始まりの森・交差する平原

第14話 遂にボス戦! 相手は『英雄』榊原! 強すぎるんだけど!

 【御領ごりょう峯音みねねが始まりの森ボス戦への条件をクリアしました。『交差する平原』へ向かってください。】


 一週間後。


 【荒巻あらまき火憐かれんが始まりの森ボス戦への条件をクリアしました。『交差する平原』へ向かってください。】


 三日後。


 【が始まりの森ボス戦への条件をクリアしました。『交差する平原』へ向かってください。】


☆☆☆


 「ほんまに火憐もクリアできたな。でも相手が榊原さかきばらじゃ『空間』だけじゃ話にならん。これから先も『空間』の技術は全て教える共に、お互いの『キズナ』の力を高めるしかない。榊原に勝つにはそれしか方法は無いんや」


☆☆☆


 一ヶ月後。


 『交差する平原』、上空。

 

 一匹の猫と一人の淑女がボス戦の戦況を見るために空中に座っていた。


 「怜亜れいあよう見とけ。峯音と火憐の成長した姿を目に焼き付けるんや。師匠はオレだしな」


 「私は幸運ラックスキルが発動するところが見たいんだけど」


 「良いとこ取りやな。幸運スキルの発動無しで勝つのが一番計画的に言えば順調と言えるんやけどな。サブスキルも三人とも全員交換し合っとるし。頑張ってくれや神の血筋と神の後継者」


 「あの……なんだ。妖精のような男子は特に話題にも上がらないのか」


 「あいつは『モノトーン』。転生者や」


 「量産型か」


 「それが凄いのなんのって。ここで言うてあれだけど、基礎ポイントが最弱やったんや。『モノトーン』の中でも。基礎ポイントはほぼぜろや。奇跡に近い遭遇や」


 「『モノトーン』に興味が無いから全く分からんが、それって何か良いことあるのか」


 「基礎ポイントがほぼ零で最高に弱いと、同じ経験値でもレベルの上がり方が段違いなんや。息吸って、吐いて。それだけで空気中の微生物を倒したということで経験値が与えられるレベルであいつは最弱なんや。


 だから、レベルは一億超えとるで。あいつが使う『モノトーン』に勝てる『モノトーン』はおらん。あいつが創り出す道具はこの世の最強の性能を持つものを創り出せるんや」


 「幸運に血筋に最弱か。面白い組み合わせ」


 「あいつらの師匠になれてオレは満足だ。ちなみに未来の怜亜がオレ達に会いに来とったで」


 「それを早く言え。一番我々にとっては大事だろ」


 「未来の怜亜がオレを見て泣き出したわ。多分、オレ。その頃はもうこの世にはおらん可能性が高いな。口には出さんかったけれども」


 「クゥがられる未来は私には見えないけれどな。『時間』の私でも」


 「何未来予測できるみたいな口調で話しとんねん。おこないさんでも詳細までは見えんと言うのに。


 始まるで。『英雄』さんの登場や……。ん。旅団やん。は? 一対一ちゃうんか。黒望団ブラック・ウォンテッドと戦うなんて聞いとらんぞ。未来の怜亜何しとんねん。あああもう」


 「よく分からないけれどなんかすまねえ」


☆☆☆

☆☆☆


 「あっらー。旅団ですわ。いつかの『モノトーン』の最大のピンチを思い出しますわー。『英雄』さんって一人で行動出来ないのかな。いつもお友達といないと寂しいタイプなのかな」


 「さてと『モノトーン』ライブ配信頼むで。ウチらの本気を見せて再生回数爆稼ぎや」


 「……僕も戦うはずなんだけどな。何でクゥさんにお願いしなかったの。ほら。あんなに撮影に好条件な場所で僕らを見物しているよ」


 「にしても見物人少ないな。史上最年少と思われる荒巻火憐がボス戦を戦うんやで。それも幸運系なのに。チケットでも売ればよかったのに」


 「……どうせ情報統制だろうね。これはこれで全く面白くないと思うけれども」


 「あ、『モノトーン』。言い忘れとった」


 クゥがいきなり『モノトーン』の傍に飛んできた。「何かずっとスマホ持たせるのもあれやし。実は猫だけど通信用のコンタクトレンズを付けとるんや。戦いはそっちで録画できるから生配信は必要ないで。どうせならコンタクトレンズから生配信しよか……と言いたいところやけど情報統制でどうせ遮断されるんやけどな。生配信は止めとこか


 じゃ、そういうことで」


 クゥはまた突然に消えた。『空間』で移動できる距離が三人の比ではなかった。


 「情報統制ってなんの話?」と荒巻火憐が当たり前に聞いてくる。


 「なんかなあ。つまんない話よ」適当にあしらう御領峯音。


☆☆☆

☆☆☆


 「どうも。ボスの榊原だ。はい。お久し振りです。じゃあ。ちゃっちゃとやっちゃうか。どちらからでもいいぞ。どっちから俺に立ち向かう? 誰が挑戦者になる? 決めていいぞ」


 「……じゃあ、僕から行く」


 「ああ。通っていいぞ。ボス戦クリアおめでとう。次。誰が来る?」


 「おい。お前まだ」


 「何だ? 御領の跡取りさん。いいぞ通って。お前も合格だ。俺は千里眼を持ってるから充分に分かるんだよな。お前らは強い。はい。俺の降参。通っていいぞ。次」


 「じゃあ、失礼します」


 「お前は駄目だ。荒巻火憐」


 「はい来ましたまたまた私だけ特別扱い。なんですか。なんなんですか貴方。峯音ちゃんや『モノトーン』に侮辱ぶじょくを与えているのが分かんないのですか。まるで相手にしないかのように振舞う姿勢めちゃくちゃうざいんですけれど。大人なのにボス戦の役割を真面目にせんか。この腰抜け」


 「俺は大人なんだ。大人過ぎるんだ。生き残るためにはどうでもいい戦いは避けるのが生き残るコツだろ。


 それにはっきり言おうか。初めて会った時から荒巻火憐以外に興味はない。強いて言えば荒巻火憐のメインスキル以外には興味が無い。


 荒巻火憐に否定されちゃったのなら殺すしかないんだなそれが。俺のギルドに入っておけば死ぬことは無かったはずなんだけどさ」


 「『四方閉鎖オール・クローズ』」


 荒巻火憐は一言そう言って。


 黒望ブラック・ウォンテッドに所属する有象無象の動きを全て空間に縛り付けた。


 「『魂脱出ソウル・バスター』って言っても効かねえか。峯音のメインスキルを共有していないわけがないもんな」


 「『モノトーン』。『閉塞クローズ』」


 荒巻火憐は地面から鋼鉄のつるぎを取り出して、空間から空間へと移動し榊原の目の前まで飛んで行った。


 刺し殺す。そうやって腕を伸ばそうとした時には。


 既に荒巻火憐の胸部には深々と剣が貫通していた。


 榊原は一歩も動かず、荒巻火憐が飛んでくる方向を予測して剣を突き出していた。


 「おい」


 榊原は荒巻火憐に問い掛ける。


 「おいおいおい。幸運ラック系。おい!」


 ぐりぐりと突き刺した剣をぐるぐると回転させていく。


 「ここで目覚めねえで何処で目覚めるんだ? 幸運系。お前なんだ、死ぬのか。その程度かおい。荒巻火憐!」


 剣を螺子ねじ回した後、荒巻火憐をそのまま地面へと叩きつけた。


 既に荒巻火憐は絶命していた。


 「死んじまったじゃねえか。どういうこった」


 「お、お頭。『空間』の呪縛も全て解けていやがる。本当に荒巻火憐は死んじまったのか。幸運系だから死に戻りとかあるんじゃ」


 「十分じっぷん間様子を見ようか。不死身は強化アクル系だから荒巻火憐にはあり得ない。死に戻りならあり得るかもしれない。そもそもが」


 榊原は口を閉ざした。


 「どうしたんでやんすかお頭」


 「いや。何でもない。それどころか十分もいらないみたいだ」


 荒巻火憐の身体がホログラムに溶けていく様子が見て取れた。


 荒巻火憐の旅は終わった。荒巻火憐は始まりの森にてゲームオーバーを迎えた。


 幸運ラック系と散々騒がれた少女の冒険は、こうして幕を閉じた。


 

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