第一試練20 秋灯の迷走

時間解凍の原理に悩む秋灯。今回秋灯の思考が長いです


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一日振り続けた雨はようやく止み、今日は雲一つない快晴だった.

風も穏やかで心地よい秋の日射しが差し込んでくいる。


「ふぅーーーーーーー」


秋灯は大きめの呼吸を落とす.

旅館の隣に大きめの寺院があったため今日はここで練習すると決めた.

本殿の軒下で座禅を組みつつ、瞼を閉じて瞑想を続ける.


ーー時間が止まるとは何だろう。


突然世界の時間が静止し、皇居を目指して歩き、そして今試練に挑んでいる.

これまでいくつもの物体、建物の解凍を当たり前のように行ってきたが、時間の静止について今一度考えてみる.


化学的に説明するなら物体を構成する原子が固定された状況.

外からどれほど力を加えても形を変えることなく、物質の構成元素が位置を変えることがない.

また物体に対し手を加えなくても自然と変化する劣化ーー実際は腐食やさび、風化などは酸素や水分、温度などの外的要因による化学反応だがーーについても同様、状態が変化することもない.


時間が止まっているとは、

"周辺の環境が変化したとしても物体が持っている性質が一切変化しない"ことと言える.


だがここでいくつか疑問が残る.


ーー時間が止まってるのになんで普通に生活できている?


そもそも時間が止まった物体は性質を変化させないはずだが、なぜ普段通りにーー時間が動いていたときと同じようにーー生活できているのだろう.道路を歩く時、普通の地面と変わらず歩くことが出来る。不自由な点は異様に硬くて足が疲れることくらいだ。止まったはずの建物も光の反射によって視認できる.


止まった物体に対して音や熱は伝わらないのは確認したが、なぜ摩擦や光の反射は生じているのか。

摩擦とは物体の動きに逆らうように働く力のはずだ.外力とは逆向きに起こる力だが、物体が止まっていたら力を加えても状態は変化せず力も返ってこない.

光の反射についても静止した物体に光を当てても状態が変化しない、つまりブラックホールと同じような原理で光が返ってくることは無く目視できない、あるいは黒い物体として見えるのではないか.


おそらく他にも時間の静止により不自由なことが起こるはずだ.だが、今の世界では全くと言っていいほどそれを感じない.


神様をこの目で見て、魔力が普通にあるファンタジーのような世界に変わってしまったのだから、何でもありだろと考えるのは簡単だが、物事には原因がある.魔力も所詮人間の身体から生産されるエネルギーにしかすぎない.


ーーこの世界にはおそらく調整が入っている。


秋灯が立てていた仮説は、時間が静止している物体には膜のようなものが形成されているのではないかという説だ。

それが摩擦や視認性など、試練に不自由なく挑めるよう調整しているのではないか.神様とやらがこの試練を円滑に進められるように.


一度だけ時間解凍に中途半端に成功したことがあった.


まだreデバイスの扱いに慣れておらず、立体構造の構築のプロセスを試案していた時.

一軒家の解凍において、範囲の指定が甘くて駐車場を範囲の中にに収めることができなかった.

結果解凍できたのは建物部分だけだったが、指定した範囲の境界線上にあたる駐車場の路面が線で引かれたように黒くなっていた.触るとそこだけツルツルしていたのを覚えている.

正直旅の疲れもあってその時は深く考えなかったが、おそらくあれは時間が静止した状態で表面の膜だけ解凍できたのではないか.


もし、その膜だけを時間解凍することができれば、摩擦がない物質ができる.

膜自体の時間が止まっているかわからないが、reデバイスを用いればそれを取り除くことが可能だ.


摩擦がゼロの物質を活用できれば、道路を滑って移動できるかもしれない.

病人の明音先輩をほぼ寝ながら移動させることができる.


ーー摩擦がない物。なんとなくできそうなんだよな。


思考が一区切りしたところで秋灯は目を開ける.

板の間には毛氈(もうせん)と呼ばる赤い敷物が時間が止まったまま放置されている.

手にはreデバイスをもち、敷物の立体構造を把握していく.

いつもの時間解凍のプロセスでは物体の表面の膜ーー調整膜と呼ぶことにするーーそれを取り除くことはできないため、さらに構造の把握を深めていく.


集中、集中、一点だけを見つめ、集中を深める.

時間解答は一日に3回だけ.練習の回数は限られているので一回が貴重だ.


物質の表面のあまりに薄い調整膜のみに解凍の範囲を指定していく.

中身はそのまま止まったままで、固定された物質との境界線上を意識する.


「座標軸固定、完了.認識拡張、完了.立体展開、、、完了」


ギリギリと頭を締め付けられるようだ.

極小な範囲の指定がここまで大変だったとは。


「記憶開始、、、、、、完了.アンチフリーズ」


毛氈(もうせん)の時間が動き出す.

一面赤色だったはずの敷物に黒い水玉模様が浮かびあがる。

水玉の部分は光を飲み込みそうなほど深い黒色に染まっている。


「はぁはぁ・・・・失敗か」


秋灯は黒く染まった部分をなぞる.

異様なほどツルツルしていて掴んで持ち上げようとするがうまく触ることが出来ない。

立てていた仮説通り調整膜を取り除くことができたが、これでは移動に使うことができない.


一旦自身の仮説が立証できたことに喜びつつ、先は長そうだなと感じた.


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[語句説明]

■時間停止の物体の層

【外面】  調整膜ー物体の位置固定の膜ー物体の原子構造の固定の層ー霊層 【内面】


時間が停止した物:外面を覆う二つの膜とその中に原子が固定されている。


・調整膜:

試練を円滑に進めるため、時間が動いていた世界と同じように人が生活できるよう物体に付加されている。

摩擦力、光の反射、重力、反発力など本来時間が停止した物体に働かない力を再現している。


・位置固定層:

地球の座標に物を固定するために付加されている。物体の位置を固定している。

地球の自転、公転に伴い位置を固定してしまうと停止した物が地球に置き去りにされてしまうため用意された。



・原子固定層:

物の物体の状態(原子)を固定している。

時間が止まった状態で移動させることができる.固く、摩擦が働かず、黒い 


調整膜は「人の生存のため用意された膜」

位置固定層「世界の状態の保存のために用意された膜」

原子固定層「状態の固定。時間の停止が”原子の固定”のみに適用」



時間停止とは本来、世界全てに行い部分的に実施することはできない。

また、時間停止の中では人が動くことが出来ない。一部の神は動くことが出来る。

(物理的に動けず、また人の存在する次元が時間より下位のため動くことが出来ない)


試練が始まって世界の時間が停止したように説明されているが、厳密には

「物体の状態(原子)」のみ停止しており、「位置層」「霊層」は停止していない。


神の試練では時間停止の世界を”再現”している。



時間解凍アンチフリーズ   :時間が動き出す.(調整膜、位置固定膜、原子固定層の解凍)

摩擦解凍アンチフリークス  :摩擦がなくなる。移動できない。(調整膜の解凍)

座標解凍アンチロケーズ   :摩擦がなくなる。移動できる。(調整膜、位置固定膜の解凍)

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