第十七話 エリートゴブリン
ゴブリンは、階級が上がるほどに背丈が伸び狡猾さを増す。
なぜ、エリートゴブリンが赤いバンダナをするのか、そもそも赤いバンダナをどこから調達しているのかについては、未だ解明されていないゴブリンの謎である。
一説には、ハイゴブリンからの進化条件に赤いバンダナの裁縫を唱える学者も存在するが諸説ある。
こうした、謎の多いエリートゴブリン六体を追ったスピカであったが、彼女はまさにその悪辣さを味わっていた。
矢を放ってきたゴブリンは駆けつけた頃にはもうその場におらず、辺りは静寂に包まれている。
「もうっ、どこに潜んでいるんですか……というかよくセオドアさんは把握できましたね」
スピカは焦りに焦っていた。
「早く倒して合流しないと行けないのにっ」
セオドアがいつまで持ちこたえられるか分からない以上、自身が急がねばならないのだが、全くと言って良いほどゴブリンの気配は掴めなかった。
というのも、エリートともなれば戦闘のようなリスクの高い行動を進んで選択しないのだ。
スピカの力量、というより精霊の攻撃をかわせるような相手には、まず近づいてこない。
そして、隙があれば人間を即殺出来る毒をもって遠距離攻撃を仕掛ける。
この慎重さと厄介さが、彼らを上級魔物たらしめ、同時にバンダナの謎を掴ませないでいた。
「せめて、もう一発撃ってくれたら分かるんですけどねぇ」
スピカは、幼い頃から遊び相手がいない寂しさを紛らわすため度々思ったことを口に出す癖があった。
しかし、本人はこの癖が意外と捨てたものではないと考えている。
「なんか、頭が冴える気がするんだよなぁ、思い込みかな?」
ここで、スピカはゴブリン探しを諦めた。
「考え方を変えてみよっ……そういえば、ゴブリンはどうやって連携を取っているんだろう」
これだけ気配がしなければ、他のゴブリンも仲間に気付かないのではないか、スピカは疑問に思った。
「魔物の中には嗅覚とか聴覚が鋭くて、居場所どころか感情も分かるなんて聞いたことがあったっけ?」
ただ、ここら一帯は木の根が轟音を撒き散らしているため聴覚は使い物にならなそうだ。
それに、ゴブリンは悪臭が凄まじい。
よしんば、匂いで位置がわかるとしても攻撃を開始する合図、ひいては感情を伝えるような繊細な真似は出来ないだろうとスピカは考えた。
「あれ?そういえば師匠はどうして分かったんだろう……というかいつ?」
もし最初から気付いていれば、スピカに伝えないわけがない。
だから、セオドアが気付いたのは精霊との戦闘が始まってからのこと。
もっと言えば、最初にゴブリンが攻撃してきたタイミングだ。
「ゴブリンが見えたから?だとしたらどうして全員の気配まで……」
ゴブリンは相当の胆力があるのか、未だスピカに攻撃してくる気配がない。
最初に攻撃したのは、きっと精霊の存在にスピカが気を取られ、ゴブリンには気付かなかったから。
今攻撃してこないのは、最初の一発を避けられたから。そんなところであろう。
ならば。
「よしっ……やってみよう」
スピカはそう呟くと、剣を掴む力を抜きその場に落とした。
それだけでなく、全身を脱力させ周りに漂う魔力、その動きに意識を集中させた。
「いつでもいいよ?」
師匠っぽく言ってみたりする。
ところで、ゴブリンはこのように慎重さを持っているが決して人間ほど賢くはない。
つまり、獲物が自身に害を加えかねる武器を持っていないと分かれば。
「ッ……くる」
抜いていた力を一気に入れ、今度はその場で飛び上がる。
足に向けて放たれた矢は、すんでの所でスピカに当たらず地面に刺さった。
同時に、矢を放つ際に飛ばされた魔力の行き先を捉える。
答えは単純、攻撃を仕掛けるタイミングで微弱な魔力を飛ばしていたのだった。
「分かった……5、あと一体は……まずいっ」
と言いつつ、着地と同時に矢を放ったゴブリンのもとへ駆け出したスピカ。
すぐさま、弓手のエリートゴブリンを視界に捉える。
「絶対山の中で赤いバンダナは止めて方が良いよ?わかりやすいから」
流石のゴブリンも逃げられないことを悟ったのか、腰に差したナイフを構える。
遠距離攻撃をしがちなエリートゴブリンであるが、決して近距離戦が苦手だと言うことはない。
少なくともハイゴブリンよりはずっと戦闘スキルがある。はずなのだが……。
「gyagga!?」
「一体目――次ッ!」
捉えた魔力を追って、スピカは次の標的の元へ跳んでいく。
先程掴んだ魔力の方向を覚え、スピカは駆ける。
その後、立て続けに5体のゴブリンを屠ると、スピカは喜ぶこともなくセオドアの元へ急いだ。
「お願いっ、気付いて……最後の一体はそっちにッ」
一方その頃、弟子に安全を願われた師匠と言えば。
「うおっ、なんだこいつ」
背後から襲ってきたゴブリンを、
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