第2話 マーマン法

数日後……

壱の家に、宅配便が届く。

その大きな箱には、マーマン株式会社のロゴが目立つようにあった。

壱は少し恥ずかしいと思ったが、世間にはマーメイドが浸透しているため宅配の人も普通の表情だった。

よくよく考えてみれば、マーマンと一緒に街を散歩する人もいるくらいなので購入者を差別する風潮はもうないのかもしれない。


「はい、ご利用ありがとうございます!」


宅配のお兄さんが、笑顔で頭を軽く下げる。


「あ、はい。

 おつかれさまです」


「ありがとうございます。

 受取のサインをお願いしてもいいですか?」


「あ、はい」


壱は、用紙にサインをする。


「あと、マーマンを利用するにあたって同意書も必要なんですけど」


「同意書?」


「はい。

 まずこの用紙を見てください」


宅配のお兄さんは、真面目な表情で言葉を続ける。


「第一条、マーマンを大事にすること。

 第二条、マーマンの臓器摘出などに利用しないこと。

 第三条、転売などはしないことまた不要になった場合はマーマン株式会社に連絡し速やかに処分すること。

 第四条、マーマンにも心や感情があるため、それを無闇に傷つけないこと。

 第五条、マーマンを好きになった場合、マーマン株式会社に連絡し速やかにマーマンの国籍を作ること。

 第六条、マーマンで恋愛の練習相手にをすることは可とする。

 以上、これらを守れなかった場合、国際法により厳罰な処分を検討する。

 とあります。

 ちなみにクーリングオフは14日以内でお願いします。

 以上のことを守れますか?」


「えっと、そんなのあったんだ?」


「はい、ご存知ないですか?

 最近マーマン法というのが出来て設立されたことを……」


「そっか……」


壱は、迷った。

マーマン法など知らなかった。

昨日出来た法律。

それは、マーメイドを購入することで責任を背負うということだ。


「守れそうもないですか?」


「うーん。

 受取を拒否した場合、このマーメイドはどうなるのですか?」


「おまかせコースで、販売されるか……

 廃棄処分の場合もありますね」


宅配のお兄さんが低い声でそう言った。


「それは、可哀想だな。

 わかった、受け取るよ」


壱は、軽い気持ちで受取にサインした。

誰かと一緒に同居することになった。

そう思えばいい。

だけど、壱はこのときなにも知らなかった。

命の重さと大事さについて考えれていなかったのだ。

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