第9話 そうさそうさ。私を信じればそれで良いのさ。ところで峯音ちゃんやクゥさんは信じられるのかな。信じることで救われるんだよ

 「でもさあ。幸運ラック系スキルって一体なんなのさ。なんであんなにみんな騒いでるの。『アイーダ』の人は『政府が動くー』とかよく分かんないこと言ってたし。何。私って特別なの。


 なんなのさ」


 「……多分、相当珍しいスキルなんじゃないのかな。最強とかじゃなくて。現に火憐かれんはそこまで強い感じはしないし」


 「だよね。どう考えても『空間』のスキルのほうが強いよ。あれ神レベルだよ。それにチート玉とか持ってたし。クゥさんとんでもないよ。あの人。あの猫」


 「……ただ言えることは火憐の幸運系スキル『望んだ未来』のお陰で、僕が存在出来ているのは間違いないようだ。火憐から遠くに離れると魂だけになってしまうし」


 夜。き火の前で荒巻火憐と『モノトーン』が二人で語り合っていた。


 瞬間移動ホームランゲームを300回ほど終わらせて、ちゃくちゃくと始まりの森のボス戦へと近付くように努力しながら。


 ちなみに焚き火はライターで火を点けた。サバイバルも何もない。


 「幸運ラック幸運ラック系ってみーんな私のことをスキルだけの娘と思ってるのかな。全く私の本性を見てから近付いてくる人は本当にいるのかな」


 「多分、峯音みねねは幸運系だから近付いたとか、幸運系と出会ってしまったから火憐を利用しようとかは思っていないと思う。これは確かだし。どちらかというと火憐を守ろうとして『『アイーダ』に入らせてください』とか咄嗟とっさに頼み込んでいたのだと思う。


 峯音は大丈夫だと思う。スキルは聞かれたくなかったみたいだけど」


 「クゥちゃんはどう思う? やっぱ最初は私を仲間に入れて何かしらの『アイーダ』の発展のために使おうとかそういうこと思ってたのかな」


 「……どうだろう。でも。なんとなく『赤髪』さんと違うところは、幸運系にビビってないというか。荒巻火憐そのものを見て何となく勧誘に来たとかそういう感じだった気がする。


 なんというか。ただの優しさなのか。

 それとも、何かの使命感のようなものも感じられた。


 速攻でメインスキルも教えてくれたし。それに、幸運系が無くても充分強そうだし。『赤髪』よりも強く感じた。強いことに自信を持っているかのように感じた」


 「ていうかあれじゃない。チート玉を『アイーダ』全員分貰えれば私たち最強になれない? なんで私は思い付くのが遅いんだろうな。今度合流した時に訊いてみようか」


 「……多分、貰えないと思うよ。ちゃんと『キズナ玉』って言おう。火憐から『ウチに来い』と言われてから覚悟を決めたんじゃないかな。多分『アイーダ』には絶対に迷惑を掛けないつもりでクゥさんはいると思う。僕らは『空間』のスキルしか貰えないと思う。


 もしかしたら、クゥさんが僕たちに近付いたのは、『アイーダ』の総意では無くて独断で近付いて来たのかもしれない。


 家族会議の雰囲気が『もうこんなワガママ娘は放っておいて関わるのをめようよ』って雰囲気だったし」


 「うーん……ということはクゥさんは結構な覚悟を持って私たちとパーティを組んでるのかな」


 「……クゥさんは信じれるよ。多分、峯音とも上手くやっているだろうし」


☆☆☆

☆☆☆

 

 「もうバテたんか峯音」


 「あんさんとは重ねてきた年の瀬が違うんや。これって年の瀬を重ねて来たほうが言う台詞のような気がするけれ、ど」


 ずたんっと、御領峯音は倒れ込んだ。


 あかんやん。休憩なしで700回も戦闘しとったらそら疲れてこん? 私がへたれなん?


 それに『閉塞クローズ』と違って『収縮ラプス』のほうはかなり腕力がいる。『閉塞』の場合は目で定めた点までの、自分との距離にある空間を閉じればそれで自分の身体は勝手に前に進む。『収縮』のほうは空間そのものを握り締めて、そこにあるはずの空間を縮めて相手をどうにかする。


 圧縮したり。潰したり。集束させることも出来る。初めに見た、ゴブリンLを倒した際にクゥが行ったのは『収縮』のほうだった。


 ただ、700戦。クゥは教えるだけで全く手を付けようとはしなかった。


 「そうやない。そうやない」と言い続けて私の戦闘をじっと見ていた。


 『モノトーン』が私のそばでも具現化出来ていたらな……。こんなきつい役割を火憐に任せることが出来たというのに。


 そもそも火憐自身が修行せんと意味ないんちゃうと思ってしまう。


 なんで私が修行役なの。


 「ほれ。食い」猫が焼いた魚をくわえて持ってきてくれた。


 「腕が全く上がらん。あー。うー」そう言いながら木陰へともたれ込んだ。


 猫でも焚き火は出来るんだなあ。火起こしとかどうしたんだろ。


 『アイーダ』のサブスキルでも使ったのかな。


 そもそもがサブスキル一個で、私も火憐も『モノトーン』もよく生き残っている。


 私は震える腕で焼秋刀魚さんまをくわえながら、色々考えていた。


 魚をくわえる。猫だけに。


 「……火憐は。そういえばどうして火憐はスマホが使えるようになったんだろうか」


 「多分、情報統制が終わったんやろ。現世でのNKTとかの通信網で火憐にショックを与えるような情報は全て遮断されるようにセッティングが終わったんや。


 火憐のことをどうたたえようとも。火憐のことをどうののしろうとも、火憐のスマホには一切火憐の情報は流れてこんようになったんや。


 火憐には一切通告無しでな」


 「火憐には、何一つ変わっていないようなスマホ画面でも、与えらる情報は勝手に制限されているわけか」


 怖。「まるで実験みたいだ」


 「そうやで。社会実験そのものや。幸運ラック系スキルが現れるなんてそうそうおらんから。神になるまでの道筋はちゃんと国家が道筋をつけとるんや。


 国家というより現世。いや、こっちの世界も含めた全世界全てがな」


 ステータスを見てみた。始まりの森の魔物は大半がシンプルなゴブリンだらけなので、たいして経験値も上がらない。


☆☆☆

☆☆☆


『御領峯音』Lv.588

スキル:『災厄』

サブスキル:『空間』

魔法:169

攻撃:800

防御:902


☆☆☆

☆☆☆


 火憐からNINEが届いた。


 「300戦も戦ったよ! 偉いでしょ!」


 下には火憐と『モノトーン』が二人でピースして自撮りが届いた。


 ええなあ……。林間学校みたいやん。楽しそうや。


 年配者はきついもんやで。いつの時代も。今この時も。

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