純白の部屋

第10話 荒巻火憐は登場しません! 榊原さんと神さまが何か話をしているよ。『神』さまの登場だー!

 審議会は臨時会議を開いた。十一歳の荒巻火憐かれんが始まりの森にて急激に魔物に対する討伐数を増やしている事態を受けて、臨時に収集された。


 『満十六歳未満のいかなる人物も、始まりの森及びほか全てのダンジョンにおいてダンジョン攻略することを禁じる』という声明を全会一致で可決した。


 そもそも。異世界に入れる年齢が十六歳以上と定められている中で、当然の帰結となった。


☆☆☆

☆☆☆


 「へいらっしゃい。入りな。鍵は壊れてるんだ」


 「御領ごりょうさとるさん。久し振りです。榊原さかきばらすぐるです」


 「黒望ブラック・ウォンテッド! 久し振り! 『英雄』さんのお帰りだあ。うわー。嬉しすぎて窓の外で花火が鳴ってるよ!」


 「相変わらずここはゲームの中みたいですね」


 「異世界だから当たり前じゃん」


 真っ白な部屋。花頭窓かとうまどを長くしたような洋風な窓。そこから花火がどかどかと上がっている。


 永遠に。花火が途切れることは無い。全ての花火が菊色きくいろ花火。


 「で。どうしたの。ボクに何か用?」


 「荒巻火憐についてお話が」


 「缶ビールで良い?」


 この返しは「帰りなさい」と言われているようなものである。


 「地酒を持って来たので。どうですか」


 「本気なら白岳はくたけだよね」


 急に花火が消えた。空はいつの間にか夜になった。……そもそもが夕方に花火が鳴っていて着色していること自体がおかしいのだが。


 「んで。何の話なの」


 「荒巻火憐についてお話が」


 「だから誰なのそれ」


 「十歳で異世界に迷い込んできた幸運ラック系の少女です」


 「誰?」


 「幸運系なのですけれども」


 「幸運系がなんなのさ」


 「荒巻火憐が始まりの森のダンジョンクリアが認められないとの話を聞いて来まして。御領様から一言審議会に提言をお願いできますか」


 「そもそも十歳でダンジョンに入りこんでる時点で法律違反じゃん。なんでBANされないのその


 「運営側が送り込んできました。法律を破って異世界へと転移させました。貴方を殺しにやって来たそうです」


 「ボクを殺す!? そんな無茶な!」


 「荒巻火憐を始まりの森に留まらせるのは非常に危険です。幸運系がレベルが上がれば、恐らくは始まりの森のパワーバランスが崩れます。荒巻火憐一人で全体の平均値を大幅に上げてしまうことになり、誰一人としてダンジョン攻略が出来なくなってしまいます。そうなれば、異世界へ来ようと思う人間も減ってしまう」


 「はー。ボクを殺したいのか。『英雄』さんもかー」


 虹彩が幾重いくえにも重なった両目で榊原を見つめる。


 頬杖ほおづえを付きながら。自然、見下す視線となる。


 「ボク何か悪いことした?


 この世界、そんなに悪い?


 どこから直す? 自然数を有限個に戻そうか。それとも人間の女子と男子の発育のスピードを同じにする。それとも地球環境を平穏に戻す。地軸を直角に戻す。うーん。どれ?


 自然数を無限にしたのはさあ、人類が永遠に成長できるように願いを込めてそうしたんだけど。永遠にレベル上げ出来るよ。お金だって限界が無いから。ああもう面倒くさい


 なになに。何が問題なの」


 「自然とプログラムで幸運ラック系が出てきたということは、圧倒的な不幸が出てきたあかし


 「救われない奴を救おうとしたら自分が救われなくなるよ」


 「私は救おうとしているわけでないのです」


 「殺そうとしている?


 そんなに殺したい。そんなにボクが憎い? その娘にボクを殺させることを望んでいる。もしかして唯一の希望とかそんな感じ? その娘はそんなに強いの。あー怖い。


 ところで白って良いよね。百から一を引いて白。白で居る限りは永遠に成長できる。永遠に百には成らない。永遠に完成しない。永遠に成長できる。永遠に向上できる。最も幸せな状態が白なんだよ。


 『白弾ホワイト・ブレッド』」


 ばーんっと手で銃を作って榊原に向かって撃つ真似をする。


 榊原は死を覚悟した。


 「荒巻火憐に挑んでみてはいかがでしょうか。どちらが正しいのか。どちらが生き残るのか。どちらが君臨するのか」


 「あー! 思い出した! なんか炎上してTubeをBANされちゃった娘か! あの娘何したの。十歳で配信は早過ぎるよね。結局親や協力者の力なんだよねああいう未成年のTuberさん。ざまあみろって感じだね」


 「それがちゃんねるは消えてないのですよ。しれっと残しておいてあって。本人はみねやまちゃんねるで配信を続けると言っているのですが」


 「もしかしてオキルドさんの件、怒ってる? おこ? だからここまで来たの」


 「あれは間違いなく私の配置ミスです。オキルドは死んでも自然だった」


 「仲間が死んで良いなんて言っちゃ駄目でしょう。『英雄』。もっと仲間を大切にしようぜ」


 「ところで荒巻火憐の話ですが」


 「はあ。未成年Tuberさんが何か」


 「始まりの森のボスへの挑戦権を与えていただけないでしょうか」


 「法律的に駄目なんじゃないの」


 「立法したのは貴方です。裁量権も貴方です」


 「例外を認めるのは駄目でしょう。裁量権に関しては如何なる権力にも屈してはいけません」


 「彼女は幸運系スキルを」


 「あー。聞こえてきた。なるほどなあ。そうか。運営側も捕縛ほばく覚悟で火憐ちゃんを送った理由も分かってきたわ。火憐ちゃん大変ね。それが楽しくて仕方が無さそうだけども。


 それしか生きる理由が無いんだねあの


 そうかそうか。主人公だねえ。昔のボクみたいだ。だから同じ幸運ラック系か。そうか。もう法律とかの問題じゃないのかな。


 歴史がボクに変われとそう言ってるのかなあ。


 じゃあさ。『英雄』さん。


 あんたが最初のボスになりなよ。


 提案してきたの君だからね。死ぬつもりで来たんでしょ。それくらの覚悟で来たんでしょ。


 幸運系に挑んで、馬鹿みたいに死になさいな。それならボクは認めるよ。


 火憐ちゃんは別に殺しても構わないからね。ただのトンネルみたいに何の試練も与えずに始まりの森をクリアしちゃったら、ボクが『英雄』と火憐ちゃんを殺しに行くわ。そもそもの始まりの森なんかぶっ壊そうか。異世界なんて逃げ場も無くしてしまえばいいのかな。それがいいや。いい気がしてきた。よし決定!


 『英雄』か火憐ちゃんかどちらかが死ぬまでやらなかったら、この世界ごとぶっ壊すね。一から創造、それ神の仕事ね。さてボクちゃん忙しくなっちゃうかもね。


 あ、『英雄』頑張ってね! 絶対に生き残ってね! 神さまとの約束だよ!」


 


 


  


 

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