第四十話

「到着っと」

 アトレイアのテレポートで俺達はエルフの里がある大森林の近くまで飛んできた。

「ここからは徒歩での移動になるわね」

「とても……大きいですね」

 目の前に広がる森林を前に、スピカが呆然と呟く。

「さ、行きましょう。彼らはこの奥よ」

 颯爽と歩き出すアトレイア。スピカはかぶりを振って追いかけた。

「ふふ、ピクニックみたいですね」

「……モカロネ、遊びじゃないからな」

「ええ、わかっています」

 何も言わないが、ライアンも少し後ろを付いてきている。

 俺達はひたすらクローン大森林を奥へと進んでいた。途中、様々な動物の顔した奴らに襲われたらしいが、この森独自の魔物だろうか。らしいというのは、俺は直接見ていないからだ。モカロネが察知し、アトレイアが魔術で遠距離から迎撃。漏れた敵はライアンとスピカが追撃を行う陣形だ。そのため、俺の視界に入る前に全てが終わっていた。特に、このスピカという少女は尋常ではないくらい強い。もし、勇者に選ばれたのが俺ではなくスピカであれば、ここまで事態はややこしくならなかったであろう。それくらいスピカには可能性と才覚を感じた。

 森の奥に入ってからしばらく、日の入りが悪くなり、薄暗い中さらに霧がかかり視界が曖昧だ。

 空気もひんやりして気味が悪い。

「本当にここにエルフがいるんでしょうか…」

 スピカが不安そうにつぶやいた。気持ちは非常にわかる。正直、生き物が住んでいるようには思えないからだ。だが、他に手掛かりもないため、粘る以外選択肢がないのも事実だ。

 その時、どこからか声がした。

「お前たち何者だ!」

 こちらを詰問する鋭い声と共に、何人かの影が俺たちを取り囲んだ。この霧のせいか、ほとんど気配がしなかった。

 俺たちは背中を預けながら武器を構える。代表して俺が声を上げた。この口上も久しぶりだな。

「俺は勇者セオドア、エルフの里に用があって尋ねてきた!」

「勇者セオドア?エルフの里?…‥貴様何を寝ぼけたことを」

 その一言で、嘲笑が木霊した。

「……」

「どこからそんな戯言を聞きつけたか知らないが、ここは神聖な森、集団自殺なら他を当たれ、さもなければ」

 あたりが剣呑な雰囲気に包まれる。

 このままでは戦闘が始まりかねない。

「はあ……仕方ない」

 俺は右手の甲に刻まれた聖刻を光らせる。コツは簡単、右手に力を込めるだけだ。

「その紋章は……!?」

 この反応も、先の戦いで腐るほど見てきた。

 それより、先ほどから彼らがエルフであることは分かっていた。なぜなら、霧に映る彼らの影、特に耳の部分が。

「思いっきり尖っていますね……」

 スピカのトドメの一言で、エルフたちが何やら話し合う。

「いいのか、本当に」

「お前も見ただろ、あれは本物だ」

 コソコソ話し合っていたエルフだが、突然霧の中から姿を現した。

「いいだろう、お前達を長老様のもとへ連れて行ってやる、付いてこい」

 返事も聞かずに歩き出してしまった。

「行くか」

 俺たちもエルフの後を追った。



 しばらく着いていくと、急に開けた場所にでた。そこに広がっているのは……。

「すごい…!」

「こんな場所が…」

 森に囲まれた中に、人里が急に出てきたような感覚だ。そこらで、子供のエルフが走り回っていた。

「ここが、エルフの里か」

「長老はこの先だ」

 案内に従えば、一際大きな家が見える。

 広間には、一際年老いたエルフがいた。

「よく来たな……勇者セオドアよ」

「っ!?」

 俺は名乗ってなどいない。たしか俺たちを発見したエルフたちもずっと俺のそばにいたはずだ。

「センブリーらよ、ご苦労であった下がるが良い」

「はっ!」

 固まる俺たちを置いて、エルフ達は部屋を出て行く。

「そこへ」

 座布団がなぜか人数分用意されていて、俺達はあっという間に場を支配される。さすが、ただでさえ長命な種族の長を務めるだけはある。

「ここへ来たということは、読んだのじゃな?」

「ええ、話とそれに」

「わかっておる。その膝じゃな?そして、今代の王女がそなた……」

 もはや、当たり前のようにこちらの目的を見透かした後、意味深にアトレイアを見つめた長老。

「お初にお目にかかります。私、アトレイア・フォン・シストニオと申します。この度の急な訪問――」

 さすがに慣れているのか、スラスラ口上を並べるアトレイア。

「よいよい、儂らも魔王の復活は把握しておる。それに、不可侵条約を結んだとはいえ、主らにも我らの血が流れておる、それを無碍にしたりはせん」

 笑みをこぼし、そういう長老。

「感謝いたします」

「本来であればそなた一人一人に挨拶が必要であろうが、今日は日も遅い。ゆっくり休んで、また明日本題に入りたいと思うが、いかがかな?」

 荘厳な中に優しさを感じる声で、長老は提案した。断る理由もなく、俺たちは各自部屋に案内される。

 しかし、去り際に。

 最後に部屋を出ようとした俺へ長老はボソッと。

「気をつけなさい、敵はすでに中へ」

 不穏なことを言ったのであった。



 魔王城を出たガミジンとレラジェは、を頼りに大森林を進んでいた。

「僕の能力が使えそうだ…‥面倒だけど」

「……」

「わかってる、この先は案内なしには辿り着けないんだろう?面倒くさいなぁ」

 地に倒れ伏したエルフの背をさするガミジン。

《ズ・ダ・ロクネ》

 唱えると、先ほど襲ってきたエルフの背がぴくりと震えゆらゆら蠢いた。

「じゃあ案内して」

「……」

 無言で歩み始めるエルフ。

 二人の魔族は静かに、しかし着々と侵攻を開始していた。

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