墓場まで持っていきたい思い

森本 晃次

第1話 ある日の某署

この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。今回もかなり湾曲した発想があるかも知れませんので、よろしくです。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。呼称等は、敢えて昔の呼び方にしているので、それもご了承ください。(看護婦、婦警等)当時の世相や作者の憤りをあからさまに書いていますが、共感してもらえることだと思い、敢えて書きました。ちなみに世界情勢は、令和4年5月時点のものです。


 その日の門松署は、いつものように事件もなく、夜勤の人間が、ゆっくりしている時間だった。

 朝の勤務の人間が来るまで、少し仮眠でもしておこうかということで、捜査課のソファーに、毛布一枚持ってきて、軽く横になっていた。時期としては、朝方はまだ少し寒いが、毛布一枚でちょうどいいくらいだった。

 いつものように、ネクタイを緩めて、ソファーに横になったが、いつものことだが、どうにもネクタイ姿では、眠ったような気はしないものだった。

 それでも、まったく仮眠を取らないよりも、10分でも、20分でも、眠れるようなら眠っておく方がいいということくらい分かっているので、なるべく横になるようにしている。

 いくら事件はおろか、電話すらないとはいえ、一応は緊張した時間である。寝ようと思って横になっても。すぐに寝られるものでもない。

「刑事たるもの、どこでも眠れるようにしておかないとな」

 と、昔、先輩刑事に言われたのを思い出したが、横になってウトウトしていれば、いつの間にか眠ってしまっているのも分からなくもないというものだった。

 しかも、結構これが心地よい。

「気が付けば、眠ってしまっていた」

 というのが、一番気持ちのいいものなのかも知れない。

 若い頃は、先輩から、

「今のうちに寝ておけよ」

 と言われても、緊張して眠れるものでもない。

「枕が変わると眠れない」

 などというほど、デリケートな身体をしているわけではないが、先輩がいうほど、楽なものではなかった。

 暑くもないはずなのに、暑いと感じたり、寒くもないのに、必要以上に寒いと思ったり、逆に、どちらでもない心地よさのはずなのに、気が付けば、何かイライラして眠れなかったりした。

 イライラが募る感覚でもないのに、きっと、

「寝なければいけない」

 と、本来なら心地よいはずの睡魔が、眠らなければいけないというプレッシャーからか、自分の意識がハッキリしてきてしまって、どうすることもできなくなるのであった。

「寝るのにも、覚悟のような必要なのではないだろうか?」

 と考えるようになると、気が付けば眠っていることもあった。

 覚悟というものができていなくても、その存在に気づいただけで眠れるようになるということは、覚悟はその存在だけで大きなものだと言えるのではないだろうか?

 あれから、十年近くも経っていれば、夜勤の夜にも慣れてきた。適当に眠れるくらいの意識を持てるようにはなったのだが、そんな中でも、どうしても眠れない時が、一か月の中でも、数回はある。

 毎日夜勤というわけではないのだから、数回ということは、結構頻繁ではないだろうか?

 そんな時、どのようにすればいいのか、自分なりに工夫はしていた。

 本を読むこともあったり、実際に、昼に行う仕事をしてみたりということもあったものだ。

 しかし、前のように、事務所の中が気持ち悪いというような感覚はなくなってきた。

 初めて夜勤を始めた時などは、夜というのが完全に未知の時間であり、経験があるといっても、高校時代の受験の時くらいであるが、昼から起きていての夜中なので、完全に惰性となっていた。

 今やれと言われても、そんな毎日を思い出すことすらできない。まったく違った用件で起きている夜中、同じ夜中でも、まったく違ったものになっていることだろう。

 ただ、若い頃はなかなか寝付けなかったが、夜勤を始めて10年にもなれば、まあ、そんなにきついものではなく、惰性とまではいかないが、それなりに身体も慣れてくるというものであった。

 今月もそろそろ月末に差し掛かってきたが、今月は、あまり事件らしいものはなく、平和であった。ほとんどが、事務処理的なことばかりで、本当な何もない方がいいに決まっているのに、もし何かが起こった時、急にモードを緊急モードにできるのかどうか、自分でも少し不安なところであった。

 もちろん、警察官なのだから、

「そんなことは当たり前だ」

 とばかりに、

「そんなことは、警察の仕事に限ったことではなく、どんな職業に就いても同じことだよね」

 と思っていた。

 実際、警察の仕事しかしたことがないので、他の仕事は分からない。

 確かに警察の仕事は他の仕事に比べて、大変だし、危険性や緊急性が高いものなのだろうが、やりがいという意味では、他の職では味わえないものがあるだろうと、ずっと信じていた。

 もちろん、理不尽な思いは今までさんざんしてきたが、それも、

「どんな仕事に就いたって、理不尽な思いは同じようにするに違いない」

 と感じていた。

 確かに、上司との軋轢、さらには、管轄というものの、他の署との、

「縄張り争い」

 これは、事件が発生してからの問題というよりも、日ごろからの、ライバル心は、それこそ民間企業のようではないか。

「同じ警察官なのに、何をこんな無駄なエネルギーを使わないといけないのだろう?」

 と思ったが、これも、半分は、

「茶番劇を見ているだけだ」

 と思って他人事のように考えれば、そんな変な憤りもないというものだった。

 捜査の上で支障をきたすこともあるが、それはそれ、意外と何とかなるものではないだろうか?

 この日の宿直は、刑事課では、この福岡刑事だけだった。最近は、事件もほとんどないので、同僚も先輩も、もう午後7時には署を出ていた。

 何人かで呑んで帰る人もいるようだが、それほど酒が得意ではない福岡刑事は、時々、帰宅途中にある、炉端焼きやに寄る程度だった。

 それも、ほとんど酒を飲むわけではない。そもそも、ビールは腹に膨れるから苦手だということもあって、

「じゃあ、少量の日本酒だったら、腹に持たれないかも知れないですよ。でも、一気に飲むのではなく、ゆっくりと舐めるようにすればいいかも知れませんね」

 と女将さんに言われて、飲んでみると、それが結構嵌ったのだった。

 喉を通る時は、少し痛いような気がしたが、熱燗なので、それも心地いい気がする。

 そして、何よりも、魚料理や、焼き鳥に合うのである。

「へえ、これは、おいしく飲めますね?」

 というと、女将はにっこりと笑って、

「ええ、生ビールの人は、そこからお酒が進むことになるんでしょうが、お客さんのように、ビールが苦手な人は、結局最初の一杯だけなんですよ。口につけて、おいしいと思うのはね。でも、それはビールが好きな人も変わりはないんですよ。誰もが最初の一杯で、ああ、生き返ったという気持ちになるんです。たぶん、お客さんもそうじゃなかったですか? でも、そこから先は、その舌が、いかにビールに合うかではないかと思うんです。ビールというのは、舌で感じるもので、日本酒などは、喉で感じるものではないかと思うんですよ。ほら、喉ごしなんて言葉があるでしょう? 言葉って、何の意味もなく、あるものではないと思うんですよね? そういう意味でも、ほろ酔い気分の日本酒って、飲んでいるうちに、次第においしいと思える時期が来るんだって思うんです」

 というではないか。

 なるほど、その女将さんのその時の言葉が、自分の中での、

「日本酒が本当は好きだったんだ」

 という気持ちを思い起こせたという意味でも、よかったような気がした。

 日本酒を飲んでいると、忘れていた何かを思い出すのだが、それが何なのか分からなかった。

 この店に最初に来たのは、この店で、窃盗事件があった時だった。ここで務めていた。外人従業員が、出来心だったのだろうが、店の売上金を持ち逃げしたのだった。

 金額的には大したものではなかったのだが、店としては一大事であった。

 何しろ、国からの要請もあったというのも、

「女将さんが、慈悲深い人だった」

 ということで、他の従業員からすれば、

「女将さんの善意を踏みに行った行為は許せない」

 というものだった。

 そもそも、その外人店員は、自分だけが外人だという意識が強く、まわりに溶け込むことはなかった。

 まわりの従業員も、最初こそ、いろいろ話しかけてやっていたが、

「ああ、やっぱり外人は、受けつけないわ」

 とばかりに、それぞれが、拒絶した態度を取っていたのだ。

 女将さんは、その男が、

「外人だろうが関係ない」

 と思っていたようで、しかも、最近は、どこの店でも外人を雇うのは、それこそ普通だった。

 コンビニに行っても、ファーストフードなどの店にいっても、そのほとんどが、外人であった。

 最初こそ、

「言葉が通じないんじゃないか?」

 と思っていたが、コンビニなどの従業員のほとんどは、留学生などという名目で入ってきている連中なので、当然、日本語くらいは分かるようにしてきているようだった。

 それができるのだから、当然日本の風俗、文化くらいは勉強してきていると思っていたが、そのあたりは、違うようだ。

 外人を雇っている店の店長などの話を聞いていると、

「やっぱり、育った国の文化が違うんだろうな。俺たちとは、根っこのところで感覚が違ってるんだよな。いつか、何か問題を起こさないかって、不安な気持ちになって仕方がないんだよ」

 といっていた。

「じゃあ、雇わなければいいじゃないか?」

 と話していたが、

「そうもいかないんだよ。国からの補助金も出るし、だから、外人を雇えって、圧力もあるし、何よりもまわりが増えてくると、そうもいっていられない。それよりも、日本人を雇おうとしても、なかなか来てくれないし、来てくれても長続きはしない。やっぱり、こういう仕事は、日本人ではなかなかなんだろうな。そういう意味では外人は、ほいほいやってくる。それだけ、単純作業ができるということなんだろうか?」

 ということであった。

 もう、数年くらい前に聞いた話だったが、言われてみれば、コンビニにしても、街に出ると、ほとんどの店での接客は、いつの間にか外人ばかりになっている。

 確かに、20年くらい前までは、工場のようなところでは、中南米系、特にブラジルの人たちなどが、工場などでよく働いていたと聞いている。

 勤勉でしっかりしたところもあり、自分たちで世界を作っていることで、アットホームに見えたらしい。

 特に何がいいのかと聞いてみると、

「彼らは民族性なのか、結構明るいんだよね。しかも、勤勉で真面目だから、日本の風俗習慣をちゃんとわかっていて、どんどん日本に馴染んでくるんだよ。それが実に頼もしく見えて、働いているうちに、外人だっていう気がしなくなるくらいのものだったよ」

 といっていたものだった。

 しかし、それが最近の話になると、

「今の外人どもは、昔のブラジル系の人たちとはまったく違うんだよな。ブラジルの人は家族でやってきたりしていたけど、最近の連中は、答案アジアあたりからだろう? 距離は近くなっても、風俗はまったく違うんだよな。あいつらは、日本人に馴染もうとしないし、自分たちの常識を却って押し付けようとしている連中が多い気がする。もちろん、皆がそうだとは言わないがな」

 といっていた。

 ただ、その言葉の裏で、

「そうは言いながら、結局、皆そうなんだ」

 と言っているのと同じだということはまるわかりであり、自分でも話を聞いていて、

「ああ、もっともだ」

 と、心の垢で鵜アズいていたのだった。

 昔の話を聞いていると、

「昔のブラジル人がどれだけ、優秀でしっかりしていて、それでいて、それでもまだ日本に馴染もうとしていて、彼らの方が日本人らしいかも知れないと思えるくらいなのに、最近の外人どもとくれば、自分の世界に入り込んでいて、外人同士仲がいいのかと思えば、そうでもないように見えるし、何よりも、馴染もうという気持ちがないんだよな。一番怖いのは、何を考えているか分からないということなんだよな」

 と、昔のブラジル人を知っている人は、そういう話をしている。

 そんな話を聞かされてくると、さすがに、今の外人に対して偏見の目で見る人が多いというのも分かる気がする。

 確かに人件費が安く。国からも言われ、その分補助金が出るとなると、雇わないわけにはいかない。

 それがいいことなのか悪いことなのかは、これは日本人が相手であっても、同じことなのだろうが、日本人の場合は自分が面接をして決めるので、ひどいやつだったとしても、雇ったのは自分なので、それなりに諦めのようなものは出るだろう。

「しょうがないよな」

 ということなのだろうが、外人の場合は、どちらかというと、

「押しつけ」

 のイメージが強いし。外人を一度面接したくらいで分かるはずもない。

「まるで、博打で雇うようなものだ」

 といってもいいだろう。

 とはいえ、しょうがないところがあるので、雇うしかないのだが、それにしても、腹が立つという。

「確かに、国の財政は苦しいだろうが、そのために、外人受け入れというのもしょうがないとしても、何で俺たちが請け負わなければいけないんだ? そもそも日本の財政を悪くしたのは、政府だろうが。俺は忘れちゃあいないぜ。十数年くらい前にあった、「消えた年金事件」というものを」

 というのであった。

 その時の、その客の顔は、かなり怒りに満ちていた。かなり、政府に対して不満を抱いているのだろう。

「とにかく、国や自治体が問題を起こすというのは、単純な事務処理ミスというのが多いんだよ。再犯防止と言いながら、同じようなミスを繰り返す。実際に、結構ニュースになっているから、皆、またかと思っているんだろうが、あれだって、しょせんは、氷山の一角にしか過ぎないのさ。実際に起こっている事件は、結構あって、それをどう処理するかということも大変だったりするのさ」

 というではないか。

「そうなんですね、あれだけあるので、それ以上はないのかっておもっていましたけど」

 というと、

「本当に細かいことあ、マスゴミだって、何も騒ぎはしないさ」

 というのを聞いて一瞬違和感を感じた。

「マスゴミですか?」

 と聞くと、

「ああ、マスゴミ さ、あいつらは、下手をすれば政府よりひどいかも知れない。ニュースが話題になるように、インタビューだって、切り抜いて報道したり、ニュースだってかなり誇張したり、私見をかなり入れてきたりするからね、何が真実なのか、分かったものじゃない。まるで。依頼者の利益が正義よりも優先する、弁護士のようじゃないか?」

 と、男は言った。

 なるほど、この男は、いろいろ文句を言っているが、ちゃんと理屈が分かっていて、文句を言っているんだということは分かった。

 そういう意味では、耳障りは正直よくはないが、

「しっかりと聞いてみたい」

 という気持ちにさせるに十分な気がした。

 彼が、

「マスゴミ」

 と言いたい気持ちは、福岡にもよく分かった。

 刑事などをしていると、事件について、新聞やニュースなどを見ていると、

「明らかに、インタビューなど、都合のいい人間や、その場所だけを切り取って取材を編集しているな」

 ということが分かる。

「要するに、マスゴミというのは、そういう姑息なことができる連中で、しかも、それを悪いことだと認識せずにできるだけの気持ちを持った人間でないと、やっていけない」

 というものなのかも知れない。

 そんなことを考えると、福岡は自分が刑事であることに、ある程度の誇りを持っているつもりであったが、

「人によっては、まったく違う見方だってするんだよな」

 と思うのだった。

 確かに、好きなことを好きなようにできないという苛立ちは警察に入ってから感じていた。

「縄張り意識」

 であったり、

「縦割り社会」

 などというのは、今に始まったことではない。

 考えてみれば、警察というのは、公務員ではないか。

 しかも、官僚にはありがちの、学歴社会でもある、警察学校でも、高等な学校を卒業していれば、

「キャリア組」

 として、研修の後、配属された時、すでに、

「警部補」

 という地位からである。

 つまり、普通に警察官になった人間は、最初は巡査から始まり、交番勤務を経てから、刑事などになる場合もあるが、キャリア組はそのあたりをすっ飛ばして、いきなり警部補である。

 すでに捜査権を与えられるという身分であり、一般の会社であれば、

「新入社員が研修終了後に、いきなり課長のポストを与えられるようなものだ」

 つまり、それだけキャリアというのは、すごいものであって、一般の警察官がどんなに出世をしても、警視あたりの、警察署長あたりがいいところであろう。

 ということは、それ以上の階級となると、キャリア組しかいないということになるのである。

 そう考えると、警察官を始めとする官僚は、入署とともに、すでに未来は決まっているというところであろうか?

 そんなことを考えていると、仕事をするのが嫌になる時もある。しかも、所轄の刑事ともなると、県警を挙げての捜査ともなれば、県警本部からやってきた人たちの奴隷扱いだ。

 運転手をさせられたり、表の警備に回されたりと、まるで、制服警官の頃に戻ったような嫌な気分にさせられることだろう。

 しかも地道に捜査してきたことも、

「情報共有」

 などという言葉につられて、最期には、せっかく自分たちで収集してきた貴重な情報まで吸い取られ、挙句の果てに、キャリア組の、

「手柄」

 にされてしまいかねないのだ。

 老練の刑事などは、地元の人たちに信任を受けていて、

「あの刑事ならあてになる」

 ということで、情報を流してもらって、自分の仕事に役立てていたのに、パッとやってきた県警本部のキャリア組に、そんな苦労が分かるはずもなく、

「使えるものは親でも使え」

 とばかりに、勝手に自分たちの好きなようにされてしまうのだった。

 そのせいで、それまで積み重ねてきた信用を失ってしまったりと、所轄の刑事にとっては、踏んだり蹴ったりであった。

 もっとも、キャリア組はキャリア組で大変なのかも知れない。

 何があっても、成果を出さないと、キャリア組の中でも落ちこぼれ扱いされ、さらに、ここまでうまくやってきた人が、ちょっとした人情などに流されて、ヘマをしてしまうと、

「せっかくのキャリアにクズが付く」

 ということで、これまでの苦労が水泡に帰すということになってしまうのだ。

 それを、上司から言われると、若いキャリア組は逆らえない。

「所轄の刑事など、踏み台にしたって、それは、キャリアじゃない、あいつらが悪いんだ」

 と言わんばかりである。

 そんな状況を鑑みると、そもそもの警察組織の縦割りが、いかに悪いということなのかが、分かるというものである。

 30年くらい前にあったトレンディドラマが流行った時代の刑事ドラマでは、そんなキャリア組と、ノンキャリアとの間の確執が、話題になったりした。

「警察で、自分のしたいことをするには、出世するしかない」

 であったり、

「キャリアでも、たった一度の失態が、命取りになってしまう」

 などと言った、キャリアはキャリアなりの苦悩があったりと、そんな刑事ドラマが流行り出した。

 それまではというと、一人の刑事が主人公で、彼のまわりの刑事たちと、事件を解決していくうえでのキーワードに、

「熱血」

 というものが付いたりした。

 いわゆる、

「熱血刑事ドラマ」

 である。

 かと思えば、カーチェイスであったり、アクションが中心となった、いわゆる、

「ハードボイルド」

 なドラマが注目された。

 爆破シーンであったり、狙撃シーン、まるで自衛隊のような、迷彩服に、装甲車に、ライフルと言った、レンジャー部隊のような連中が出てくることもある。

 そうなると、普通の刑事ドラマではなく、完全に犯罪も組織化されたもので、

「そんな犯罪が、帝都であったり、横浜で起こったら、一体どうなるか?」

 と言わんばかりのものではないだろうか?

 実際に、そんな昭和の刑事ドラマをなかなか見たことはなかったが、それが平成になると、今度は、警察組織内部を切り込むような作品が多くなった。何がどう影響したのか分からないが、そんな内容のもので、果たして、

「警察官になりたい」

 などという人がいるだろうか?

 昔だったら、本当に単純に、

「警察官になれば、国家権力を使って、合法に悪をやっつけることができる」

 と、子供の頃は感じたことだろう。

 そういう意味で、小学生に聞いた、

「なりたい職業」

 という中に、警察官も含まれていたかも知れない。

 ただ、その裏返しとして、

「危険が孕む職業」

 ということで、殉職を考えたり、危険な捜査でもしなければいけないということを考えると、二の足を踏むだろう。

 今であれば、まず間違いなく、

「警察官になりたい」

 などという人は、ほとんどいないのではないかと思うが、この数十年でどのように変わってきたのか、数年おきくらいに見てみたいものだった。

 そんな警察官になってから、この門松署に赴任してきてからというもの、それほど凶悪犯の事件が起こったことはなかった。

 隣の、酒殿署では、結構いろいろな事件が起こっていた。

 といっても、県庁所在地で事件を起こした犯人が、この地に潜伏していることが多かったからで、それは、今はなくなったが、酒殿署管内に、昔の暴力団事務所があったからだった。

 今では解散してしまったが、その残党と思えるような連中が、今も、裏で暗躍をしているようで、そんな連中に対して、犯罪を犯した連中が頼っていくようだった。

 いや、逆に、そんな連中から頼まれたり、命令された連中が事件を引き起こし、一時的な滞在をここで行い、後は、ルートに乗って、海外に高飛びなどという出来上がった路線に乗っていたのかも知れない。

 それを思うと、すでに確立された計画の中で行われてるということで、警察も後手後手意回ってしまい、組織の枠組みが分かっていないと、どうしても、謙虚には及ばないことになるだろう。

 そういう意味で、本部は必死にその経路を探っているようだが、相手もなかなか頭がいいのか、そう簡単に尻尾を出さない。

 今のところ、警察組織が、

「組織に踊らされてしまっている」

 というのが、関の山のようになっているようだった。

 それをどう打開するかというのが、県警本部の方でも、大変なようで、内偵を酒殿署管内に送り込んで、スパイ工作をしているようだ。

 かつては、その内偵が殺されるという事件が、酒殿署管内で起こったが、さすがに所轄にもシークレットな内容だったので、所轄が納得いかない形で、事件が曖昧にされてしまったことがあったようだ。

 隣の署なので、何も言えないし、縄張り意識からすれば、

「いい気味」

 なのだろうが、警察官としての気持ちとしては、どこかやり切れない思いに至っていたのだ。

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