第十八話 何でもアリな精霊
心臓めがけて飛んできた根に対し、ゴブリンを突き飛ばすことで盾にする。
「gigiajek!?」
俺の代わりに胸を貫かれたゴブリンは、一呼吸の間に干からびてしまった。
「やはり、俺の勘は正しかったようだ……」
触れたら生気を吸い取られる類いの性質か、ますます迂闊な接近が命取りだと分かった。
ありがとう、見ず知らずのゴブリン君。
しかし、精霊の繰り出す根は、気付かれたなら最後とでも言わんばかりに急増する。
「おいおい、なんて数出してんだよ……」
四方八方から襲いかかってくるその根を避ける、避ける。ひたすら避ける。
近づこうにも、精霊の周りも根で密集していて、とても触れずにはたどり着けそうもない。
こうなったら仕方ない。
「これはスピカと合流してから使いたかったんだがな……ッ!」
俺は、両足の勇者化に加え全身に纏っていた魔力を、一時的に高める。
これで、より俊敏な動きを可能にするのだ。
勇者化ほどではないにせよ、魔力の消費が激しいからあまり長い間は使えないが、そうも言っていられない。
それに。
「……!」
今、スピカの魔力を感じた。
無事、ゴブリンを倒せたようだ。
任せたとは言え、まさか本当に倒してしまうとは。
流石天才。
彼女には、このまま精霊の隙を見つけてもらう。
「なに、ゴブリンのせいで回り道はしたが先に進めそうだ」
かねてからの作戦、『俺が防御を引き受け、スピカが機を窺って攻める』をこれから始めるとしよう。
「攻撃は最大の防御だ……ってな?」
「……!」
勢いよく駆け出し、密集した根を射程範囲に捉える。
「ハアアッ!」
深く踏み込み、魔力を込めた剣を思い切り振るう。
「……!?」
広範囲の斬撃で、大地は根こそぎめくれた。
一瞬の空白を使って、精霊に向かって突撃する。
「……!」
心なしか精霊が目を見開いたように感じたが、すぐに根に囲まれて全身を隠してしまった。
「隠れたって意味ないぜ?」
上下左右から伸びてくる根を躱しながら、再び剣に魔力を込め飛ぶ斬撃を繰り出す。
「触れると吸い取られるなら、触れずに斬ればよかろうなのだーッ!」
連撃で精霊の装甲を剥がしに掛かる。
そのとき、真後ろで死の気配を感じ取った。
「ッ!」
反転しながら剣を構えると、横に振るった腕を空振らせた精霊がそこにいた。
足下を見れば、精霊の足が木の根と同化しているではないか。
こいつ、木の根を伝って自由に移動出来るのか!?
「何でもありだな……ッ!」
木の根と同化できるなら、あの腕も根と同質だと考えた方が良さそうだ。
つまり。
「あれにも触れてはだめなのね」
気をつけることは多いが、大丈夫だ。
自身が引きつけるほど、スピカが攻撃しやすいのだから。
「さてさて、スピカの奴は隙を見つけてくれたかな?」
「あ、今こっちに避けたからそこで…あぁ、ここで持ち替えるんだ…わっ、今の普通そう避ける!?」
セオドアが必死に精霊の意識を引きつけている間、スピカは物陰から攻撃の隙を探していた……のではなく、セオドアの動きに圧倒されていた。
「えぇ、斬撃って飛ばせるんだ……セオドアさんすごすぎ」
まるでスポーツを見ているかのように、セオドアの一挙手一投足を追うスピカ。
今まで戦闘を独学でこなしてきた彼女にとって、この実践的な身稽古は言わば宝のような時間であった。
相手や攻撃に対する間合いの取り方、または詰め方。
武器をどんな姿勢で振るうか、受けるか。
全てが彼女に新たな財産として蓄積されていく。
その様子はもはや共闘どころではないのだが、現状を見たら泣き出しそうなセオドアに、今のスピカを知る術はない。
よって、彼女は誰にも咎められることなく、この至福の時間を堪能していた。
「そうだ、隙!隙を探さないと!」
しばらくして、本懐を思い出したうっかりさんは観察の対象をようやくセオドアから精霊に変えた。
「ごちゃごちゃ考えても仕方ないし、とりあえずやってみよう!」
セオドアが人外じみた斬撃を飛ばし、精霊の顔を露わにした瞬間。
スピカは死角から飛び出していた。
しかし。
グルンッと、人間ではあり得ない挙動で精霊の顔面が180度回転し、スピカを捉える。
「うわっ!?」
不意を突かれ、攻撃の機会を逃してしまう。
「キエェェェェェェ!!!!」
奇声と共に精霊が拳を地面に叩き付けると、大量の根が波状に飛び出し俺とスピカに距離を取らせた。
「こんなのもできんのね……今更驚かないけど」
スピカと合流し、所感を述べる。
「すいません、師匠……」
「人間の形をしているからややこしいけど、俺達の尺度で考えない方が良さそうだ」
「そ、そうですよね、やっぱり人間には不可能だったんだ……」
「試さないでね……?」
距離を取らせた精霊は、木の根を引っ込め、次に体中から青白い何かを溢れさせる。
「あれは………魔力の塊か?」
魔力の塊は、ポトリポトリと実った果実のごとく精霊の足下に落下し、徐々にその姿を変化させる。
やがて、生まれたそれはまるで。
「動物……?」
スピカの呟きが森にこだまする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます