第17話 何も分からないよ
そこからのことなんてよく覚えていない。
いつの間にか高崎さんがナースコールを押していたのか、看護師さんが来ていて、気付いたら詩音の両親も来ていて、看護師さんが軽く現在の状況を話していて、またその次の瞬間にはもう家に居た。
飛び飛びになっている時間と記憶。
ぐちゃぐちゃになってしまった脳内で詩音の顔が渦巻き始める。
嬉しくて笑っていたときの顔。泣いてた時の顔。真剣に何かを考えているときの顔。
改めて僕の部屋の中を見渡せば、ここだけでもいっぱい彼女と僕との記憶が詰まっている。
その事実が余計に僕を虚しくして、どうでもよくなった僕は布団に包まって眠った。
♢
その翌日の朝、目を覚ますと母親からこんな状態の僕に追い討ちをかけるような話がされた。昨日、目を覚ました詩音は改めて検査を受けたが、特にどこにも異常はなかったということ。実際に僕以外の記憶で、例えば詩音の両親のことや授業内容などに関することには全く異常はなかった。
つまり、僕のことだけを綺麗に忘れてしまったということを。
その事実はもう幼馴染という腐れ縁をやめると宣言したからには、記憶喪失になってしまっている方が会わないで済むようになり、気楽になったと考えられるはずなのに、僕に重くのしかかってきた。
しばらく様子見をするということでまだ入院を続けるらしい詩音の元にも、もうなんとなくお見舞いに行く気にならず、学校もその日は休んだ。
何をやっているんだろう?もう何の関係でもないはずの詩音が僕のことを忘れて、勝手にそのことで苦しんで。……本当に馬鹿みたいだと自分のことを嘲笑いながら、そんな風に無気力に過ごしているうちにその日も終わり、休日になった。
だらだらと朝食をとっている内に今までのことを思い出し、憂鬱になり溜め息を吐く。
もう何もしたくない。ベッドの中にこもってずっと寝ていたい。
そんな欲望のまま、部屋に戻り布団に籠もっていると階下から母親が僕を呼ぶ声が聞こえてきた。
「真砂希!」
返事を返すのも億劫だったので無視をしていると再度声をかけられる。
「真砂希! お客さん来てるわよ!」
「はぁ……」
休日にわざわざ一体誰が何の用で?重たい体を起こしてパジャマ姿のままふらふらとした足取りで玄関に向かう。
そこに立っていたのは私服でおしゃれをしている高崎さんだった。
なんでここに?という疑問もさながら取り敢えず回らない口で挨拶だけでも絞り出す。
「……おはよう、高崎さん」
「おはようございます」
「……えっと、あのなんでここに?」
「それはですね……、ちょっと気晴らしにお出掛け、もといデートでもしないかと思いまして、そのお誘いに来ました」
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