魔法を使えるのに年齢には勝てなかったんですね。


 私はずっと待っています。


 もう一度あの方に抱きしめられるのを。




 私を求めてやってくるのは男だけではありません。


 何人かは女も来ました。


 理由はわかりません。


 貢ぎ物にでもするつもりだったんでしょう。


 何か言っていましたが気づけば私の知らない言葉を使うのでわかりません。




 私がここに来て、たぶん300年ほどは経過したのではないでしょうか。


 最初は閉じ込められた、捨てられたとばかり思っていましたが、


 考えが変わりました。


 あの方は私を愛しているのです。


 愛しているから閉じ込めた。


 愛しているから他の者になびくかを試している。


 きっとそうに違いありません。


 ふふっ


 可愛いではないですか。


 愛しいではないですか。


 そこまで愛されたのなら私も愛するしかありません。


 いくらでも待ちますとも。


 ここにいれば死ぬことはありません。


 あぁ… 愛しいあなた…


 早く私を迎えにきてくださいね。




 あら?


 ひとが来るのはいつ以来かし…ら?


 あ…


 あぁ……


 あぁぁ………


 もぉ… ずっと待っていたのよ…


 そう、大きくなったわ。


 ふふっ


 全部あなたのためよ?


 一目でわかるわ。


 だって愛しているもの。

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