第27話 世界はそれでも終わらない27

 「異世界でFIRE! パーソナリティの荒巻あらまき火憐かれんです。


 今日はですね。またまた同じパーティのジョンさんが対戦を申し込んでしまいました。はい。お相手は『黒い喫煙者ブラック・スモーカー』さんです。有名ですかね」


 「こんにちは! ライリーです!」


 「うお! びっくりしたあ。服と肌が純白で全く気が付きませんでした。ええっとライリーさんはこういう動画配信はオーケーな方なのですか」


 「初めまして。リリィでーす!」


 「レイリーでーす!」


 「うおあ! うおあ! 突然現れた美人たちに火憐は困惑しています。いやー。美しい。瞳がブルーって本物じゃないですか。本物の美人ですよ。秋田県出身なのでしょうか。ところでルイリーさんって方はいないのですね」


 「私たちの国では『ル』って発音ありませんから」


 「ちなみにどこのご出身で」


 ライリーは人差し指を鼻の頭に当てて片眼を閉じた。


 「秘密、です」


 「うわ! 美人!


 というわけで。デイリー・ジョーンズvs.派鞍馬はぐらまさんの親善試合となります。ジョンさん頑張ってくださいねえ」


☆☆☆


 「神の実況長いなあれ」派鞍馬勇也が横目で荒巻火憐を見ながら言う。


 「あれでも最初出会った頃と比べればだいぶ短くなったのですけれどね」デイリー・ジョーンズが横目で荒巻火憐を見ながら言う。


 「じゃあ。始めようか。ちゃんと守護石持ってる?」


 「持っていません」


 「はあ!? 死ぬぞ。お金が無いのかな。それとも俺のことを舐めているのかな。


 仕方ない。リリィ! リリィの守護石を貸してやれ!」


 「貸せるものなのでしょうかこれは」


 「持ってたら復活とかもあるかもだし。リリィ頼むよ。リリィが殺されそうになったら俺の守護石を渡すからさ」


 「もちろん従います」


 リリィが空中から守護石を取り出し、派鞍馬へと手渡しで渡した。


 「ちなみにデイリー・ジョーンズ。今、リリィが守護石を持っていないからと言って、リリィに何かしたら償ってもらうことは約束できるかな。まず仲間に入ってもらう。そのあと半殺しにして『償いの沼』まで行って、お前とリリィとの命を交換してもらう。こういう条件でどうだ。クゥ?」


 「構わない」


 「じゃあ。勝負」


 デイリー・ジョーンズは槍を構えた。荒巻火憐との戦いの後、削り取ったので槍というよりスピアーに近い。


 派鞍馬勇也は息を吸って、火を吐いた。


 郷烈な火。巨大な火のたまがデイリー・ジョーンズに向かって飛んで行った。


 不意を突かれたデイリー・ジョーンズは槍を前に突き出すが、デイリー・ジョーンズのエネルギーでは火の弾は消えなかった。


 デイリー・ジョーンズが炎に包まれる。


 が、デイリー・ジョーンズはもちろん『Burning Energy』。火の弾では燃えなかった。


 すぐに火を飲み込み、身体へと吸収するデイリー・ジョーンズ。


 槍を抱えて前へと走り寄った。


 派鞍馬は口から黒い煙を出しながら、もう一度火の弾を吐いた。


 「『膨張フレア』」一言、火の弾に言い聞かせた。


 途端に膨張する火の弾。一気に。半径十メートルほどに拡がったと思ったら。


 更に膨張。半径五十メートルほどまでエネルギーが爆発する。


 ライリー。リリィ。レイリー。荒巻火憐。御領峯音。『モノトーン』。クゥ。


 傍観者全員が一斉に炎の爆発に巻き込まれた。


 「あ、やべ」派鞍馬勇也が言ったときにはもう遅かった。


 半径五十メートルほどの雪という雪は全部融けた。半径五十メートルほどの樹々は全て燃え焦げ落ちた。


 雪の下には何も無かった。ただの大きなクレバスが広がっていた。


 「まあ。俺は大丈夫だし。ライリー達も大丈夫だろうけれど。神のお嬢ちゃんとか、峯音さんとか大丈夫かな。ああやっちまった」


 荒巻火憐は浮いていた。御領峯音も『モノトーン』も浮いていた。


 サブスキル『空間』を用いてなんとか浮いていた。


 身体の衣服の表面は少々焦げていた。『開放オープン』を使ってなんとか回避することに成功した。


 クレバスへと落ちたのはただ一人。デイリー・ジョーンズ。


 落ちていくデイリー・ジョーンズを追いかけるようにクゥがクレバスの中へと入っていった。


 数十秒後。クゥの横で『空間』の力により、空間ごと浮いて持ち上げられたデイリー・ジョーンズの姿があった。


 デイリー・ジョーンズの衣服は焦げていた。吸収できる炎のエネルギーの量を遥かに超えたエネルギー量を真正面から受けていた。


 デイリー・ジョーンズは力が抜けて、下を向いたまま動くことが出来ていなかった。ゆっくりとクゥの『空間』の中に浮かんで空間に垂れ下がっていた。


 派鞍馬勇也の前まで引き上げられた。


 そのタイミングで。


 デイリー・ジョーンズは目を開き、派鞍馬勇也へ槍を突き出した。


 「『交差する絲クロスキルト』」派鞍馬勇也が一言そう言うと、デイリー・ジョーンズは空中で身動きがピタリと止まった。


 蜘蛛の巣に引っ掛かった蟷螂かまきりのように。


 「おもしれえなお前」一言派鞍馬勇也はつぶやいた。


 その槍の先から、更に炎を突き出して派鞍馬勇也の顔面へと炎を突き出すデイリー・ジョーンズ。


 そこへ。ライリーが真っ直ぐに飛んできて炎の槍を素手で捕まえた。


 「貴方たちもヘルプありの対戦なので私が参戦しても文句のつけようはありませんよね」ライリーが青色の目を光らせながらそう断言する。


 「あるじ様への瑕疵かし何人なんぴとたりとも許しませんので」


 ライリーが力をめると、デイリー・ジョーンズの炎の槍の先端がほろほろと崩れていった。


 デイリー・ジョーンズの出せる全ての技はここで終わった。


 「お前おもしれえな。クレバスに落ちて助けれた時点でお前の負けは決定したのに、助けられた後に不意打ちを食らわせに来たか。おもしれえおもしれえ。命のやりとりに恥も何も無いみたいだな。お前、何かを乗り越えてここまで来たな。プライドなんてもうとっくに捨ててしまったか。これは笑えないねえ。おかげでリリィのサブスキルまで使っちまったじゃねえか。いやあ。また凄いやつが居たもんだ。最初から守護石を持ってない時点でどこか欠けたやつかなとは思っていたけれど。何かを越えて、何かが欠けたかい。デイリー・ジョーンズ」


 「名前を呼んで頂き光栄です。これが僕の戦い方です。頭が悪いので戦えるだけ戦います。動けなくなったら死ぬだけです」


 「殺しはしないよ。命がもったいない」黒い息を吐きながら派鞍馬勇也は口走る。黒い息がデイリー・ジョーンズ全体を包み込む。


 「粒が揃ってるな。クゥの新しいパーティは」


 「決まりも規則も何もないもんでね」


 「殺しますか。主様」ライリーがデイリー・ジョーンズをきっと睨む。


 「殺さない殺さない。ただの勝負だから。試験でもなんでもない。デイリー・ジョーンズはそうでも無かったみたいだけど。俺が殺しちゃあもったいない。ライリーが殺しても同じことだ。


 さあ。守護石は返してもらおうか」


 「勝負の行方ゆくえは」


 「俺の勝ちだよデイリー・ジョーンズ。ただデイリー・ジョーンズは認めるよ。ただデイリー・ジョーンズはまだ弱い。せめて空を飛べるくらいにはなれよ。どうにかしてよ。青い空白い雲、俺の息は黒いけど。だあーはっはっは!」


 黒い煙を一斉に噴き出す派鞍馬勇也。デイリー・ジョーンズは守護石を空中へと差し出した。


 派鞍馬勇也は守護石を手に取ると、ライリーにぽんと手渡した。「リリィに持っていってやれ」「かしこまりました」


 「ところでどうしようか。もう地上がねえが。まあ、俺らが先に去るか。みねやまちゃんねるに出演出来て楽しかったよ。また会おうかデイリー・ジョーンズ。もしくはクゥ」


 「今度はオレとり合ってみてえもんだな。『黒い喫煙者ブラック・スモーカー』」


 「そいつは御免だな。『アイーダ』の『英雄』」


 派鞍馬勇也の周りにライリー、リリィ、レイリーが飛んできた。三人が派鞍馬勇也を抱きかかえるようにしてまた更に上空の空中へと四人は飛び立っていった。


 デイリー・ジョーンズはその様子をただじっと眺めていることしか出来なかった。


 デイリー・ジョーンズに絡み付いたいとが解けたのは、派鞍馬勇也が見えなくなって数分経った後のことだった。

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