終わりを迎えた片想いの追想曲
儚キ夢見シ(磯城)
第1話 始まりの音
中学生のとき、僕——
クラスのカーストトップに君臨するサッカー部のエースストライカー様、小林とその取り巻きには直接的に。そしてその他諸々の残りのクラスメイトにも無視という形で。
そんな僕に唯一優しくしてくれたのは幼馴染の
家が隣同士だから放課後僕の家に来て慰めてくれたり、僕が学校ではあまり関わらない方がいいと言って説得したにも関わらず、度がすぎるよと庇ってくれたり。
間違いなく僕はそんな彼女のことが好きだった。
それでも、こんなに弱くて情けなくて人に迷惑をかける僕だからと。彼女は誰にでも優しいんだから勘違いしてはいけないと、この関係が変わってしまうのが怖い臆病な僕は彼女に告白なんてことも出来ずにズルズルと時間だけがただ過ぎていった。
そんな僕の人生を文字通り変えることになったあの日。それは何の変哲もない日の中休みの時間だった……。
♢
次の授業が移動教室だからとボロボロにされた教科書とノートをロッカーから取り出して準備をしていると突然、ポケットに入れておいた僕のスマホが振動した。
取り出して見てみればメールがきていて、その送り主は小林。
正直なところ見たくないが、見なかったら見なかったで何をされるか分からない。大方、放課後女子を呼び出しておいたから告白してフラれてこいとかだろう。
呼び出される女子も可哀想だなと憂鬱げにそう思いながらメールを開くとそこには今すぐ見ろという文章とともに動画が添付されていた。
チラリと小林の方を見れば、ニヤニヤとどこか小気味の悪い笑みを浮かべている。
黙って動画の再生ボタンを押す。
動画を流し始めた瞬間に僕は思わず固まってしまった。
「えっ……?」
音声のなかったその動画で、僕の好きな人は、詩音は生まれたままの姿で小林とベッドの上で体を重ねていた。
小林と交わっている彼女は何かを呟くかのように口を動かしていて、その時の彼女の顔は僕の見たことのない顔をしていた。
気付いたらスマホが床に当たるカタンという音とともに僕の手から滑り落ちていて、目の前の世界が歪んでいた。
動悸が早くなり、呼吸が上手く出来ない。
立っていることも辛くなり思わずしゃがみ込んでしまう。
「真砂希? 大丈夫?」
僕の異変に気付いた詩音が僕に近付いてきて僕の肩を揺らす。
僕が落としたスマホを見てあっと声を上げる。
「真砂希……、スマホの画面バキバキに割れちゃってるじゃん……」
元々日頃のいじめに耐えかねてスマホ自体が傷付いていたが今の衝撃で完全にお亡くなりになってしまったらしい。
家に帰ったら親に何かを言われそうだが、今はそんなことどうでもいい。
スマホの画面が真っ暗になっても、あの詩音があられもない姿で乱れているシーンが僕の頭の中で永遠に再生されている。
「ごめん」
彼女の前にいるのに耐えかねた僕は取るものも取り敢えず彼女を押し退けて教室を飛び出した。
「えっ、ちょっと真砂希!?」
後ろから僕を引き止める声が聞こえるが聞こえないふりをした。
今はとにかくもう一杯一杯だったから。
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