『盗む』スキルで無双🤑!~クラス転移した僕を、雑魚アイテム収集スキルだとパーティから追放しただろ? ……もう遅い。僕を破滅へ追い込んだ君たち全員の尊厳破壊開始ぃいい!!~

ぬがちん

最凶スキルはクズ男にこそ相応しい

第1話 僕の中の守るべき大事なものってやつがぶっ壊れた

 はあ……と、僕はため息が止まらなかった。


 西洋文化に場違いな学ラン姿で歩く僕は、加古現かこ・うつつ。高校一年生だ。 


 一年前、授業中だった僕は、突如クラスメイトごと異世界転移してしまった。

 僕たちを召喚したのは、この異世界【カイン王国】の王様だ。

 なんでもこの国は今、闇の勢力に平穏を脅かされてるらしい。その闇の勢力と戦える者を召喚したところ、僕たち未来みくる高校『一年桃組』クラスメイトが、呼び寄せられたわけだ。


 すぐにクラスメイト全員の【鑑定】が始まった。

 この世界でのステータスは現実世界の自分の個性が、そのまま反映されるようだ。


 なにかと紛失物の犯人にされる僕の職業は……【盗賊】。『スキル』は【盗むバンデット】。アイテム収集スキルだ。

 しかし、高額でレアなアイテムを盗めず金策にもならない。盗めるのは雑魚アイテムばかり。

 おかげで仲間からもお荷物扱いされて、全てのパーティから追放された――



 ――「……あっ! ごめんなさい!」


 物思いに更けてたようだ。通りすがりの人に、肩がぶつかってしまった。


「あの……大丈夫ですか?」


 僕の視界に、お行儀よく足を揃えて立つ少女が飛び込んできた。

 

「……加古君?」


 控えめに声をかけられた。

 だが楽器を弱々しく奏でたようなこの声音。疲弊した心に優しく差し込んだ光に害があるわけがない。


「……君は?」


「わ、わたしっ……椎野羚亜しいのれあです!」


 低い声音が心地良い。控えめな穏やかな口調だったのでやはり具合の悪い患者かと考えてると、椎野が遠慮がちに訊ねて来た。


「はじめまして……じゃないよね?]



 んん? 初めてじゃない? 初めてでしょ?

 僕は椎野と名乗る少女をなめ回すように眺めた。

 ストレートな栗色髪のボブカットを片方だけ耳にかけてる大人可愛い印象を作る。紺を基調としたブレザーに短いスカート、ソックスと、シンプルな制服コーデだ。


「……椎野って、クラスメイトの?」


 恐る恐る僕は訊ねてみた。こんな百パーJkが異世界でうろついてるわけがない。

 すると、僕がなめ回す視線から逃れたいように椎野の白い生足が内股になった。健気だ。


「う、うん……。覚えてる?」


 そうだ……。そうだった。一年ぶりで記憶が曖昧だけど、確かに僕のクラスの女子生徒だ。


「……ごめん。すぐ気づかなくて」


「ううんっ! まだ一度も話したことないもん。仕方ないよね……」


 椎野は気を使ってフォローしてくれた。

 でも君は一度も話したことない僕をちゃんと覚えていた。僕は君の顔も名前もうろ覚えだったのに……。


「あれから色々あって随分経つけど、元気だった? 今一人なの?」


「うん……」


 椎野は伏し目がちになって頷くと、


「加古君。あの時、みんなで加古君を邪魔者扱いして追い払った事、やっぱり怒ってるよね?」


「え? ああ……そんな事か」


 どうやら『色々あって』と言ったセリフが、仲間から追放されたのを根に持ってるとでも考えたらしい。


「別に怒ってないよ。……それに僕を除け者にしたのは一部のクラスメイト。椎野は何もしてなかったはずだろ?」


「でも加古君を庇うのが怖くてわたし何もできなかった。……罪は同じだよ」


 まったく、どこまでも健気な女子だよ。僕が近寄るとお咎めを受けるとでも思ったのか、椎野はびくっと華奢な体をびくつかせた。それでも抵抗しないのはお咎めを受ける覚悟の表れだろうか。


 愛らしい少女だ。僕の荒んだ心に癒しをくれる天使だ。

 僕の『盗賊スキル』で、少女の心を悪魔的に盗めやしないだろうか。少女の関心も、癒しも、愛も、全て僕だけのものにできたなら――


「気にすんな椎野」


 そんな怯えてる椎野を僕は頭をポンポンと、数回軽く触れた。

 ぎゅっと閉じた目を開けると涙が滲んでいた。怖がる椎野に優しく告げた。


「椎野は悪くない。全部、僕の無能さが原因さ」


 僕は一秒前のやましい考えを隠すように、男前に取り繕った。

 そして子猫をモフるように、優しく愛でてた手を離した。

 人の心まで盗めやしないだろうに。ましてや、雑魚アイテムしか収集できない俺が。


「……!」


 上目づかいで僕の顔を覗く椎野の頬が紅潮してるのがわかる。


「お前、熱でもあるんじゃないか?」


 椎野は慌てて僕から視線を外すと、


「……ね、熱なんてないよ」


 照れ隠しかちょっと怒ってた。


「いや……あるかも」


「!」


 突然の前言撤回。僕が目を丸めてると椎野が急に視線を合わせ是が非でもない表情になる。


「だから……その、治るまでわたしのそばにいてくれる?」


 熱い眼差しだった。なにか変だな。僕が椎野の様子を伺っていると、


「わたしっ……」


 意を決するように椎野が声を張った。


「加古君の事が……好きになっちゃったみたいなの!!!!」


「ええええええ!!? 椎野? 本気で言ってる?」


 子供にも動物もすり寄らないタイプの男なのに、美少女クラスメイトから急に懐かれた。いや、惚れられた。


「本当ですっ! ……理由はわからないけど、加古君の事が頭から離れない!」


 まさか……。これは、間違いない!

 僕はさっき、やましい妄想をしながら椎野の体に触れた。この時に恐らく【盗むバンデット】が発動してたんだ。

 そして、僕の『盗賊スキル』は形のない曖昧なものである『心』を、椎野の体のどこにあるかも知らないその在処を探り出した。

 少女の『心』。それはどんな高価でレアな宝よりも無防備で、美しく、尊いものに僕は触れてしまった――否、


「わたしを、加古君のものにしてくださいっっ!!!!」



 ――盗んでしまったのだ。

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