第15話 ギチョバチャ
全員が足元を見ると、二匹の小動物がシバの足元に捕まっていた。
一匹は、白い毛を持つミニサイズの羊のような丸い動物、もう一匹は、クリクリした目のネズミとハムスターの中間のような動物だ。
彼らは、シバの視線に気づくと、一気によじのぼって肩にやってきた。
「おぉ、本当に懐かれるんですね。すごいな……」
ヤマトが目を見張って説明する。
「この白くて丸い方はロルファンって種で人懐こいんですけど、こっちのノースクラウンは、基本的には女性好きで、男性には近づこうとしないんですよ」
「どっちも可愛い……」
ナイラが心を奪われたように細い指を出すと、二匹は素直に撫でられた。が、ヤマトはそれを見て慌てた様子で忠告した。
「あ、怪我してないですか?ノースクラウンは凶暴なので気をつけてくださいね」
「凶暴?全然そうは見えねぇけどな」
パジーがナイラの肩から覗き込むように顔を近づける。
すると、ノースクラウンの愛くるしい顔が豹変し、パジーの翼に喰らいついた。
「イタタタタッ!なんでこいつ俺にだけ……!」
「手負いの動物を見ると、追い打ちをかける性質なんです」ヤマトが申し訳なさそうに言う。
「怪我してないってそういうことかよ!薄汚ぇ本能だな!」
パジーがネズミを引き剥がそうと格闘しながら叫ぶ。
「つーか俺、怪我した覚えねぇんだが!?」
「あ、ホテルで羽むしられてるからじゃないですか?」
シバが思い出したように言う。
「あのババァ……!」
ヤマトの助けによってノースクラウンは引き剥がされると、先ほどの愛らしさはどこへやら、パジーに向かって意地悪そうにニヤリと笑った。
「カーッ!どいつもこいつも舐めくさりやがって!」
「パジーっていつもこんな可哀想なの?」ナイラがシバに尋ねる。
「おい!可哀想とか言うな!」
ノースクラウンはヤマトの手をもがいて逃れると、シバの肩に再び登ってきた。
「良かったら、連れてってもらっていいですよ」ヤマトが笑って勧めた。「この子たち、ここに住み着いちゃっただけで、元々野生なので」
「そうなんですか?」
「おいおいおい、余計なこと言うんじゃねぇよ。危険な生物連れ歩く羽目になるだろ」
シバがもう噛まれないよう空中に逃げながら非難するも、二匹と遊ぶシバには届いていない。
「うーん、じゃあ……」
シバは首を傾げると、ノースクラウンを指差し、
「ギチョギチョと」
ロルファンを指差し、
「バチャバチャ」
「……嘘。それ、名前?」
唖然としているナイラに向かって、シバは満面の笑顔で言った。
「はい!二人揃ってギチョバチャです」
「さすがに不憫過ぎる……」ナイラが動物たちに同情を寄せた。
「ネーミングセンスが壊滅してんな」パジーはもはや感心している。
「おいでギチョバチャ」
シバがジャケットのポケットを開いてみせると、待ってましたとばかりにギチョギチョとバチャバチャはその中に収まった。
図らずも動物を三匹手に入れた三人――見た目には四匹と二人――が飼育小屋からヤマトの家に戻る頃には、日はすっかり落ちていて、西の空に残火があるばかりだった。
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次話、流行り病に向き合います。
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