第9話 なんで、ここに?
カーテンの隙間から差し込む朝の日差しと鳥の鳴き声で目を覚ます。
昨日の目覚めとは少し違う目覚め。決していい目覚めとは言えなかったが、昨日と違って絶望的な体の気怠さはない。
どうせこれ以上は自分で何かをしないと変えられない、変わらないと思ったので体を起こす。
「……学校……行くか」
制服に着替えた姿で洗面所に向かい、そこで親と出くわすと途端に変な顔をされた。
「おはよう。もう体調は大丈夫なの?」
「えっ、……多分」
「多分ね……はぁ……あんまり無理しなくていいんだからね。……また前にみたいなことになるのは困るから」
「……うん」
「……取り敢えず、詩音ちゃんには会ったら謝っておきなさいよ。いつまでも喧嘩しているわけにもいかないんだから」
「……」
詩音とはもうなんでもない。関わらないって決めたから。そう母親に伝えるべきか迷ったがなんで?と聞かれた際の返答に困るのとわざわざ言うほどのことでもないと思ったので曖昧に頷いて朝ご飯を食べ始めた。
部屋に戻り、何となく窓の外を覗くと家の前の塀の影に人影が見えた。不審者かと思いそっと身を乗り出して覗くとそこにいたのは詩音だった。
「なんで家の外に……?」
いつもなら家の中に入ってくるのに。……僕の昨日言った言葉が少し響いているのかなとも思ったが考えすぎかと首を軽く横に振り、この考えを振り払った。
これじゃあ家から出られないなと思いながら、たまに外を覗いていると、登校時間が近付いてくるとチラチラと詩音が玄関の方をしきりに覗き出し始めたのに気付いた。
いつ家の中に上がってきて出くわすか分かったものではないので、急いで玄関まで行き靴を取り、玄関とは反対側の窓から家を出た。
こんなところを見られたら泥棒だと勘違いされても文句言えなさそうだなと思いながら裏の塀を乗り越えてそっと一人で学校に向かった。
なんとなく物足りない、嫌な登校な気がしたが、登校に何かを求めるのもおかしいと自分に言い聞かせて自分の内心に気付かないふりをした。
始業のチャイムの鳴るスレスレに教室に入ると小林がニヤニヤと笑いながら僕の元に寄ってきた。
「どうだった? 例のお前の幼馴染との動画の感想聞かせてくれよ」
「……」
僕にできるせめてもの抵抗として無視をすると、おいと呼び止められた上で腕を掴まれた。
「なんか言えよ」
「HR始めるよ〜。席ついてね〜」
タイミングよく担任が入ってくると小林は舌打ちをしながら僕の腕から手を離した。
後でなという捨て台詞を吐き、自分の席に戻っていく小林を見て僕は溜め息を吐きながら自分の席についた。
「おはようございます。いきなりですが今日は転校生を紹介します。それじゃあ入ってきていいよ〜」
変な時期に来る転校生だなと思っていたところに入ってきた人物の顔を見て僕は思わず唖然としてしまった。
「……なんで?」
僕のその声として出ていたのかも怪しいほど掠れていた声は誰にも届かなかったからか、誰一人僕の方など見ずに転校生の方を向いていた。
「どうも一ノ瀬茅羽耶です。皆さん、仲良くしていただけると嬉しいです」
「はい、ありがとう。じゃあ一ノ瀬さんの席は窓際の一番後ろ、吉川さんの後ろね」
「はい、分かりました」
「それじゃあ皆も仲良くしてあげてね。それじゃあ今日も一日頑張っていきましょう!」
クラスメイトがガヤガヤとし始める中、僕の脳内では担任と彼女の声が入ってこないほど、とある一つの疑問が渦巻いていた。
それはなんでわざわざ、この学校の、彼女にも因縁のある、よりによってこのクラスに転入をしてきたのかという。
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