第一試練33 期間終了

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第一試練‘紀行駆歩‘】 試練期間終了のご連絡



2025年11月7日24:00をもって第一試練‘紀行駆歩‘の試練期間を終了とさせていただきます。


期間内に徳島県鳴門市へ到達した参加者の皆さま、試練達成おめでとうございます.

ささやかではありますが、後ほど祝賀会をご用意しておりますのでしばらくお待ちください。


また、期間内に徳島県鳴門市へ到達されなかった参加者の皆さま。

誠に残念ではありますが試練未達成となります。

以降の状況について別途ご連絡いたしますので、その場でお待ちください。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


鳴門市に滞在して4日目。長かった第一試練がようやく終わった。

秋灯は他の参加者と情報交換をしたり、次の試練に向けて準備をしたりと忙しくなく動いていた。

明石海峡を切断した人物について九装ほど知っている人は見当たらなかった。

そもそも皆やっとのことで四国にたどり着いたので妨害行為をできるほど余裕がなかったと語っていた。

規定の一文に参加者同士の争いを禁ずると記載されていたことも大きい。


市内には橋の切断、そして崩壊させた人物の噂しか流れていなかった。

秋灯を特定できている人物は居なそうだったので、安心したが。


この4日で明音先輩の体調はほぼ回復した。

まだ魔力の使用に違和感があると言っていたが、今は部屋の中で高負荷の筋トレをしている。

倒立した状態で腕立て伏せってできるんだな。

四国に辿り着いてから明音先輩はみるみる元気を取り戻していったが、神様側が鳴門市内に何かしているのかもしれない。


試練期間終了の通知がreデバイスに届いてから一時間が経過した。

合わせて第一試練通過者の祝賀会が開催されると記載されていたが、日時や場所の記載がなかった。

いつ報せがあっても動けるようホテルの一室に明音先輩、伊扇と共に待機しているのだが、することがなくて暇である。

もう遅い時間なのですごく眠いが、眠気を覚ますためにも筋トレでもしていようかな。


「あ、明音さん。まだそんなに動いちゃダメですよ!」

「ずっと寝てたから身体が鈍ってるのよ。それにもうどこも痛くないわ。今のうちに勘を取り戻さないと。風穂野も一緒にやりましょうよ」

「い、いや私はそんな腕立て伏せできないです」

「最初は低負荷で慣らすといいわよ。普通の腕立ての姿勢が厳しいなら膝をついてやってもいいし」


明音先輩が筋トレ仲間を募っている。

伊扇は運動神経が残念なのであんまり動くと次の試練に支障をきたしそうなのだが。

明音先輩の熱心な勧誘に伊扇が折れる。


「ほら風穂野、まずは腕立て伏せの姿勢をキープよ。関節を痛めるから肘は少しだけ曲げてあと20秒」

「き、きついです。腕がプルプルします」

「ほらあと10秒。まだできるわ。まだよ、まだ降ろしちゃだめ。まだよ」

「も、もう無理ですっー!」


伊扇がべちゃりと床に崩れた。

明らかに10秒以上経過していた気がするが、ジムの熱血トレーナーのような指導の仕方だ。

四国に辿り着くまでに伊扇はだいぶ歩けるようになっていたが、腕の筋肉は変わっていなかったみたいだ。

これだと明日伊扇が筋肉痛で動けなくなってしまいそうなので助け舟を出す。


「明音先輩、筋トレよりも先に次の試練について話し合いたいんですが」

「あら、そう?でも話すことって何かあるかしら?どうせ試練の内容は分からないんだし」

「それもそうですが、現状の整理とあと祝賀会でどうするか話しておきたいです」


はいはいというように、明音先輩が畳に突っ伏している伊扇を残しこちらに近づいてくる。


「先輩の体調は回復したとして、魔力についてはどうですか?」

「まだ使いづらいわね。でも身体の強化は短時間ならできそうよ」

「他の参加者からの情報ですが、ある程度魔力が使える人が増えてきています。明音先輩と同じように急に使えるようになったとか。もし他の参加者と戦うときは相手が魔力を使える可能性があることを覚えておいてください」

「分かったわ。でも他の人も魔力が使えるのね。なんか特別感が薄まるわね」

「明音先輩みたいに身体をゴリラのように強化できるとは思えませんが、、中にはいるかもしれないですね」

「ゴリラって何よ。私が魔力を使ったらゴリラなんて目じゃないわよ」


怒るポイントはそこか。

確かに魔力ありきならゴリラと殴り合いをしても普通に勝ちそうだ。


「でも渡ってきたあの橋を切断したり壊したりできる参加者もいるのよね。私もそれくらいできるように鍛えないと」


橋を崩壊させた人間は明音先輩より非力だが。

先輩の思い浮かべている姿が筋肉もりもりのボディビルダーを想像していそうで怖い。


「とりあえず、魔力の使用はもう少しの間控えておいてください。緊急時以外は使わないように」

「・・むぅ、分かってるわよ」


本当は魔力も使って全力で動きたいのだろう。

明音先輩が倒れている間、体調もつらそうだったが、それに加えてじっとしていることが大変だった。

よくあれだけ大人しく寝ていてくれたと思う。


「あのあのえと。・・次の試練、もし一緒に行動できるようであれば、その、私も・・・」


倒れていた伊扇がようやく起きてきた。

緊張した表情で何を言い出すかと思ったが。


「当たり前でしょ!別れるなんていやよ。こんなに仲良くなれたのに」

「それは勿論ですよ。個人のバトルロイヤルとかでない限り協力して挑みましょう。それに今更一緒に行動しないと言うのもなんか変ですし」


伊扇にとって仲間に入れてもらったという意識がまだ強いのだろう。

秋灯自身最初の予定では四国に着いたら別れるつもりだったが、伊扇にはたくさん助けられた。

突風で迷惑をかけられたりもしたが。


秋灯の抱いている願いは変わらないが、伊扇にも試練に敗退して欲しくないと感じている。


「そもそも秋灯と一緒にいるのだって成り行きだったし、変に遠慮しなくていいわよ。お互い縁があったんだから大切にしましょう」


時々男気を感じさせてくるよなこの人。

そういえば高校でも同性にモテていたっけ。


「とりあえず次の試練も挑めたらこの三人で行動しましょう。それと祝賀会では言動に気をつけてください。当たり障りない会話であればいいですが、明音先輩と伊扇さんの二人が魔力を使えること、それと時間解凍の拡張についても洩らさないようにしてください。明音先輩は初対面の相手でもツンケンしない。伊扇さんは緊張して突風を出さないようお願いしますね」


伊扇が先輩の言葉に感動しているところ悪いが、祝賀会について一応釘を指しておく。

二人とも会話や態度が不器用なので注意してほしい。


「分かってるわよ」

「は、はい、気をつけますー」


二人とも返事してくれるが、先輩はちょっと拗ねていた。


一通り状況の整理がついたところでreデバイスから音がなる。

目覚ましのようなレーダー音でつい身体がびくついてしまった。


音を止めようとデバイスを触るが強く発光する。

光は秋灯の足元に延び、丸い円環を描く。

幾何学的な模様が見えるが光が強すぎて目を開けていられない。

明音先輩、伊扇の足元にも同じように白く発光する円環が浮かびあがっている。


「二人とも注意してください!!」

「ええ!」

「わかりました!」


言葉を言い終えたところで、一瞬身体が浮き、そして光が収まるのを瞼の裏で感じ取る。

目を強く瞑り、ピントを調節した後ゆっくり目を開けるが、

そこはホテルの客室ではなく、薄青の空と浅い海。そして神社のような社殿がぽつんと置かれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る