第3章 追尋
第25話 空に浮かぶ博士
朝四時。
太陽が曙光を見せているが、まだ世界は微睡みの中。
川の上には靄が立ち込め、朝露に濡れた草の濃い匂いがする。
シバとナイラがドド橋で車を降りると、橋の欄干に止まってうつらうつらしている波ジーを見つけた。
「おはようございます」
シバが挨拶すると、パジーが目を覚ます。
「おぉ、お疲れ。あん?二人一緒に来たのか」
「はい、昨日はナイラの家に――」
シバが言い終わる前に、ナイラから鋭く高い蹴りが入り、シバが地面につんのめった。
「おぉ⁉なんだどうした⁉」
「背中に虫がいた」ナイラは超然と答える。
「バイオレンスすぎねぇ……?」パジーが引いている。
「で、博士ってどこにいるの?」
ナイラが聞くと、パジーは無言で翼で上を指した。
ナイラは二、三度瞬きする。
「どういうこと?地上に住んでるって言ってたじゃない」
「いや、物理的に上だ。見てみろ」
ナイラが言われた通りに空を仰ぐと、百メートルほど上空に、何か銀色の人工的な物体が浮いていた。
目を凝らして観察すると、それは巨大な風船を数個くくりつけた椅子だった。
「あれにその人が乗ってるの?」
「おう。天空石のあるこの時代に、風船で空を飛ぼうってんだ。風変わりな女だよ」
パジーは肩をすくめた。
「気持ちよさそうですねー」シバが地面から見上げて呑気に言った。「航空省の飛行許可はもらってるんでしょうか」
「んな訳ねぇだろ。賭けてもいいぜ」
「あれ、いつ帰ってくるの?」
ナイラが気球を指差す。
「わからん。俺が着いたときにはもう空の上だった」
「自分で聞いてくればいいじゃない。せっかく飛べるんだから」
「俺もそうしようと思ったんだが……」
パジーが言い淀んだその瞬間、
ズドンッ――!
空から炸裂音がした。かと思うと、気球の先で黒い影が一つ、地上へ落下していく。
「実験の邪魔じゃ、このクソ鳥!ひとつも割らせはせんぞ!」
百メートルの先から、死骸に追い打ちをかけている絶叫が降ってきた。
「俺が行ったら、冤罪で殉職する」
「なるほどね……でも、じゃあどうするの?ここで降りてくるまで待つ?」
「そうなんだよなぁー、悠長に時間潰してる訳にもいかねぇし」
すると、突然シバが立ち上がり、地上から耳をつんざくような大音量で叫んだ。
「おーい‼博士のおねえさーん‼」
「それ、向こうに聞こえっか?」
パジーが疑わしげに首を傾げるが、驚くことに、空飛ぶ椅子の上から反応が帰ってきた。
「……なんじゃい!ワッシを呼んだ奴がおるか!誰じゃ!」
「警察ですー‼」
「帰れぇー!政府の番犬めがぁー!」
パンパンと猟銃を宙に放って威嚇する。
すると、パチンと大きな音がして、一際大きかった風船が空に弾けた。
「しまった!」
バランスを崩した椅子は、斜めになり、高度をみるみるうちに落としていく。
そして、最終的に川沿いの原っぱのを十数メートル滑空した後、勢い良く不時着した。
「うわっ、航空事故です!」
「シバ、確保だ」
「まず生きてるか確認しよ」
三人は墜落の現場へ向かった。
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次話、イカれた博士を紹介します。
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