嵐の夜の空腹

登魚鮭介

嵐の夜の空腹

 外ではバケツを思いっきり逆さまにしたような雨が降っている。なんで、こんな天気で肝試しなどしなければならないのか。

 答えは簡単。俺は配信者だからだ。ホラー企画か視聴者参加型のゲーム企画かで、アンケートを取ったのだが、見事にホラー企画が勝った。

 まあでも、最近食えてなかった俺としては結構ありがたかった。これを投稿すれば、支援も結構来るだろう。

 そんなこんなで、実際に心霊体験がしたいわけではないので、あくまでもそういう雰囲気の幽霊や呪がいなさそうな場所に撮影に来たわけだが、結果、このざまだ。

 服と髪の毛は雨に濡れ、靴の中はびしょびしょでとても気持ち悪い。

 持ってきたカメラも最大限の対策は施したが、雨は問答無用でカメラをダメにした。

 残っているのはスマホだけ。


「仕方ない。スマホでも十分撮影はできるだろう。無理な時は視聴者のみんなに謝って、投稿日をずらせばいい話だ」


 そう思い、俺はスマホのカメラを起動し、動画モードに変更する。

 そして、撮影開始ボタンを押すが、録画が開始されない。


「あれ?おかしいな。雨でタッチパッドまでいかれたか?いやでも流石にそれはないだろうしな」


 俺は不思議に思いながらスマホの操作設定を確認する。そして、もう一度カメラを起動すると、そこには得体の知れない化け物が映っていた。

 人の様な形をしており、頭部から伸びている何かが異様に長く、目と思われる場所は赤く光っていた。


「な......んだ?これ......」


 辺りを見回すが誰もいない。だが、スマホの光に照らされた床を見ると、血痕の様なものがいくつも残っていた。

 いや、血痕というにはおかしい。正確には血痕ではない。色が鮮やかな赤なのだ。血痕なら赤黒い筈だ。なら、これはなんだ?


「―ッ!」


 何かに体を触られた。それも、愛でるかのようにだ。得体の知れない化け物なら、一瞬で襲ってきそうなものだが、どういう事なのだ。一体これは。

 肉眼では化け物は見えないので、恐らくカメラを通さなければ見えないのだろう。化け物に体を愛撫されながらもう一度確認すると、それは化け物ではなく、女だった。

 異常に長かったものは髪の気だったのだ。目が血のような真っ赤な色をしている。そして、口からは赤い唾液が絶えず落ちている。

 今、理解した。あれは紛れもなく血痕ではなかった。この女の唾液だったのだ。


「てことは、まさか、ずっと俺の近くにいたっていうのか......?」


 すると、画面の中の女がこっちを向いた。そして、俺と画面越しに目があう。化け物の女相手に苦笑いが通用するかは知らないが、取り敢えず苦笑いをしておいた。

 すると以外な事に、女も笑いかけてきた。が、その次に女はこう言った。


「アタシね?ここにね?男三人に連れられてね?無理やり子供を作らされたの。でもね、事が終わったらね、アタシの喉と口を包丁で刺した後に、殺してきたの。だからね?」

「だから......?」


 俺は生唾を飲み込みながら恐る恐るそう聞いてみた。


「ココニキタオトコハミンナコロスノ。ノドトクチをサシタアトニネ」

「う、うわーッ!」


 俺はそれを聞いた瞬間、全力でスマホを捨てて、走り出そうとした。後で、戻ってきて取りにくればいいだけの話だ。だが、そんな事は出来なかった。何故なら、女にずっと体を触られていたからだ。すぐに捕まえられた。


「ダーメ。イッチャ。ココデシノ?」

「い、嫌だッ!何で俺が死ななきゃならないんだ!」

「サッキノハナシキイタデショ?」


 俺が必死で謝るのとほぼ同時に喉を刺された。


 ―グシャッ


 俺の喉からなってはいけない音がした。


「ヒュー......ヒュー......。」


 喉から息が漏れてろくに呼吸できない。


「ソクシデキナカッタネ。ジャ、バイバイ」


 その瞬間、俺の意識は完全に途絶えた。つまり、死んだのだ。


「アーア。イイオトコダッタノニナー。マアイイヤ。イタダキマース」


 そうして女は俺の肉体を食べ始めた。くそ。今日でアイツも食べられるとおもったんだがな。

 この世界、呪は他の呪を食べないと生きられないからな。

 雨のせいで体力も失われてたしな。呪が瀰漫する夜こそ食べ時だったのにな。

 あーあ。


「シッパイシテシマッタヨ」

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嵐の夜の空腹 登魚鮭介 @doralogan

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