始まりの森・交差する平原
第16話 神が見たいなら私を見なさい。
「
怜亜も覚えてると思うが、火憐は出会った時から普通の明るい女の子だった。それは火憐たちの修行に就いてからも変わらず普通の明るい女の子に過ぎなかった。
どうしてこの
もしも神の力で復活したとしたら、恐らくは神の力を持たざるを得なかった火憐の心の器も
神レベルの技なんて『アイーダ』に居るだけでも仰山見てきたしな。ただ、神の力を入れるだけの器は、火憐にしか見ることはできん。
恐らく、相当なものが見れるとオレは思ってる」
「見れたら、ね」
☆☆☆
☆☆☆
少女は少し長めの眠りから目が覚めた。
「あああああああああ!」
荒巻火憐の叫び声が交差する平原にこだました。
「火憐!」
「火憐!」
「あああああ……っと危ない危ない引かれるところだった」
「火憐。おま」
「何?」
「なんか身体が光っとるで火憐」
「うーん。なんかね。身体がとても軽いんだ今。何でも出来そうな気がする。思ったことが全部現実化しそうな気がする」
「それが出来たら神やな」あははと笑う御領峯音。
「よし。やろう。『
荒巻火憐が空間を左手一本で握る動作をする。
途端に空間にひびが入った。
「火憐。おま」
「ちょっと後にしてもらってもいいかな。
来いや。『赤髪』」
火憐が握り潰した左手を力を入れて内側へと持ってくると、左手に見えていた木々、山、そこに居た全てのものが交差する平原の下へと連れて来られた。
火憐の左手一本で。
平原が突然の残骸の墓場と化した中、火憐が呼びつけた本命の
「何が起きた!? ここはどこだ。がれきの山だ。……あれは荒巻火憐!」
「お頭あ! 荒巻火憐だ! 荒巻火憐が生きてやがった!」
「不死身か」
「不死身なら拘束するのみ。『
荒巻火憐の周囲の土から突然に岩が盛り上がってきた。
荒巻火憐の周囲に立ちふさがるかのように岩がせせり立ち、そのまま岩山の上部が崩壊した。
荒巻火憐はただ見つめていた。光り輝く身体を
虹彩が
数秒して、岩山に穴が開いた。右手には剣が握られている。
「……どうにかして拘束するんだ! こいつは不死身だ!」
「違う! 近付くなお前ら! 不死身より格上だ!」
「邪魔だな。このがれき。『
荒巻火憐は小さな空間をあちこちに作り、それを急激に膨らませた。
器用に
「行こうか。
荒巻火憐が叫ぶと、右手にあった剣は更に鋭く変化する。
荒巻火憐が動いた。
空間を移動し、
瞬時に。
同時に、剣を抜く
凌いだはずだったが。その
しかし、血も出ない。本人は気付かずに腕を動かして、腕の先に剣が無いことに気が付き、何が起きたかを理解した。
いや、理解できるはずが無かった。腕が無いのに痛みもない。
「
「『
榊原が叫んだ時には、一人目の存在が腕だけでなく上半身全てが無くなっていた。
肩まで伸びる髪をなびかせ、二人目の
途端に人が消える存在否定。
三人目。四人目。男。女。若い人。中年。少年。背が高い。背が低い。
何も関係なく、一人ずつ存在を消していく荒巻火憐。
笑いながら、一人ずつ。これ以上に無い楽しみを感じながら、一人ずつ一人ずつ、旅団を崩壊させていく。
剣を振る必要性も無いが、剣を振舞っていたほうが格好良いから細く変形した剣を振りかざしていた。
荒巻火憐の光に触れたものは死んだわけではない。ただ存在を否定されただけ。「ここに居てはいけないよ」と命令を受け、その通りに存在が消えただけ。
守護石も何も無く。魔法の効果も何も無く。スキル等の何かしらの効果も何も無く。荒巻火憐が命じた通りに存在だけが消えていく。
防御不可の絶対攻撃。
それを一人一人丁寧に。同じだけ残酷な悲劇を与え続ける。
荒巻火憐は舞っていた。一人一人と踊るように空間を飛んで行っていった。
テレポートしようとする者がいたら、テレポートする前に荒巻火憐が目の前にやって来ていた。スキルを使おうとする者が居たら、スキルを使う前に荒巻火憐の笑顔の姿がそこにはあった。
丁寧に。一人ずつ。
榊原は荒巻火憐が身体に光を纏って目の前に現れた時から覚悟していた。
その榊原を除き、
「荒巻火憐。お前にとっては全員が同じ人間。同じ人間にしか見えなかったと思うけれども、俺からしたら一人一人の全員の人生の責任を負っている。全員の名前を知っている。全員の性格を知っている。全員の人生を知っている」
「同じだよ。人間なんて。私以外」
「やっぱりお前を仲間に入れなかったほうが正しい選択だったみたいだな」
「過去なんてどうでもいいね。こういう帰結になったそれだけだ。
さようなら『英雄』さん」
荒巻火憐は右手に持っていた剣で榊原の胸を貫いた。
存在否定は使わずに、痛みを与え、剣をねじり回す。
「痛かった? ごめんね。これ以上の痛みは与えられないの。そう決まってるの。私が受けた分の痛みしか返せないから。本当にごめんね。もっと沢山のことをしてあげたいんだけどね」
榊原が持っていた守護石が光る。それを荒巻火憐は右足で踏み崩した。
榊原が前に倒れた。荒巻火憐は何もせずにじっと見ていた。
「もっと何かしたいな。何でも出来そうな気はするんだけどな。もっとやるべきことあるんだろうか。さてさて私は何がしたいのだろうね」
一人で腕組みをして考えている荒巻火憐の周囲には、誰一人として答える相手も、存在する相手も、同列に扱える人間など誰一人として居なかった。
「やること無いし寝るか!」
荒巻火憐は剣をほっぽり出して、交差する平原の中心でどさっと倒れ込み、すーすーと寝息を立て始めた。
荒巻火憐が一人で寝ている静かな平原を、数人だけが見守っていた。
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