第10話 ただ言えるとしたら
この疑問の答えを知るためには彼女に直接尋ねなければならなかったが、今はクラスメイトに囲まれている以上、近付いていって訊くわけにもいかなかった。
することもないので机に突っ伏している内に教師が入ってきて一限の授業が始まった。
その数分後いきなり教室後方のドアが開いて、少し息を切らした様子の女子が駆け込んできた。
「遅刻して……すみません」
「ああ神園さん、おはようございます。教科書の二十五ページを今やっているのですぐに開いてくださいね」
「はい。分かりました」
自分の席に向かう傍ら、詩音がじっと悲しそうな目で僕のことを見つめてきたが教科書を眺めて素知らぬふりをすることでやり過ごした……。
授業が終わると詩音が真砂希……と近付いてきたが、僕は彼女から逃げるように教室を出て、絶対に詩音の入ってこられない男子トイレに駆け込んだ。
ホッと一息吐くのも束の間、突然襟首が掴まれる。
「おい、桜木」
「……小林」
振り向けば先ほどのようにニヤニヤと小気味の悪い笑みを浮かべた小林がいた。
「よう、さっきは聞けなかったからな。改めて動画の感想、聞かせてくれよ」
「……感想なんて何もないよ」
「……ん〜、じゃあ俺が代わりにかわいそうなお前に聞かせてやろうか?ヘタレのお前には出来なかったことを。……まずね、神園の体めっちゃ良k」
これ以上聞くのははまずいと本能が告げたので必死に言葉を紡ぎ出して小林の言葉を遮った。
「……ただ言えるとしたら……いつの間にか二人って付き合ってたんだねっていうことくらいで」
「……ん?」
「えっ?」
小林が違和感を感じさせる声を出したので思わず小林のことを見つめる。
「あー、うん。そういうことね。お前、俺たちが付き合ってたの知らなかったんだ」
「……まぁ……うん」
「へぇ……」
何故か先程よりもニヤニヤと笑い出す小林。
「……詩音が選んだんだから大丈夫だと思うけど、一応言わせてほしい。……幼馴染として最後のお願い、……どうか詩音のこと大切にしてあげてほしい」
「えっ。……ああ。当たり前だろ。俺はお前とは違うからな」
僕を少し小馬鹿にしたように嘲笑ってくるが、詩音が小林を選んだことから僕の方が劣っていると判断されたというのは事実なので拳を握りしめて我慢をする。
その時、チャイムが鳴ったので僕は僕の中で渦巻く様々な感情からも、小林からも逃げるように教室に戻った。
そのため、その場に残っていた小林の何かを愉しむような声を聞くことは出来なかった。
「なーんか面白いことなってんな〜。さぁどうしようかな……?」
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