第6話 閑話休題~マツコと婚活の話~

 今回はマッチングアプリとは少し離れて、結婚や婚活について心に残っていることを書いていこうかと思う。


 私が一通りの婚活を終了させたのは31歳くらいの時のこと。

 三十路の大台に乗り、仕事も嫌なことはあっても問題なくこなせて安定していた。30歳手前くらいで一年間結婚相談所に登録もして活動したが、私には結婚相談所が合わなかったこともあって継続はしないでスパッと退会した。

 多分、ここで一度私の中で婚活に対する一段落はついていたように思う。

 三十路を迎え徐々に婚活パーティーに行くこともなくなり、その変わりに新しく知った演劇の世界が楽しくて、友人と連れ立って観劇に行くようになっていた。


 そんなある日のこと。

 仕事でクタクタに疲れて帰宅して、毎週楽しみにしているマツコ・デラックスの番組を見ながら遅い夕食をとっていた。

 すると、何かの拍子で婚活の話になった。

 この時には、今までのように自分から出向いてしっかり婚活する意欲がなくなり、「一旦休憩しま~す」とばかりに羽根を伸ばしまくっていた。だから気持ちとしては、今後出会う人で良い人がいれば頑張ろう!くらいの気楽なものである。

 独りで生きていく覚悟もとっくの昔に出来ているので、焦りや恐怖心もなかった。


 「もう少しだけ、40歳までにもう一度だけ頑張ってみてほしい」


 テレビからは、そう言うマツコの声が流れてきた。


 詳細までは覚えていないが、話をまとめるとこういうことだった。

 皆30歳までに結婚しようと一生懸命頑張って婚活をする。そこで結婚が叶わなかった人も30歳過ぎくらいまでは頑張って婚活をするが、30代も半ばになってくると諦めてしまう。でも、そこをもう一踏ん張り、もう少しだけ頑張ってみてほしい。貴方が思うほど遅くはない。


 優しい人だなぁ、と思った。


 そして、この時ようやくある意味自分自身でかけてしまっていた呪いのようなものが少しだけ解けた気がした。


 私は「自分は若くない」と思う癖があるのだが、これはヴィジュアル系バンドの界隈で永らくひっそりと生息していることに原因がある。

 ヴィジュアル系バンドのファンは“バンギャ”と呼ばれるのだが、25歳も過ぎればおばさん扱いで“オバンギャ”と呼ばれるようになる。

 その上閉鎖的で圧倒的女性の世界なので容姿、体型、年齢に煩く、他ファンのことを匿名掲示板で土中にめりこむ勢いで叩いたりもするのである。恐ろしや~。

 私は細く長くひっそりと好きなバンドを応援していたかったので、足元を掬われないようにかなり気をつけてバンギャ活動を楽しんできた。

 その弊害が、25歳にして「もう若くない」という感覚を埋め込まれ、また自分自身でその価値観を疑わずにきてしまったことである。

 いやぁ、冷静に考えれば分かるはず。しかし変なところが真面目で素直なのでそういうものだと思い込んでいたのであった。勿体ないことをしたことよ……。


 そんな歪んだ価値観は今でも完全に抜けたわけではない。人間そうそう簡単に変われるものではないのだ。

 しかしこのマツコ・デラックスの話は、そんな自分自身の目を醒まさせるくらいの威力があった。


 「もう一踏ん張りかぁ」


 マツコが言うならそうなんだろう。

 ストレスですり減った心をマツコ・デラックスのバラエティー番組を見て笑うことで癒していた私は単純にそう思った。

 30代半ばで結婚出来る可能性は10%とも、7%とも言われている。

いずれにせよ高くない確率であるし、いつも少し残念な生き様の私にはその数%の可能性を掴めるとも思えなかった。


 「ま、今じゃないかぁ!」


 色々考えてみたところで、やっぱり最終的に楽天的な私はそう結論づけてマツコ・デラックスの番組を最後まで楽しみ、モリモリ晩御飯を食べたのであった。



 しかし、この話が私の心の端っこにずっとあった。

 “今じゃない”を何回も繰り返しながら、でもふとした瞬間に思い出すのだ。

 そしてその“今”が来た時、マツコの話が優しく背中を押してくれたのであった。


 「もう一度だけ頑張ってみよう」


 そして、これで駄目なら中古の家を買おう!

 そうして本格的にマッチングアプリでの婚活を進めることになるのである。





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